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赤木ファイル開示 公文書改ざん最初の指示は「安倍晋三、安倍昭恵、麻生太郎」隠しだった

赤澤竜也作家 編集者
冒頭には備忘記録として改ざんの経緯を記録したとある。(赤木雅子さん弁護団提供)

財務省本省より森友学園の国有地土地取引に関する決裁文書改ざんを強要されたことを苦に2018年3月7日に命を絶った近畿財務局の職員・赤木俊夫さん(享年54歳)。

彼の書き残した魂の叫びとも言うべき「赤木ファイル」がこのほど開示された。妻の雅子さんが国に対して起こした訴訟のなかでこのファイルの提出を求めてから1年3ヵ月もの時間が経っている。国はこれほどまでにサボタージュを繰り返し、なにを隠したかったのだろうか。(以下、役職名および所属は当時のものを使用している)。

なぜ財務省は公文書改ざんしたのか?

赤木ファイルの第一ページ目には「本省の対応」と記されていて、俊夫さんが財務省からの改ざん指示に対し、「現場の問題意識として既に決裁済の調書を修正することは問題があり行うべきではないと、本省審理室担当補佐に強く抗議した」と記すなど、何度も抵抗した旨が記載されていた。

その後は様々な公文書とメールが交互に綴られており、本省からのメールで細かな書き換えや削除、書類の廃棄などを命じられたことがわかるような体裁となっている。

メールは2017年2月16日午後11時16分のものから始まっていた。これは本省から転送されてきたもので、宛先は赤木さんや上司である池田靖統括国有財産管理官ら近畿財務局の4人。表題は「FW:近畿財務局の決裁のコピー」というもので、添付ファイルとして290217福島議員.xdwとある。

この福島議員とは民進党の福島伸享衆議院議員のこと。2017年2月17日の衆議院予算委員会で安倍晋三首相に質問し、「私や妻が関係していたということになれば、まさに私は、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということはハッキリと申し上げておきたい」という発言を引き出した人物だ。

福島議員から翌日の国会での森友学園の土地取引に関する質問通告があったため、本省から近畿財務局への問い合わせがあったものと思われる。

改ざん指示を命じられる10日前のメールが一通だけ「赤木ファイル」に残されていたのはなぜなのか。

これこそ赤木俊夫さんは安倍前首相の「私や妻が」発言が公文書改ざんの発火点と考えていたことの証左である。これまでも多くの識者が散々指摘しているが、やはり安倍発言が財務省をして改ざんに突き進ませた原点だったのだ。

改ざん指示は緻密かつ具体的だった

2018年2月26日、雅子夫人および義母とともに神戸市東灘区の梅林公園で咲き誇る梅を観賞していた赤木俊夫さんは、上司である池田靖統括国有財産管理官より電話で呼び出され、日曜出勤を余儀なくされる。

命じられたのは決裁文書の改ざんだった。

初めての公文書改ざん指示メールは、この日の15時48分に財務省理財局国有財産審理室の係長から送信されていた。宛先は小西眞管財部次長ら近畿財務局の4人。赤木さんにはCCで送られている。表題は「【重要・作業依頼】貸付特例承認の申請について」。まずは本省が近畿財務局に重要な作業を依頼するメールを見てみよう。

財務省が近畿財務局に決裁文書改ざんを指示した初めてのメールには「調書・経緯(マーカー済)」「森友学園の概要」といった名前のファイルが添付されていた。(赤木雅子さん弁護団提供)
財務省が近畿財務局に決裁文書改ざんを指示した初めてのメールには「調書・経緯(マーカー済)」「森友学園の概要」といった名前のファイルが添付されていた。(赤木雅子さん弁護団提供)

「本省内で保有している森友学園関係の書類(=行政文書)については、特例承認時の決裁(H27)だけなのですが、あらためて当該文書を確認していたところ、本省で作成されている調書はもちろん、近畿局からの申請に添付されている調書等(近畿作成)についても、今後開示請求があった際のことを踏まえると、現時点で削除した方が良いと思われる箇所があります」

少し説明をさせていただく。

財務省の決裁文書改ざん事件では都合14本もの公文書が書き換えられたのだが、そのうち13本は近畿財務局内での決裁のもので、原本もまた大阪に保管されていた。ただし「特例承認の決裁文書『普通財産の貸付けに係る特例処理について』」という文書だけは東京の本省決裁だった。なぜ地方のそれほど大きくない土地取引に本省キャリアの決裁が必要だったのか。それは金はまったく無いけど政治家には強いコネクションのある森友学園・籠池泰典氏に小学校を建てさせてあげるため、財務省が国有地を貸してあげたうえ校舎の建設を認めるという無理筋な取引を是認したからである。事業用定期借地とか売買予約契約とかいろんな裏技を使う、かなりムチャなケースだったため、地方の土地取引においては異例である本省決裁が必要だったのだ。

そして、森友学園事件の報道が火を噴くなか、唯一の本省保管の決裁文書を見てみると、激ヤバ情報が満載になっている。だから大阪の近畿財務局でもこういうヤバいところは削除してね、と本省は言うのである。

メールに戻ろう。

「当該箇所をマーキングしておきましたので、本省と近畿局内の間できちんと認識を共有させておくためにも近畿局の決裁文書につづられている調書等を修正・差し替えするととももに、当該修正後の文書を本省にメール送付いただけますでしょうか」

さて、どういうところがマーキングしてあるのだろうか。赤木ファイルに綴じられており、メールに添付されていたと思われる「これまでの経緯」という文章を見てみると、2ページ分くらいの分量の文章が網掛けされていた。その中には、

「本年4月25日、安倍昭恵総理夫人を現地に案内し、夫人から『いい土地ですから、前に進めてください。』とのお言葉を頂いたとの発言あり」

2014年4月25日、安倍昭恵氏が森友学園の籠池泰典理事長、諄子夫人とともに瑞穂の國記念小學院の建設予定地へ行った際の写真。この日の昭恵氏の発言が決裁文書にあり、最初の削除対象となる。(関係者提供)
2014年4月25日、安倍昭恵氏が森友学園の籠池泰典理事長、諄子夫人とともに瑞穂の國記念小學院の建設予定地へ行った際の写真。この日の昭恵氏の発言が決裁文書にあり、最初の削除対象となる。(関係者提供)

「産経新聞のインターネット記事(産経WEST産経オンライン、関西の議論)に森友学園が小学校運営に乗り出している旨の記事が掲載。記事の中で、安倍首相夫人が森友学園に訪問した際に、学園の教育方針に感涙した旨が記載される」

という記載がある。

これはマズい。

これではアッキーが「いい土地だから」と言ったうえ、塚本幼稚園でウヨ教育に感動して泣いてしまったから「特例を承認」したと読めてしまうではないか。

係長からのメールに戻ってみる。4行ほど飛ばすと、そこには、

「別添『森友学園の概要』というペーパーも本省内の決裁文書には綴られており、これも本省内では修正の必要があるのですが、本文書は近畿局の決裁文書上にもあるのか、あわせてご確認ください」とある。

さて、ここで言及されている森友学園の概要という書類は赤木ファイルにも綴じられている。見てみると、

「籠池泰典氏は日本会議大阪代表・運営委員」とあり、日本会議についての説明が続いたあと、「現在、役員には特別顧問として麻生太郎財務大臣、会長に平沼赳夫議員、副会長に安倍晋三総理らが就任」と書かれている。その部分にキッチリと網掛けしてあった。

これはヤバい。ヤバすぎる。籠池さんは安倍首相や麻生財務大臣と日本会議でつながっているから「特例を承認」したと読めてしまうではないか。野党の議員に見せた日には「激おこ」になってしまうことは火を見るより明らか。予算案通過が危うくなってしまう。そもそも昭恵夫人についての記述と重ね合わせると、安倍首相が首相も議員も辞めなくてはならなくなる。

この書類自体は2018年5月23日に公表の「書き換え前決裁文書」によって明らかだったが、赤木ファイルにより財務省が修正箇所を網掛けして近畿財務局へメールしていたことが判明。(赤木雅子さん弁護団提供)
この書類自体は2018年5月23日に公表の「書き換え前決裁文書」によって明らかだったが、赤木ファイルにより財務省が修正箇所を網掛けして近畿財務局へメールしていたことが判明。(赤木雅子さん弁護団提供)

なんとかしなくてはならない。政治問題になったらオレたちの首が危ないではないか。

かくなる理屈で財務省本省の幹部官僚たちは赤木俊夫さんのたびかさなる抵抗にもかかわらず、公文書改ざんという暴挙に突き進んだ。「赤木ファイル」を読み解くと、この日以降も複数回にわたって改ざんが行われ、過去の佐川宣寿理財局長との答弁に合わせた変更も行われるようになっていったことがわかる。いったん改ざんをはじめると、たがが外れたように「ここも、あっ、ここも」と、とめどが無くなっていった様子がうかがえる。

いまだ何も明らかにされていない公文書改ざん問題の真相

「赤木ファイル」は公文書改ざん指示の生々しい実態を明らかにした。その一方、誰がいつ、どのように改ざんを指示したのか、その具体的な命令系統は一切明らかになっていない。

2018年6月4日に公表された「森友学園案件に係る決裁文書の改ざん等に関する調査報告書」は改ざんの実行行為に至るまでの時系列をあえてぼかしており、そのうえ誰がどのように指示したのかまったく書かれていない。しかも財務省のなかでも理財局という部局のなかでなんとなく行われたというような記述で省内の上層部まで累が及ぶことを防いでいる。そのうえ、そもそも安倍晋三首相の発言がキッカケで首相夫人や政治家の名前を削除したことにも触れていないなど、極めて悪質かつ無内容な代物で、およそ調査報告の体をなしていない。

麻生太郎財務大臣は「赤木ファイル」公表を受けた昨日の閣議後の会見で、改ざん問題について問われ、「調査を尽くした結果を示したものであり、再調査を行うことを考えているわけではない」と述べたという。

思い出してもらいたい。財務省から赤木さんへの改ざん指示の最初のメールには麻生大臣みずからの名前を削除することにも言及されていた。そもそも麻生氏に「調査を尽くした」などと言う資格など毛頭なく、「どの口が言う」という感想しか思いつかない。

改ざんされた決裁文書は2017年5月8日、参議院予算委員会に提出された。財務省は「国権の最高機関」である国会を欺いたのである。

2018年7月31日、当時の衆議院議長だった大島理森氏は、記者会見において第196回通常国会をふり返る際、財務省の公文書改ざん事件や自衛隊日報問題を挙げ、「立法府の判断を誤らせるおそれがあり、民主主義の根幹を揺るがすものだ。国民に大いなる不信感を抱かせ、極めて残念な状況になったのではないか」と指摘。

そのうえで、「政府には、問題を引き起こした経緯や原因を早急に究明し、再発防止のための運用改善や制度構築を行うよう強く求めたい」と要望した。

財務省内部の調査では何ひとつ事実が解明されていないため、しっかりと真相究明するよう求めたのである。

しかし、この重みのある言葉は安倍政権によって黙殺され、現在に至っている。

福島第一原発事故のときの国会事故調のように、財務省公文書改ざん問題においても国会が独自に弁護士や有識者等の第三者による調査委員会を設置すべきなのである。事件や事故を起こした民間ではごく一般的に行われていることなのだから。

立法府はみずからを騙そうとした行政府の不正をいまだただすことができていない。われわれはそのことをしっかりと肝に銘じておかなくてはならないのである。

作家 編集者

大阪府出身。慶應義塾大学文学部卒業後、公益法人勤務、進学塾講師、信用金庫営業マン、飲食店経営、トラック運転手、週刊誌記者などに従事。著書としてノンフィクションに「国策不捜査『森友事件』の全貌」(文藝春秋・籠池泰典氏との共著)「銀行員だった父と偽装請負だった僕」(ダイヤモンド社)、「内川家。」(飛鳥新社)、「サッカー日本代表の少年時代」(PHP研究所・共著)、小説では「吹部!」「白球ガールズ」「まぁちんぐ! 吹部!#2」(KADOKAWA)など。編集者として山岸忍氏の「負けへんで! 東証一部上場企業社長VS地検特捜部」(文藝春秋)の企画・構成を担当。日本文藝家協会会員。

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