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テレ朝日株主提案「ワイド!スクランブルで幻冬舎の書籍を過剰に宣伝」。同社見城徹社長は番組審議会委員長

赤澤竜也作家 編集者
大下容子MCが「こちらの本でございます」と紹介(記者会見で配布された資料より)

テレビ局の株を買い集めて株主提案権を獲得し、報道機関としてのテレビに本来の役割を果たさせることを目的に結成された『テレビ輝け!市民ネットワーク』。

4月8日午後1時、共同代表を務める田中優子法政大学名誉教授・前総長と前川喜平元文部科学省事務次官、および事務局を担当する弁護士がテレビ朝日HDに対し、議案を提出した。

4月8日午後1時、テレビ朝日HDに議案を提出。左から前川喜平元文科省事務次官、阪口徳雄弁護士、杉浦ひとみ弁護士、梓澤和幸弁護士、田中優子法政大学名誉教授・前総長(筆者撮影)
4月8日午後1時、テレビ朝日HDに議案を提出。左から前川喜平元文科省事務次官、阪口徳雄弁護士、杉浦ひとみ弁護士、梓澤和幸弁護士、田中優子法政大学名誉教授・前総長(筆者撮影)

そのなかで子会社テレビ朝日が2023年10月17日に放送した『大下容子ワイド!スクランブル』と2024年3月1日放映の『羽鳥慎一モーニングショー』において、「番組審議会委員長が代表取締役を務める幻冬舎の本の宣伝、広告部分があると視聴者に疑い、疑問を抱かせる報道がなされた」と指摘していることがわかった。

ちなみに2023年10月1日より施行された改正景品表示法において、実際は広告であるにもかかわらず客観報道を装うステルスマーケティングは違法となっている。

書影や書籍そのものが4分27秒映り込む

『大下容子ワイド!スクランブル』で問題視されたのは午後12時17分から始まった「すべての都道府県訪れて女性が体験『ひとり旅』の本」というコーナー。

久保田直子アナウンサーが本の内容を追体験するVTRでは頻繁に書影、タイトル、出版社名が映り込んでいた。(記者会見で配布された資料より)
久保田直子アナウンサーが本の内容を追体験するVTRでは頻繁に書影、タイトル、出版社名が映り込んでいた。(記者会見で配布された資料より)

前半部分は『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』という幻冬舎が刊行した文庫本の内容そのままに、同局アナウンサーが現地へ行ってみたという趣向のものだった。

問題視されたのは、つどつど本の書影、もしくは書籍そのもの、本文などが映り込んでいること。現地ルポのVTRや担当編集者が販売戦略を語るシーンなど21箇所に及び、累計4分27秒に及ぶという。

そのほかにも、後半のスタジオ解説の際もコメンテーターの背後に書籍が並べて陳列されていて、カメラが解説者や大下容子MCへ向くたび映り込むようになっていたり、番組内で示された図表においても左上に書影が配置されるなど、直接的な宣伝効果を狙ったと言われても仕方ないような映像テクニックが随所に使われていた。

羽鳥MCは最初から最後まで本の宣伝に終始

『羽鳥慎一モーニングショー』で「宣伝、広告部分があると視聴者に疑い、疑問を抱かせる」と指摘されたのは「健康寿命を延ばしたい ロングブレス『無敵の100歳』」というコーナーだった。

羽鳥MCみずからが「糖尿を改善する可能性があります」「認知症の予防にも期待できるかもしれないと言うところです」と語った。(記者会見で配布された資料より)
羽鳥MCみずからが「糖尿を改善する可能性があります」「認知症の予防にも期待できるかもしれないと言うところです」と語った。(記者会見で配布された資料より)

幻冬舎が刊行した『無敵の100歳』という書籍のなかで紹介されるロングブレスという呼吸法を、著者みずからスタジオで実演してみせ、羽鳥MCやコメンテーターもやってみるという内容だった。

番組内で使用された「一日たった7分 7日間のロングブレス運動」という表題の図表は書籍内と同一のものであり、著者が「DVDが付いているので、見ながら毎曜日ごとにやってもらえれば」と語る背後では、書籍附属のDVDに収録されている映像がスタジオに設置されているモニター上に映し出されていた。

終始一貫、本の内容の紹介であったことに『テレビ輝け!市民ネットワーク』は疑義を呈している。

番組審議会の委員長が見城氏であるため自浄作用が叶わない

民放連の放送基準には「報道活動は市民の知る権利へ奉仕するものであり、事実に基づき、公正でなければならない」と記されており、ただ単なる商品の宣伝に公共の電波が用いられることは許されない。

本来であれば放送法に基づいて設置されているテレビ朝日の番組審議会において指摘がなされ、きっちりと是正されなくてはならない。ところが、その審議会の委員長みずから代表取締役を務める会社の商品が大々的に紹介・宣伝されていた。

議案提出後、記者会見に臨む『テレビ輝け!市民ネットワーク』の共同代表と事務局。田中優子氏は「これはテレビ朝日への攻撃ではない。励ましの気持ちでやっている」と語った。(筆者撮影)
議案提出後、記者会見に臨む『テレビ輝け!市民ネットワーク』の共同代表と事務局。田中優子氏は「これはテレビ朝日への攻撃ではない。励ましの気持ちでやっている」と語った。(筆者撮影)

もはやテレビ朝日に自浄作用がかなわないと考えた『テレビ輝け!市民ネットワーク』は株主提案において、「番組審議会が機能不全又はその恐れがある場合には、独立の第3者委員会を設立し、調査、公表する旨の定款を新しく追加する」という第2号議案を同社に提出した。

また第3号議案においては見城氏が20年以上にわたって番組審議会の委員を務め、委員長も今期11年目になることを指摘したうえ、「子会社の放送番組審議会の委員の任期(更新する場合も含む)を最長10年とする(最長10年に達している委員は直ちに退任すること)」とする定款変更を求めている。

報道機関たるテレビ朝日の自律性が問われているのである。

作家 編集者

大阪府出身。慶應義塾大学文学部卒業後、公益法人勤務、進学塾講師、信用金庫営業マン、飲食店経営、トラック運転手、週刊誌記者などに従事。著書としてノンフィクションに「国策不捜査『森友事件』の全貌」(文藝春秋・籠池泰典氏との共著)「銀行員だった父と偽装請負だった僕」(ダイヤモンド社)、「内川家。」(飛鳥新社)、「サッカー日本代表の少年時代」(PHP研究所・共著)、小説では「吹部!」「白球ガールズ」「まぁちんぐ! 吹部!#2」(KADOKAWA)など。編集者として山岸忍氏の「負けへんで! 東証一部上場企業社長VS地検特捜部」(文藝春秋)の企画・構成を担当。日本文藝家協会会員。

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