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第2次アベノマスク裁判 「裁判を起こした際、業者とのメールはバックアップで残っていた」

赤澤竜也作家 編集者
1次訴訟を経て開示された書類を示す上脇博之教授(左)と阪口徳雄弁護士(筆者撮影)

神戸学院大学の上脇博之教授がアベノマスクの調達に関する文書の不開示決定取消を求める裁判を起こしてから2年3ヵ月。国がほとんど捨ててしまったと言っている購入業者とのやり取りメールが、2021年2月22日の訴訟提起時にはバックアップファイルとしてサーバに保存されていたことが、5月10日付で大阪地裁に提出された国の準備書面から明らかになった。

いったいどういうことなのか。

行政文書はバックアップされたら行政文書じゃなくなる!?

上脇教授が起こした第1次アベノマスク裁判では、「1枚あたりの単価を開示せよ」との判決が確定し、調達単価が最高で150円(税抜き)、最低で62.8円(税抜き)と2.4倍の開きがあったことが明らかになった。

国は業者からどのようにして調達していたのか。真相を究明すべく起こした第2次訴訟であるが、メールで実質的な交渉が行われていたにもかかわらず、国は後ほど出て来たほんの一部のメール(いまだに開示はされていない)以外はすべて捨ててしまったと主張している。

しかも、調達に関わったすべての職員が自発的につどつどメールを廃棄していた、理由はメールボックスがパンパンになってしまうからだというのである。

https://news.yahoo.co.jp/byline/akazawatatsuya/20230425-00346846

今回、裁判所に提出された書面において、国はさらに新たな事実を述べ立てた。

「厚生労働省及び文部科学省においては、電子メールのバックアップファイルについて、各職員が執務用パソコン上で当該電子メールを「完全に削除」する操作をしても削除されない仕様になっており、当該電子メールの送受信日から1年間はバックアップサーバに保存されていた」

上脇教授が開示請求したときも、裁判を起こした際もメールはあったというのである。

じゃあ、「やっぱりありました」と出せば済む話だと思うのだが、

「情報公開法2条2項の『電磁的記録』とは、それを保有する行政機関において通常の設備、技術等により、その情報内容を一般人の近くにより認識できる形で提示することが可能なものに限られる」

から電磁的記録ではないし、仮に電磁的記録に該当するとしても、

「これらのバックアップファイルについては、当該電子メールの送受信者である職員を含め、厚生労働省及び文部科学省の職員にアクセス権限はなく、各職員が通常の業務に使用できるものではないから、『当該行政機関の職員が組織的に用いるもの』であるとはいえず、同項(情報公開法2条2項)の『行政文書』には該当しない」

と述べているのである。

行政文書がバックアップファイルになったら行政文書じゃなくなるから、不開示決定は違法ではないということなのか。

上脇博之教授は、

「裁判が始まって2年3ヵ月も経ってから、急にこんなことを言い出したのでビックリしました」

「そもそも、業務が終わってもいないのにメールを廃棄し続けるなど、あり得ません。一連の国の主張は不可解極まります」

と語る。

原告は当事者の証人尋問を見据え、アベノマスク調達業務の事情を知る者、開示請求に対応した人物などの名前を明かすよう当事者照会の申出を行った。

巨額の国費を投じて行われた事業の事後検証がまったく出来ない、おおよそ民主主義国家とは思えない異常な事態を迎えている。

今後の訴訟の進行が注目される。

作家 編集者

大阪府出身。慶應義塾大学文学部卒業後、公益法人勤務、進学塾講師、信用金庫営業マン、飲食店経営、トラック運転手、週刊誌記者などに従事。著書としてノンフィクションに「国策不捜査『森友事件』の全貌」(文藝春秋・籠池泰典氏との共著)「銀行員だった父と偽装請負だった僕」(ダイヤモンド社)、「内川家。」(飛鳥新社)、「サッカー日本代表の少年時代」(PHP研究所・共著)、小説では「吹部!」「白球ガールズ」「まぁちんぐ! 吹部!#2」(KADOKAWA)など。編集者として山岸忍氏の「負けへんで! 東証一部上場企業社長VS地検特捜部」(文藝春秋)の企画・構成を担当。日本文藝家協会会員。

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