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捜査機関と児童相談所が連動し、わが子を人質に取られる。「人質司法サバイバー国会」報告(第4回)

赤澤竜也作家 編集者
誤った捜査の結果、長期間にわたり愛児と引き離された菅家かずみさん 撮影:西愛礼

ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)とイノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)の共同プロジェクト『ひとごとじゃないよ! 人質司法』のイベント『人質司法サバイバー国会』が11月10日、参議院議員会館にて行われた。報告記事の第4回目は、なにひとつ証拠がないにもかかわらず、虐待の嫌疑をかけられた菅家かずみさんのスピーチである。

2017年8月、生後7ヵ月だったAちゃんはソファーにつかまり立ちしたとき、後ろ向きに転倒、後頭部を打ってしまった。母親のかずみさんが抱き上げてあやしていると、突然息を大きく吸うや脱力したため救急車を呼ぶ。急性硬膜下血腫の診断を受け、大阪市立総合医療センターで手術を受けたのだが、その際、虐待(SBS/AHT・いわゆる揺さぶられっこ症候群)の疑いがあると児童相談所に通告された。10月には警察による家宅捜索と事情聴取が行われる。

事故から2ヵ月半後の11月、児童相談所から突然呼び出され、「Aちゃんを一時保護した」と告げられた。「施設入所に同意するなら面会を許可する」と通告され、泣く泣く承諾。翌週からの面会は乳児院での週一回1時間だけだった。施設入所措置承諾書への署名がのちのち菅家さん夫妻にとって多大なる苦難を招くことになろうとは知る由もなく、また知らされてもいなかった。

その後も児童相談所は捜査中を理由にAちゃんの家庭への復帰を進めない。

2018年5月、菅家さん夫妻は警察の事情聴取を受ける。脳神経外科の専門医に「つかまり立ちから後方への転倒により本件の硬膜下血腫が発生したと考えられる」と、虐待の可能性を否定する鑑定意見書を作成してもらい、弁護人から警察へ提出してもらった。

そんななか、9月27日、かずみさんは大阪府警に逮捕されてしまったのである。

取調室で「お前はウソつき」「息子は一生障がい者」と罵詈雑言

「人質司法サバイバー国会」でのかずみさんの言葉に耳を傾けよう。

「息子を虐待などしていないのに、事故から1年以上経ってから突然逮捕されました。残暑で蒸し暑い季節にエアコンの効いていない密室で取調べが行われました。乱暴な口調の男性刑事ふたりに密室に閉じ込められ、ブラジャーの着用は禁じられ、腰縄でTシャツの上から締め付けられ、身体の線が出る状態はとても気持ち悪く、わたしの人間としての尊厳が剥ぎ取られていくような気がしました。高圧的な態度の取調官が息子やわたしを下の名前で呼び捨てにしていたことも気持ち悪かったです。取調中はわたしを虐待犯と決めつけていて罵詈雑言の嵐でした。例えば『お前はウソつき、みんなそう思っている』、『子どもを返したら今度こそ殺される』、『息子は一生障がい者』、『お前は異常』などひどいものでした」

1年以上も経って、しかも事故であるという医師の鑑定書を提出しているにもかかわらず、逮捕して強引な取調べが行われた。「締め上げれば吐くだろう」という捜査機関の自白偏重の姿勢が如実に表れている。

取調べの録音録画は裁判員裁判対象事件と検察官独自捜査事件に限られているため、かずみさんの場合はなされていない。人権侵害の極みのような恫喝・面罵による取調べの証拠が残っていないのである。全事件・全過程の取調べ録音録画が義務付けられなくてはならないことをあらためて実証する事例である。

かずみさんの発言に戻ろう。

「事故とはいえ、息子が怪我したことの負い目は消えませんし、逮捕時は息子は乳児院に入所させられており、私たち夫婦からは引き離されていて、一日でも早く一緒に暮らしたい思いでした。ですので、取調官は息子を揶揄するような暴言ばかり言ってきたのかもしれません。もうこれ以上、だれもこんな体験しなくてよくなるような世の中になって欲しいです」

こう言って、スピーチを締めた。

かずみさんが釈放されてから、検察官が嫌疑不十分で不起訴の判断を示すまで3ヵ月もかかった。Aちゃんが乳児院から自宅へ戻るまでさらに3ヵ月かかり、親子分離は都合1年4ヵ月以上に及んだ。

「事故によって起こった」という専門医の意見を黙殺し、「頭部外傷=虐待」と決めつけた捜査機関と、それに連動する形で児童相談所が動いたことにより、親子は長期間にわたって引き離されてしまった。まさにわが子が「人質」にされてしまったケースである。

人格を否定する多数の言葉を吐いた捜査官の所属する大阪府警察本部からの謝罪は一切ない。事実無根の虐待の決めつけが、ひとつの家族をどれほど痛めつける結果を招いたのか。捜査機関は肝に銘じていただきたい。

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『人質司法サバイバー国会』の動画はこちらから視聴可能です。

https://innocenceprojectjapan.org/archives/4701

また、SBS/AHT(いわゆる揺さぶられっこ症候群)冤罪問題を追い続ける、関西テレビ・上田大輔記者がディレクターとして手がけたドキュメンタリー『引き裂かれる家族』は菅家さん家族の苦闘を記録しています。

https://youtu.be/WU20UIVMmIA

本年のギャラクシー賞を受賞した作品はいまならYouTubeで視聴可能です。

作家 編集者

大阪府出身。慶應義塾大学文学部卒業後、公益法人勤務、進学塾講師、信用金庫営業マン、飲食店経営、トラック運転手、週刊誌記者などに従事。著書としてノンフィクションに「国策不捜査『森友事件』の全貌」(文藝春秋・籠池泰典氏との共著)「銀行員だった父と偽装請負だった僕」(ダイヤモンド社)、「内川家。」(飛鳥新社)、「サッカー日本代表の少年時代」(PHP研究所・共著)、小説では「吹部!」「白球ガールズ」「まぁちんぐ! 吹部!#2」(KADOKAWA)など。編集者として山岸忍氏の「負けへんで! 東証一部上場企業社長VS地検特捜部」(文藝春秋)の企画・構成を担当。日本文藝家協会会員。

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