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罵倒、恫喝、脅迫、誘導 – 大阪地裁が提出を命じた特捜検事の取調べ録音録画にはなにが映っているのか?

赤澤竜也作家 編集者
4月7日、特捜検事への刑事裁判を求め大阪高裁に抗告し会見する山岸忍氏(筆者撮影)

犯人どころか被害者であるにもかかわらず、特捜部のでっち上げた証拠によって逮捕・起訴されてしまう。248日間にわたって大阪拘置所に勾留されたため、みずから創業した東証一部上場企業を手放さざるを得ず、資産75億6168万円を失った。

創作ではなく、実話である。

特捜部がでっち上げた証拠とは共犯者とされたふたりの供述。それらは罵倒、恫喝、脅迫、誘導など違法な取調べによってねつ造されたものだった。しかも、その様子は録音録画されていたのである。

18億円を横領したとして2019年12月に逮捕・起訴され、無罪が確定したプレサンスコーポレーション元社長・山岸忍氏が起こしている国家賠償請求訴訟において、大阪地方裁判所は9月19日、原告の求めていた取調べ録音録画の提出を命じる決定を行った。

「メディアに録音録画を提供すべきではない」

名古屋出入国在留管理局におけるウィシュマ・サンダマリさんの監視カメラ映像と同様に、被告・国は提出の申し立てに対して頑強に抵抗してきた。しかし、そもそも税金を使って行われた録音録画であり、見られて困るような取調べなどすべきではない。検察庁が隠したかったのは何なのか。そこにはなにが映っているのだろうか。

国賠訴訟や付審判請求などの司法手続を通じ、文字ベースではあるものの、密室のなかでの状況がある程度把握できるようになったので、ここに書きだしてみる。

なお「一方的に怒鳴り続けた」などの取調べの様子の描写は、2023年3月31日付の付審判請求の「決定」から採ったもの。つまり取調べ録音録画を視聴した「裁判官」が書いたものである。田渕検事の発言のなかで、裁判所が「怒鳴った」と認定している部分についてはゴシック体で表記する。(事件関係者のみ仮名を使用。肩書きは当時のもの)

田渕大輔検事は突然、右手を振り上げて机を叩いた

2019年12月5日、プレサンスコーポレーションの子会社社長だった小森さんは大阪地検特捜部に逮捕された。学校法人明浄学院の資金21億円を着服したとする業務上横領容疑だった。同日に明浄学院理事長の佐橋、不動産会社社長の山本さんらも逮捕されている。

特捜部は山岸忍プレサンスコーポレーション社長が事件の首謀者であると見立てた。山岸氏は明浄学院の土地取得のため、18億円の個人資産を貸し付けていたのだが、最初から横領して返済される計画だったと考えていたのである。犯罪行為によって戻ってくることを前提に、18億円ものお金を貸すなど普通に考えてもあり得ないのだが、特捜検事たちは本気でそう思っていた。

逮捕された山岸氏の部下である小森さんは、取調べの当初から、山岸氏の事件への関与を否定していた。

山岸氏は明浄学院本体に18億円を貸し付けたつもりだった。しかし、間に会社を噛ませていたこともあり、実際には明浄学院理事長の佐橋個人に貸し付けられてしまっていたのである。小森さんは「山岸氏には18億円が佐橋個人に行くとは伝えていなかった」と供述し続けていたのだが、取調官である田渕大輔検事は納得しない。

そんなやり取りが数日間、続いたのち、2019年12月8日の取調べとなる。その日2度目となる取調べが始まってから20分あまり過ぎてからのこと。

田渕検事は1枚のメモを小森さんに示し、なんのために作ったのか問いかける。すると小森さんは、

「自分がなにをしゃべったかを確認するため」

と答えた。

「ふーん。これは赤い字で書いてあるのはなぜですか?」

「赤い字で書いたのは?」

「うん」

「もう一回読んだときに書いてるからですね。その一回書いた後に」

「ふーん、これはあなたが書いた字ではないということはないですね?」

「私の書いた字ですね」

「うん。で、これは誰にもご覧、見せてないですか?」

「はい」

「これは小森さんの机回りから出てきたものです。あなたが逮捕された翌日、プレサンスにもう一度ガサをやりました。あなたの机から出てきた別の書類です」

「はい」

「さきほどのこの明浄って書いてある、物件はどこから入ってきたかで始まるこの文章、いろんなペンで添削が入ってます」

「はい」

「誰が書いたんです? あなたの字じゃないですよね」

「私の字じゃないですね」

小森さんは5ヵ月前に作成されたメモのことをハッキリと覚えていなかったに過ぎない。しかし、田渕検事はそうとらえなかった。

「なんでこんなものがあるの? いや、知ってるでしょ。なんでこんなものがあるんですか?」

「社内の同僚に相談をしたからですね」

「さっきしてないって言ってたじゃん」

「はい」

「で、なんであるの? なんで嘘ついたの?」

「嘘っていうか、同僚……」

小森さんがそのメモがなぜできたのかについて説明しようとした瞬間のこと。

田渕検事は右手を首付近まで上げてから鋭く振り下ろして、小森さんとの間にあった机を手で(叩いて)大きな音を出し、

「嘘だろ。今のが嘘じゃなかったら何が嘘なんですか」

と述べた。再度、確認しておくが、これは裁判所が書いた文章から採っている。国賠で国が証拠として提出した報告書(大阪地検総務部・谷口誠検事作成)では、右手を自身の顔の辺りまで上げ、その手を振り下ろして手のひらで机を1回叩くとなっている。

ちなみに国賠で原告が提出した2020年12月1日付け準備書面においては、「活字では表現し難いほど『バーンッ』という音が大きく響き渡る強さで机を強打しており、目の前で取調べを受けている小森に対して、十分すぎるほどの威迫となっている。強要罪などの決まり文句で言えば、『生命・身体にいかなる危害をも加えかねない気勢を示した』のである」と記載されている。

田渕検事は「嘘をついた」「口裏合わせをした」と決めつけ、被疑者を罵倒しはじめた

確かにこのメモには小森さん以外のプレサンス社社員の手による書き込みもあった。特捜部はこの手書きのメモについて、社長である山岸氏をプレサンス社が守るために口裏合わせを行っていた証拠だと考えていた。

「バレバレの嘘なんでついたんですか? あなた、両親に誓って、家族に誓って嘘はひとつもついてないと私に昨日約束したよね。なんでこんな嘘ついたの? これさ、相談どころじゃなくて、社長には言ってないって、色を変えて書いてあるよね。山岸さんの関与を否定するようなことが注意書きされてるよね。(中略)。こういうのを何ていうんですか? こういうのを何ていうんですか?」

「通謀虚偽」

「通謀、口裏合わせだよね。供述の口裏あわせだよね」

社内が一丸となって隠蔽工作を行っていたと決めつける。

実際のところはどうだったのか。このメモは相手に合わせて言っていることをコロコロ変えるクセのある小森さんのことを心配した当時の副社長が、部下に「小森の記憶の整理を手伝ってやれ」と命じたことにより作成されたものだった。そのため、小森さん以外の筆跡も残ってはいたものの、実際の出来事をより正確にトレースするための記載がなされているに過ぎない。

「いや、それは社員と相談しただけなので」

小森さんは真実を告げようとしたが、田渕検事は遮る。

「してんじゃん、ふざけないでください。はい。直接だろうが間接だろうが誰がどう言ってるかを共有し合って、口裏合わせをしたってことじゃないですか」

「口裏合わせ、事実を……」

「口裏合わせをしてるわけじゃない。まだそんなこと言ってんの。いや、ダメでしょ。嘘ついてたじゃない」

田渕検事は聞き入れようとしない。小森さんは、

「社長には再建資金(筆者注:学校への直接貸付)で説明してるんで」

「いや、そういうことじゃなくて、あなたの、あなたの内容とは違うことが書いてあるじゃないか、説明内容と」

「これは学校の……」

必死になって説明しようとした小森さんの言葉を遮り、

「あのさ、こんなもの見せられて、まだそんなこと言ってんの。いや、ふざけなさんなよ。ふざけないでくださいよ」と言い放つと、大声を上げ、

「反省しろよ、少しは。(中略)何開き直ってんだ。開き直ってんじゃないよ。何、こんな見え透いた嘘ついて、なおまだ弁解するか。なんだ、その悪びれもしない顔は。悪いと思ってんのか。思ってんのか。悪いと思ってるんですか。私は何度も聞いた、嘘を一つもついていないのかと。明らかな嘘じゃないか。何でそんな悪びれもせずそんなことを言えるんだ。なぜですか。なぜだ。大嘘じゃないか。よしんば、これで嘘を認めて、会社の中で口裏合わせしてましたと認めるならまだしも、そこからまだ悪あがきをするとはどういうことだ。どういうことなんですか。何を考えているんですか、あなたは。嘘じゃないですか。嘘つきましたよね。ついたよね」と、一方的に怒鳴り続けた。

(午後5時53分35秒から午後5時56分9秒頃まで)

ずっと黙っていた小森さんが社内で話をしていたことについては嘘をついたことを認めたうえ、

「ただ……」

と説明しようとするも、田渕検事はこれを遮り、引き続き大声で、

「ついたじゃないか。思いっきり嘘ついたじゃないか。何を言い訳するんだ、今更。だったら、ちゃんと話したけども、自分の考えを説明したに過ぎませんって言えばいいじゃないですか。なんで話してないとか嘘をつくんだ。(中略)添削まで入ってるじゃないか。同じものが小谷さんのところから出てきましたよ。口裏合わせじゃないか。何を言っているんだ。ふざけるんじゃないよ。ふざけるな。何てことを言うんだ、あなたは。何てことを言うんだ、あなたは。家族に誓って、両親(良心)に誓って、嘘をつかないって言ったのに、嘘をついてまだ言い訳するなんて。ひどいだろ、ひどすぎるじゃないか。(中略)こんなあからさまな嘘をついて、何でそんな顔をしてられるのですか。何でですか、答えなさい」

と、一方的に怒鳴り続けた。

(午後5時56分11秒頃から午後5時58分20秒頃まで)

この間、ずっと黙っていた小森さんだが、

「事実は実際に何も変えて言ってる訳ではないので」

「変えてるじゃないか。思いっきり変えてるだろうが」

「いや変えてない」

「変えてるだろ」

「自分の考えで……」

と自らの記憶の整理をしたに過ぎないと真実を告げようとする。

しかし、明浄学院の横領は山岸氏が主導したもので、メモはそのことを隠蔽するためにプレサンス社が一丸となって隠蔽工作をしたものだと誤った見立てに固執する田渕検事は、小森さんの話を再び遮り、大声で、

「これ以外にも嘘いっぱいついているだろ、私に。(中略)私はあなたの良心に少し賭けてみた。私は悪いあなたが出てきたら、今みたいな弁解をすると思いましたよ。でも、あなたが嘘をついたことを悔い改めたら、頭を下げると思ってました。でも、あなたはそれどころか、逆ギレじゃありませんか。しかも、そんな怖い顔をして。悪びれるどころか、嘘の上塗りをしてきたよ。何でそんなことができるの。何でそんなことをするんですか。ほかにも嘘をついてるだろ。あなたは嘘を一つもついてないと私に約束したんだよ。いきなりこれじゃないですか。何で嘘をつくんだ。なんでこんなことが共有されてるんですか、会社の中で。(中略)私に嘘をついてまで、何でこんなものが会社の中で共有されていたんだ。何でそんなことを隠す必要があったんだ」

と一方的に、ほぼ怒鳴り続けた。

(午後5時58分29秒頃から午後6時1分24秒頃まで)

これに対し、小森さんが、

「相談してはいけないと言われてたので」と話し、

「なんで相談してはいけないかを説明されてるだろ」

「はい」

「なんで嘘をついて、なんで共有してたんだ。なんで会社のなかでこんなことを共有してたんですか」

と問い詰められたため、

「会社で共有していたわけじゃない」と本当のことを言いかけると、田渕検事は、これを遮り、再び大声を上げて、

「してるじゃないか。(中略)あなたさ、私の顔、よく正面から見られるね。そうやって、大嘘ついて、私に対してよく正面からそうやって私の顔見られるね。そうやって言われてから視線を外すじゃないか。面従腹背っていうんですよ。馬鹿にし切ってるんじゃないか、こっちを、なめ切ってるんだろ。嘘をついたあなたが何でそんなに私の顔をにらみつけることができるんだ。なぜですか。悪いことをしたのはあなたの方じゃないか。何でそのあなたが私をにらみつけるんだ。言いたいことがあるなら言え。私は何度も確認したじゃありませんか、嘘はついてないですかと。何でこんな見え透いた嘘をつくんだ。社内で共有してまで。しかも、それを未だに否定するなんて。どういう頭の構造してるんですか。どういう神経してるんですか」

と一方的に、ほぼ怒鳴り続けた。

(午後6時2分5秒頃から午後6時4分20秒頃まで)

引き続き、田渕検事は時折大声を交えながら、終始強い口調で、

「あなた、端からこれ、ばれること承知で嘘ついたでしょ、ね。ばれるの覚悟で嘘をついてますよね。要するに嘘だ嘘だとばれてもあなたは全く気にしないという、そういう態度でこの取調べに臨んでるということじゃないですか。(中略)これだけじゃないでしょ、嘘ついてるのは。あなた、バレバレの嘘をついてるよね、いくつも。分かってて嘘ついてるよね。なぜですか。何でそんな嘘をつくの。なぜそんな嘘をいっぱいつくんですか。ほかにもついてますよね。どうですか。これ以外は全て本当のことを話しましたか。答えてください。答えてください。これ以外にも私に嘘をつきましたね。つきましたね。いくつも嘘つきましたよね。一つや二つじゃないよね」

と一方的に述べる。

(午後6時4分33秒頃から午後6時7分03秒頃まで)

続けて、それまでのような大声ではないものの、やや強い口調で、

「小森さん、一つや二つじゃないよね。これだけじゃないですよね。嘘ついたの。認めましょう。認めましょう。認めてください。認めなきゃいけません。ダメです。このままじゃ。これだけじゃないよね、こんなものじゃないよね、私についている嘘。認めましょう。まず、自分が嘘をついたことをきちんと認めて謝りましょう。それが人としても当たり前の礼儀じゃありませんか。そうだよね。謝ってください。分かりました、あなたは嘘をついても謝る気もないんですね。なぜですか」

と一方的に話し続けた。

(午後6時7分17秒頃から午後6時8分53秒頃まで)

大阪地検や大阪高検が入る大阪中之島合同庁舎。山岸氏が業務上横領に問われた刑事事件の公判においては、プレサンス社の取引先社長に対する末沢岳志検事の誘導と脅迫を繰り返した取調べの様子も明らかになっている
大阪地検や大阪高検が入る大阪中之島合同庁舎。山岸氏が業務上横領に問われた刑事事件の公判においては、プレサンス社の取引先社長に対する末沢岳志検事の誘導と脅迫を繰り返した取調べの様子も明らかになっている写真:アフロ

30分間、相手に一切しゃべらせず、罵倒、恫喝、脅迫、人格否定

小森さんが、相談したことは嘘をついたと述べた後、

「それ以外にも嘘をついてるでしょ?」と田渕検事から言われて、

「それはちょっと分からない」

と答えたところ、田渕検事は強めの口調を交えつつ、基本的には普通の調子の声で話しはじめた。ちなみに、ここから30分間、小森さんはひと言も言葉を発していない。

「いやいや、分からないじゃないよ。嘘ついてるかどうかはあなた自身にしか分からないじゃないか、本当は。あなたというか、一番あなたが分かってることじゃありませんか。それは分からない、何寝ぼけたこと言ってるんだ。一番分かってるのはあなた以外の誰でもないでしょう。嘘もついて、ほかにもついてるんでしよ。違うんですか。ほかにもいっぱい嘘つきましたよね、私に。小森さん、私にこれ以外にも嘘つきましたか、ついてませんか。これ以外には一つも嘘ついてないってもう1回、じゃまた約束できる。できないよね。自分で分かってますよね。これまで嘘の弁解をずっとしてきていることを。あなた自身が一番分かっている。(沈黙あり)黙秘ですか。小森さんひどくないですか、いくらなんでも。あまりにひどい。あまりにもひどい。私が当初思ってた小森さんのイメージとはかけ離れている、今のあなたは。(中略) Facebookも見ましたあなたの。すごいたくさんお友達いるじゃないですか。(中略)根っから悪い人に、あんなお友達いないでしょう。そのあなたが何で取調べでこんな嘘ばっかりつくんです。おかしいよ。(中略)なぜ嘘をついたかを言うと、あなたが一番隠しておきたいことを言わなければならなくなるからですか。それって、それって、あなたが大嘘つきになってもしょうがないようなほど大事なことなの。そうなんですか。山岸さんのことなんか言ってるわけじゃないんですよ。私、何度も言ってるじゃない、この事件は山岸の事件でもなくて、あなたの事件なんだから。あなたのことを一番大切にしなきゃいけないんだってば」

と一方的に述べる。

(午後6時17分23秒頃まで)

続けて、ここから、大声又はかなり強い口調になって、

「あなたのことをきちんと裁くには、あなたが事実をしゃべらなかったら正しく裁けないと言ってるでしょう。あなたが本当のことを言ってくれなかったら、あなたがどれだけのことをして、どこまでの非難を加えられなければいけないのかが、正しく判断できないじゃありませんか、こんな嘘ばっかりつかれてたら。だから私言ったじゃありませんか、何度も。なぜ今日分かってくれないんですか。何でこんな見え透いた嘘をつき続けるんですか。どうしてなの。(中略) しかも、ほかにも嘘をついてるんでしょ。ていうか、ついたよね。ついてますよね。肝心なこと」と述べ、

(午後6時18分30秒頃まで)

続けて、ここからは落ち着いた声に戻って、

「これも到底許されないことだけど、こんなことしてたら、プレサンスも役員全員逮捕されちゃいますよ、証拠隠滅罪で。どのみち終わりですよ、プレサンス。(中略)もうさ、あなた詰んでるんだから。もう起訴ですよ、あなた。っていうか、有罪ですよ、確実に。これまでの捜査で、一体弁護士さんと何相談してるんです。山岸社長が頑張れって言ってるよって言われて、それを真に受けてあなたが一生懸命嘘ついてるだけじゃないの。その先にどんなことが待ってるかも伝えられずに。いや、あなたこの罪、もう逃げられないよ。でも、まだ嘘ついて、心証どんどん悪くして、一体何がしたいの。いや、どっちみち、仕事なんかできっこないよ、あなたの言ってたとおり、無理ですよ。一部上場企業がこんな横領に加担した人間を雇い続けるわけがありませんよ。山岸さんがどうなろうとかかわらず。何を保証されてるのか知りませんけれど、無理だよ。最終的にどういう量刑になるかは知りませんよ、量刑の相場は弁護士さんに聞いてください。起訴するかしないかは、裁判にかけるかかけないかは、私達が決めることだから、で、もうあなたも確定してるから、確定してるから、逮捕されて、ここにいるんだから。逃げられると思ってるの、まさか。(中略)もうあなたはもう終わってるんだから、頑張っても無理。無理です。(中略)いや、うんうんとか言ってうなずいてばっかで、何一つしゃべりませんけれども、何かあなたの方から反論や言いたいことはないんですか。だって、ほかにも嘘ついてますよね。これってはっきり言って事件後のことじゃないですか。それはそれで十分、もうこれだけで、あなたの罪、一等重くなってますから、こんなことしちゃったせいで。だけど、こんなのまだかわいいもんですよ、その中でも。でも、あなたはもっと決定的な嘘いっぱいついてるし。早く認めた方がいいですよ。どうすんですか。あなたが頼りにしているのは、山本さんや佐橋さんが正しい手続を取って土地を売ってると思ってたっていう、その一点ですよね。自分の横領の責任を逃れられるのって。あとはお金の流れがそのまま行ってるかどうか知らなかったみたいなことを言いたいんでしょう。山本さんとそういう話でもしたんですかね。浅はか。そんなのばれない訳がないじゃない。でも、まだ諦めてないでしょう、小森さん。その顔、全然。そんな神妙な顔をして、僕を散々怒らせておいて、黙ってれば済むと思ってるんでしょう。だから、嘘をつくこと、あなたは何とも思ってないんですもの。嘘をつくことに良心の呵責がある人はそんな顔しませんよ。もっとつらい表情を浮かべるものですよ。で、こうやってばれた瞬間に、矢継ぎ早に、いや、でも中身は嘘じゃありませんから、なんていう言い返しをしてこないもんですよ。普通は、最初に嘘ついたことについて悔い改めて謝ってくるものです。あなた、まだ、さっきから私に対して一つの謝罪の言葉もない。それがあんたっていう人間ですよ。自分で悪いことをしておいても謝れない人間なんですよ。そうじゃないですか。そんな人間許すわけないでしょ、こっちが。あなたの評価、検察庁の中で日に日に悪くなってるよ。全然しゃべらなくて嘘ばっかつくから。それでいいの。それ、覚悟してるってことですよね。よもや、それを覚悟してないということはないよね。いや、それだってちゃんと自分の責任を取ってもらわなければ、当たり前でしょ。子供だって知ってます、嘘ついたら叱られる、お仕置きを受ける、当たり前のことです。小学生だって分かってる、幼稚園児だって分かってる。あんたそんなことも分かってないでしょ。(中略)いっちょまえに嘘ついてないなんて。かっこつけるんじゃね-よ。ふざけんな」

と、一方的に述べた。

(午後6時31分38秒まで)

念のために言っておくと、小森さん逮捕に引き続いてプレサンスの役員全員が証拠隠滅罪で逮捕されたという事実は存在しない。田渕検事が言うよう、メモが口裏合わせの証拠でもなんでもなかったからである。

事情聴取に戻ろう。その後、少し沈黙が続いた後、田渕検事は、再び大声を上げて、

「何とか言ったらどうなんです。あなたまだ心の中で反省できてないでしょう。嘘を認めようという気にもなってないでしょ。それが全然ダメだよ。何びびってんだよ。私なんか一つも怖くないでしょ。何にそんなにびびってんの。あなたほどの人間が私のような人間を恐れるわけないよ。見りゃ分かるよ」と、一方的に怒鳴り続け、

(午後6時31分54秒から午後6時32分55秒まで)

普通の調子の声に戻って、

「あなたは人生かかってるかもしれないけど、こっちは命賭けてるから、この仕事に。何でか分かります。人の人生を狂わせることがあるからですよ。いいですか、お試しで起訴なんてことはあり得ないんだよ」と言い、

(午後6時33分30秒から午後6時33分43秒まで)

その最後の言葉の途中から大声となって、

「お試しで逮捕なんてあり得ないんだよ。まず捕まえてみて、どうなるか分からないから、調べてみて、しゃべったら起訴しようとかじゃないんだよ。俺たちはそんないい加減な仕事はできないんだよ。人の人生狂わせる権力持ってるから。こんなちっぽけな誤審とかで人を殺すことだってできるんですよ、私らは。だから、慎重に慎重を重ねて、証拠を集めて、その上であなたほどの人間を逮捕してるんだ。失敗したら腹切らなきゃいけないんだよ。命賭けてるんだ、こっちは。だから、絶対失敗しないように証拠を集めて、何百人の人から話を聞き、何千点という証拠を集め、何万という電子ファイルを見て、何十万通ものメールを見て、これをしてあなた達を逮捕しているんだ。命賭けてるんだよ。検察なめんなよ。命賭けてるんだよ、俺達は。あなた達みたいに金を賭けてるんじゃねえんだ。かけてる天秤の重さが違うんだ、こっちは。金なんかよりも大事な命と人の人生を天秤に賭けてこっちは仕事をしてるんだよ。なめるんじゃね-よ。必死なんだよ、こっちは。私はあなたの人生を預かる人間として、ここに来てるんだ。そのあなたに嘘をつき続けさせることにはいかないんだよ。あなたの人生を預かってるのは私なんだ、今。これ以上あなたを痛めつけさせないでください。そんな空のうなずきしないでください、もう。小森さん、いつまでこんなこと続けるつもりだ。いつまで続けるつもりなんですか。シンプルなんだよ。やってしまったことはしょうがないじゃないか。関わっちゃったものはしょうがないじゃないか。何で嘘を塗り重ねていくんだ。終わってるんだよ。何とか言ってくれよ、小森さん。小森さん、何とか言ってくれよ。うぜぇと思うかもしんないけど、何とか言ってくれよ。何でこんな嘘つくんだよ。いっぱい。嘘まみれじゃないか。今日まで私が聞いた話、いっぱい嘘なんじゃん、そうだろ」と一方的に怒鳴り続けた。

(午後6時39分31秒頃まで)

大阪地検の取調室で「命賭けている」と絶叫した田渕大輔検事は東京高検検事兼東京地検検事を経て、甲府地検の次席検事という重責を担っている。

法廷でも再生された田渕検事の取調べ録音録画

提出が命じられた録音録画は5日分で合計18時間。まだまだあるのだが、これくらいにしておこう。

ちなみに田渕検事はずっと怒鳴っているわけではないという。この日の夜の取調べでは一転して優しい口調で自分の検事生活を自嘲気味に語っているらしい。その部分は国賠の国側提出証拠でも黒塗りになっている。アメとムチという人の心を支配する典型的な手法なのだろう。

この日の翌日である12月9日の取調べの当初、小森さんはまだ山岸氏の関与を認めていなかった。しかし、田渕検事は取引先社長である山本さんが山岸氏の関与を認める供述をしたと告げる。ちなみに山本さんについても末沢岳志検事による違法な取調べで虚偽自白をするに至ったと、山本さん自身が刑事事件の公判にて証言している。

そのうえで田渕検事は、

「会社とかから、今回の風評被害とか受けて、会社が非常な営業損害を受けたとか、株価が下がったとかいうことを受けたとしたら、あなたはその損害を賠償できます? 10億、20億じゃすまないですよね。それを背負う覚悟でいま、話をしていますか?」

と小森さんに問いかける。

激しい罵倒が続いても、なんとか持ちこたえていた小森さんだったが、冷静な言葉で自分の利害に関する誘導が行われた結果、虚偽供述を開始してしまったのだった。

この日の取調べの映像の一部は刑事事件の公判でも再生された。

そして無罪の判決文には「検察官の発言は、小森に対し、必要以上に責任を強く感じさせ、その責任を免れようとして真実とは異なる内容の供述におよぶことにつき強い動機を生ぜさせかねない」と記されていたのである。

いまだに謝罪はおろか、検証さえなっていない検察庁

山岸氏は著書『負けへんで! 東証一部上場企業社長VS地検特捜部』(文藝春秋)において、

「それまでの日常生活から突然、切り離されて拘置所にぶち込まれ、接見禁止で誰とも話せない時間が続くと、検察官は神様になる。閉鎖的な空間での孤独な日々は人を大きく変えてしまう。唯一、そばにいてくれる人こそ無二の支援者であるように感じてしまう」

と書き、現状の司法システムでは虚偽自白は避けられないという。

先進国ではあり得ないほどの長期勾留とそれに連動した取調べがこのような冤罪を生む元凶であるのは明らかだ。人質司法をやめようとしないこの国の刑事司法の闇は深い。

2010年に発覚した、村木厚子元厚労省局長をめぐる捜査での大阪地検特捜部主任検事の証拠改ざん事件の反省をふまえ、最高検察庁は2011年9月28日、「検察の理念」を公表した。

そこには、

「被疑者・被告人等の主張に耳を傾け、積極・消極を問わず十分な証拠の収集・把握に努め、冷静かつ多角的にその評価を行う」

「取調べにおいては、供述の任意性の確保その他必要な配慮をして、真実の供述が得られるよう努める」

と綴られている。

理念は絵に描いた餅なのだろうか。

山岸氏が行った大阪地裁への付審判請求は棄却されたものの、決定には、

「特別公務員暴行陵虐罪という陵虐行為に当たる」「被請求人(田渕検事)が上記行為に及んだ意思決定に対しては、強い非難を向けなければならない」「本件においては刑事処分として不起訴処分が相当であると判断したというにとどまり、被請求人の行為を許容したわけではない」と厳しい言葉が記載されていた。

しかるに検察庁は山岸氏に対して謝罪するどころか、再発防止のための検証すら行わず、知らぬ存ぜぬを決め込んでいる。もはや自浄能力がないのは明らかだ。

活字で読んだだけでも取調べの異常性は際立っている。実際の映像には小森さんの表情や田渕検事の声色、机を叩く音など、実態解明には欠かせない様々な情報が含まれているはず。

9月19日の弁論期日後の記者会見において、山岸氏は、

「自分たちがしたことですから素直に正々堂々と受け入れて、録音録画を提出すべきです。これ以上不服申し立てをして裁判を長引かせたりしたら税金の無駄遣いとしか思えない」

と語った。

彼の言うよう、国は即時抗告すべきではない。一日も早い取調べ録音録画の提出と、報道機関などによる検証が待たれるところである。

作家 編集者

大阪府出身。慶應義塾大学文学部卒業後、公益法人勤務、進学塾講師、信用金庫営業マン、飲食店経営、トラック運転手、週刊誌記者などに従事。著書としてノンフィクションに「国策不捜査『森友事件』の全貌」(文藝春秋・籠池泰典氏との共著)「銀行員だった父と偽装請負だった僕」(ダイヤモンド社)、「内川家。」(飛鳥新社)、「サッカー日本代表の少年時代」(PHP研究所・共著)、小説では「吹部!」「白球ガールズ」「まぁちんぐ! 吹部!#2」(KADOKAWA)など。編集者として山岸忍氏の「負けへんで! 東証一部上場企業社長VS地検特捜部」(文藝春秋)の企画・構成を担当。日本文藝家協会会員。

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