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赤木雅子さんの裁判を強制終了させた岸田文雄首相が「やらなくてはならない」こと

赤澤竜也作家 編集者
認諾の翌日に行われた参議院予算委員会で野党議員の質問に答える岸田文雄首相(写真:つのだよしお/アフロ)

認諾にゴーサインを出していた岸田首相

政治家・岸田文雄氏の森友学園問題に対する態度は首相就任前からブレブレだった。

自民党の総裁選に名乗りを上げていた2021年9月2日、BS-TBSの番組のなかで森友学園問題の再調査の必要性について問われたところ、「調査が十分かどうかは国民側が判断する話」「国民が納得できるまで説明を続ける。これは政府の姿勢として大事だ」と言い切り、疑惑に切り込む姿勢を見せたかのような態度を示した。

しかし、安倍元首相が高市早苗元総務相を担ぎ上げる動きを見せると、9月7日には「すでに行政において調査が行われ、報告書も出されている」と述べた上、「再調査等は考えていない」と一気にトーンダウンする。

赤木雅子さんは10月6日、「夫が正しいことをしたこと、それに対して財務省がどのような対応をしたのか調査してください」と、公文書改ざん問題の再調査を求める手紙を発送。首相になっていた岸田氏は10月8日に「読みました。しっかりと受け止めさせていただく」と答えたものの、再調査の有無には答えなかった。

岸田首相は少なくとも赤木雅子さんの気持ちを「しっかり受け止めた」はずだった。

しかし、口から出た言葉とは正反対の行動を取る。

2021年12月15日、雅子さんが「夫の死の真相を知りたい」として起こしていた国家賠償請求訴訟の進行協議の席上、国側の代理人が突如「認諾」を表明したのだ。

裁判のなかで、証人尋問の話が出て来ていた最中の突如の打ち切り。原告の意思を踏みにじったのである。

岸田首相は前日である12月14日の夕刻に「損害賠償請求を全面的に認める旨報告を受けた」と認めている。(2021年12月16日参議院予算委員会)

「認諾」のゴーサインを出し、国との裁判を強制終了させたのは岸田首相その人なのである。

佐川氏への請求棄却判決があらためて突きつけたもの

残された佐川宣寿元国税庁長官への損害賠償請求は棄却された。

しかし、もともとこの訴訟には高いハードルがあった。

佐川氏は裁判の書面のなかで「公権力の行使に当たる国の公務員がその職務を行うにつき故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、国がその被害者に対して賠償の責めに任じ、公務員個人はその賠償の責任を負うものではないとすることは、最高裁判所の確立した判例である」と述べ、請求の棄却を求めている。

公務員が違法な行為を行っても、職務であれば賠償責任は負わないという鉄壁のような判例があるのである。

今回の判決を受け、あらためて今回の国と佐川氏への裁判は昨年の12月15日の国の「認諾」で終わっていたことを感じざるを得ない。

国との裁判を終了させ、真相解明を阻止するために使われた賠償金の原資は税金だ。

過去に国が国家賠償請求で認諾したケースは3件あるが、その額はもっとも高いもので厚生労働省の村木厚子元局長の起こした裁判での3777万円が最高額だった(2022年2月14日衆議院予算委員会・古川禎久法務大臣)。1億超えの今回はそれをはるかに上回る金額である。

国家賠償法において、職員に故意または重大な過失があったときは、職員個人に求償できると書かれている。赤木俊夫さんの残した遺書には「局長からの指示により」改ざんしたと書かれているのだから、今回のケースで国が支払った賠償額のいくばくかは佐川宣寿氏に請求できそうなもの。

しかし「重大な過失があるとは考えておらないところございまして、求償権を有するとは考えていない」という(2022年2月2日衆議院予算委員会・鈴木俊一財務大臣)。

さらに、これほどの多額の税の支出について、どのような議論が行われたのかについての文書がなにも残っていない。財務省と法務省が協議したそうなのだが、そのやり取りを記載した書面について、「当事者間ではこの準備書面(赤木さんの裁判に提出した書面)そのものを使っての協議ということでございまして、この書面以外のものを持っているというわけではございません」という。(2022年2月14日衆議院予算委員会・角田隆財務省理財局長)。

これらはすべて岸田政権下で起こったことだ。

統一教会問題などへの対処により岸田文雄首相は支持率の低下を余儀なくされている。過去の自民党政権の悪弊と決別せんとする意思も、またその能力もないと見なされているからである。

森友学園問題についてもまったく同じ事が言える。

岸田首相は認諾という禁じ手を使い、真相究明を阻んだ。過去と対峙する気概を持ち合わせていないと見なされてもしかたない。

国民の信頼を取り戻すためにやらなくてはならないこと。

それはまず、佐川宣寿氏の二度目の証人喚問の実施である。2018年に行われた証人喚問では「刑事訴追の怖れがある」として50回以上にわたり証言を拒否した。その後、佐川氏は不起訴となったうえ、検察審査会の審査を経たうえで、再度不起訴処分とされている。もう「刑事訴追の怖れ」はないのであるから、ありのままの真実を語ってもらえるのだ。

そして、もうひとつ。森友学園問題の再調査をするべく公正中立な第三者による委員会を立ち上げること。

これこそ、赤木雅子さんの気持ちを「しっかりと受け止める」ことなのである。

作家 編集者

大阪府出身。慶應義塾大学文学部卒業後、公益法人勤務、進学塾講師、信用金庫営業マン、飲食店経営、トラック運転手、週刊誌記者などに従事。著書としてノンフィクションに「国策不捜査『森友事件』の全貌」(文藝春秋・籠池泰典氏との共著)「銀行員だった父と偽装請負だった僕」(ダイヤモンド社)、「内川家。」(飛鳥新社)、「サッカー日本代表の少年時代」(PHP研究所・共著)、小説では「吹部!」「白球ガールズ」「まぁちんぐ! 吹部!#2」(KADOKAWA)など。編集者として山岸忍氏の「負けへんで! 東証一部上場企業社長VS地検特捜部」(文藝春秋)の企画・構成を担当。日本文藝家協会会員。

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