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レズビアンのタレント、牧村朝子さんと対談「LGBTなど性的少数者が子どもを持つということ」(前半)

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
明智カイト×牧村朝子

レズビアンのタレントで同性パートナーと一緒にフランスで暮らしていた牧村朝子と、ゲイの活動家でいじめ自殺未遂経験者の明智カイト。全く異なる人生を歩む二人が日本とフランスのLGBT事情について語り合います。

※前回のインタビューはこちらです。

レズビアンのタレント、牧村朝子さんと対談「職場で事実婚・同性婚を想定した就業規則を作ってみました」

同性カップルは養子縁組、里親制度を利用することが可能か?

明智 今回はLGBTが子どもを持つ、ということについて考えてみたいと思います。

牧村 はい、よろしくお願いします。

明智 まずは基本的なところから。同性カップルにとって子どもを持つということは容易ではありません。生物学的に二人の間で子どもを授かることができないですし、生殖補助医療を行うにしても費用面・倫理面から抵抗があるという人が多い。

それで一つの選択肢として考えられるのが、いわゆる「養子」や「里子」をとるという方法です。日本には養子縁組や里親制度といったものが存在しています。

牧村 でも、同性カップルだと養子縁組で子どもを持つのは難しいですよね

明智 日本における養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の二つがあります。「普通養子縁組」の場合、親子関係は実親・養親ともに存在し、養子の年齢には制限がありません。一方で「特別養子縁組」の場合は、実親との親子関係は解消され、養親と養子は法律上実の親子になります。また、年齢は6歳未満までの子どもと限られています。

「普通養子縁組」のほうは配偶者がいるかいないかは関係ありませんが、「特別養子縁組」の制度を利用するには「配偶者がいること」が条件になっているので、同性婚が認められていない現在の日本においては、同性カップルが特別養子縁組の制度を利用することは難しいのです。

牧村 里親制度は使うことができるんでしたっけ?

明智 里親制度は自治体ごとに規定が異なりますが、特別養子縁組と違って配偶者がいなくとも利用することが可能です。また、特別養子縁組の場合は戸籍上の親子となりますが、里親制度の場合は戸籍上の親子関係が結ばれませんので、同性カップルの場合、どちらかが単身者として里親となる形で子どもを持つことが可能です。

しかし、東京都に関しては厳格な基準が設けられているため、都内で同性カップルが里親制度を利用して子どもを持つことはけっこうハードルが高いです。

牧村 どういうことですか?

明智 東京都は「東京都里親認定基準」において里親申込者の条件を定めていますが、そのなかの「家庭及び構成員の状況」という項目に以下のような記述があります。

(5)里親申込者は、配偶者がいない場合には、次の全ての要件を満たしていること。

ア 児童養育の経験があること。又は保健師、看護師、保育士等の資格を有していること。

イ 起居を共にし、主たる養育者の補助者として子供の養育に関わることができる、20歳以上の子又は父母等がいること。

まず、「配偶者がいない場合には」という記述があることからも分かる通り、原則として配偶者がいる、つまり「配偶者がいること」を想定していることが分かります。

次に、配偶者がいない場合の条件ですが、2つの条件を満たすことが求められており、資格を有していることや養育の補助ができる同居人が必要とされています。

牧村 この条件って正直かなり厳しいですよね?

明智 はい。ですから里親制度を利用できるのは実質、「配偶者がいること」に該当する場合にに限られており、未婚者や同性カップルは制度上は利用できても、実際には利用することができない、とさきほど言ったのはそういう意味です。

さらに、たとえ里親認定を受けることができたとしても、必ずしも里子を持つことができるとは限りません。認定を受けると里親のリストに加えられるわけですが、優先的にマッチングされるのは配偶者がいる方だったり、年収が高い方だったりするので、未婚者はどうしても優先度が低くなってしまいます。

日本ではいまだに「子どもは父と母で育てるべきだ」という考えが根強く、未婚者や同性のカップルが子どもを育てる、という発想があまり受け入れられていないんですよね。

牧村 出た。「伝統的な家族観」というやつね(笑)

子どものためにLGBT人材を「活用」するという考え方

明智 それで2014年9月の「東京都子供・子育て会議」で前述の「東京都里親認定基準」の「家庭及び構成員の状況」項目の(5)の撤廃を求める発言をしました。「社会的養護(*1)の観点からLGBTという人材をもっと活かしていくべきではないか」と。

  • 1:家庭において身体的理由や虐待やネグレクトなどが原因で適切な養育を受けることができない児童を、社会が公的な責任の下で養育する仕組みのこと。

日本の社会的養護は主に乳児院や児童養護施設などに支えられていますが、近年「育てる保護者のいない子どもに、もっと温かい家庭的保育を」という考えから脱施設化の動きが広まってきています。

しかしながら、アメリカ・イギリスなどの欧米各国では70〜80%の児童が里親家庭で育っているのに対して、日本では里親家庭に委託される児童は要保護児童全体のわずか12%(2011年度3月末)にとどまっています。実際、日本政府は国連から、要保護児童への里親家庭などにおける家庭的環境でのケアを推進するように勧告を受けているほどです。

ですから、同性愛者の権利うんぬんの前に、「子どものため」という観点からも里親制度をより利用しやすいものにしていくことはとても重要なことなんです。

牧村 同性カップルであっても里親制度をもっと使いやすくするためには、まず社会にある偏見を無くしていかなきゃダメでしょうね。「子どもにも人権はあるんだからLGBTの人に育てられるのはかわいそう」とか「ゲイの人が育てたら子どももゲイになる」とか。

さっきも「伝統的な家族観」みたいな話が出ましたけど、男と女の2人の親に育てられることが子どもにとって幸せで、そこから子どもが外れてしまったらかわいそう、みたいな考え方はもうやめて欲しいわよね。パパ・ママ・子ども、って形じゃない家庭出身の人たちは、もうすでにいるわけじゃない。それをみんなまとめて「かわいそう」扱いするのは、やさしさに見せかけた偏見だと私は思いますけどね。

(つづく)

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牧村朝子

【ブログ】

牧村朝子オフィシャルサイト

【プロフィール】

1987年生まれ。2010年、ミス日本ファイナリスト選出をきっかけに、杉本彩が代表を務める芸能事務所「オフィス彩」に所属。フランス人女性と結婚生活を送りながら、人間の性のあり方について各種媒体に執筆・出演を続けている。著書「百合のリアル」(星海社新書)ほか。

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『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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