Yahoo!ニュース

学校に行けない子どもが悪いのか?イケてない学校が悪いのか?多様な教育機会確保法(仮称)でどう変わる?

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
(写真:アフロ)

今国会において、保護者が作成した学習計画を市町村教委が審査・認定することを条件に、不登校の小中学生が通うフリースクールや家庭での学習を義務教育として認める法案が提出されるという報道がありました。

増え続ける不登校児

8月6日に文部科学省が発表した学校基本調査(速報値)によると2014年度に病気や経済的な理由以外で年間30日以上欠席した「不登校」の小中学生は、前年度より約3,300人多い12万2655人に上ることが分かりました。一方、NPO法人などが運営するフリースクールは法律上の位置付けや公的支援はないものの、全国に少なくとも約474施設あり、小中学生約4,200人が学んでいます。フリースクールに通っている子どもの多くは登校していなくても校長の裁量でそのまま卒業しているといいます。

しかし、フリースクールは学校外のため公的支援がなく、親は経済的負担に苦しみ、また運営も楽ではありません。その上、就学義務の関係で通わない学校に籍を置く二重籍問題も生じ、そのための混乱や軋轢は家庭と学校相互の関係にも不信を生じさせ、子どもに罪悪感も持たせました。このような現状から、学校だけでなく多様な学びが選べ、不利にならない仕組みが求められてきました。そこで、国会ではフリースクールも義務教育の場として認めて支援する動きがでてきています。

「多様な教育機会確保法案(仮称)」とは

今年5月27日に「超党派フリースクール等議員連盟」と「夜間中学校等義務教育拡充議員連盟」の合同総会が開催され、馳浩座長より「多様な教育機会確保法(仮称)」の試案が示されました。基本理念には「年齢や国籍に関わらず、義務教育を受ける機会を与えられるようにする」と掲げられています。

・詳しくはこちらから⇒「多様な教育機会確保法(仮称)」

この法案は、保護者がフリースクールや自宅で何をどう学ぶかを「個別学習計画」にまとめ、これを市町村教委が認定すれば、子どもを就学させる義務を履行したとみなします。修了すれば小中学校卒業と同程度と認める仕組みを想定しています。フリースクールの授業料は月額数万円かかり、経済的理由であきらめる親子も少なくないため、法案は国や自治体に必要な財政措置を求めています。

また、法案には戦中・戦後の混乱で義務教育を受けられなかった高齢者らが学ぶ「夜間中学」への支援も盛り込んでいます。入学希望者がいれば、公立の夜間中学の設置など必要な措置を講じるよう都道府県教委や市町村教委に義務付けています。このような背景には、小中学校以外で学ぶ必要のある人たちが増えてきていることもあるようです。

議連では今国会での法律の成立と、2017年度の制度化を目指していますが、自民党内には慎重な意見もあり法案の提出は厳しい情勢のようです。

「場」「年齢」「国籍」の3つの特徴

基本理念で「年齢や国籍に関わらず、義務教育を受ける機会を与えられるようにする」と掲げられているように、この法案には「場」「年齢」「国籍」の3つの特徴が挙げられます。

「場」:小中学校以外の、つまりフリースクール等でも義務教育としての普通教育を受ける権利を認める。

「年齢」:15歳を過ぎても、義務教育としての普通教育を受ける権利を認める。

「国籍」:外国籍であっても、義務教育としての普通教育を受ける権利を認める。

また最近では経済的支援が重要になりつつあります。子どもの貧困問題はフリースクールでも直面しています。一人ひとりの子どもが安心して学んでいけるように、学校教育と格差なく行われる支援をして欲しいと思います。ぜひ、具体的な財政措置がされることを希望しています。

子どもたちが安心して学べる機会を

文部科学省専門家会議「追跡調査」より(NHK論説委員)
文部科学省専門家会議「追跡調査」より(NHK論説委員)

私は中学生のときにクラスメイトから「ホモ」「オカマ」「女っぽい」「気持ち悪い」……などと言われていました。性的な部分を攻撃されるので、大人に相談することにはためらいがありました。また、いじめ被害の訴えをうまく大人たちに説明する自信もありませんでした。しばらく不登校になりましたが、親や教師に急かされるまま、二週間後に無理やり学校に戻りました。教師は「男らしくない君にも問題がある」と言い、親から「もう大丈夫だから」と聞いていた教室は、相変わらずの地獄でした。

中学を出て高校に進学した頃には、いじめの影響による心身症で引きこもりへ。そのまま高校中退をして、大学入学資格検定を取得後は大学の通信教育部を卒業して企業に就職しました。私は学校に通うことはできませんでしたが、自宅での学習は全く苦ではありませんでしたし、社会人になってからは何の問題もなく働き続けています。私個人としては学校の環境が悪かっただけではないのかと考えています。

学校以外の場で学習することが正式に認められれば、いじめその他様々な事情で不登校となっている子どもにとって、学び場が多様な教育機会の中から選べることになり、教員も無理に学校へ戻すのでなく、その子にあった選択を共に考えることになります。この法案が成立すれば、義務教育の場を小中学校に限定してきた戦後教育の大転換になります。ぜひ、制度化して欲しいと切に願っています。

『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

明智カイトの最近の記事