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豊中の旧籠池邸が取り壊し。森友学園系列保育園の建物も近日中に解体へ

赤澤竜也作家 編集者
瀟洒な家屋があった場所は更地となっていた(2019年5月7日、筆者撮影)

一昨年、6月19日の大阪地検特捜部による強制捜査、7月31日の籠池夫妻逮捕など森友学園事件報道の際、何度も現場レポートの舞台となった大阪府豊中市の旧籠池邸が取り壊された。

かつて多くの報道陣が出入りした玄関口への通路にはパワーショベルが置かれていた(2019年5月7日、筆者撮影)
かつて多くの報道陣が出入りした玄関口への通路にはパワーショベルが置かれていた(2019年5月7日、筆者撮影)

保釈後、5ヵ月で明け渡さざるを得なかった自宅

事件勃発時は籠池夫妻の居宅として利用されていたが、大阪拘置所に勾留されていた2017年7月20日、学校法人森友学園の管財人によって、役員の責任査定を申し立てられる。同年12月6日に大阪地裁が10億3千万円の損害請求権を認めたため、学園側は競売を申請。2018年7月11日に開札され、3千51万円で不動産会社が落札し、9月4日に代金を納付したため所有権が移転してしまう。籠池夫妻は大阪府内に新しい住居を見つけて転居したうえ、12月7日に買い主へ引き渡していた。

落札した不動産業者に自宅を明け渡す際、表札を外す籠池泰典氏と諄子氏(2018年12月7日、筆者撮影)
落札した不動産業者に自宅を明け渡す際、表札を外す籠池泰典氏と諄子氏(2018年12月7日、筆者撮影)
部屋にはちり一つなく、床はピカピカに磨かれていた(2017年12月7日、筆者撮影)
部屋にはちり一つなく、床はピカピカに磨かれていた(2017年12月7日、筆者撮影)

筆者は定期的に旧籠池邸の様子を見に行っていた。春先には確かにあった建物が忽然と姿を消していたため、近隣住民に尋ねてみると、

「しばらくは中古物件として売りに出されとったんやけど、買い手がつかんかったんやろうね。4月の半ばくらいから取り壊しが始まった。あいさつに来た業者さんの話では新しく4LDKの家を建てて6千万円くらいで売りに出すんやって」

と教えてくれた。

すでに他人の手に渡ってしまっているとはいえ、籠池泰典・森友学園前理事長にとって家族との思い出の詰まったこの家への愛着はひとしおだったようで、更地となった自宅跡の写真を見せると、

「むごい」

とだけ漏らし、絶句してしまった。

系列幼稚園も人手に渡り、保育園も風前のともしび

籠池夫妻の手から取り上げられたのは自宅だけではない。

森友学園系列の学校法人籠池学園が大阪市住之江区に所有していた土地建物は固定資産税滞納のため大阪市が公売を申し立て、2018年11月27日に売却決定。同年12月14日に引き渡しを余儀なくされた。

若き泰典氏の原点でもあった開成幼稚園に最後の別れを告げるため訪問(2018年12月12日、筆者撮影)
若き泰典氏の原点でもあった開成幼稚園に最後の別れを告げるため訪問(2018年12月12日、筆者撮影)
事件発覚から2年近くが経ち、2000平米の敷地には雑草が生い茂っていた(2018年11月28日、筆者撮影)
事件発覚から2年近くが経ち、2000平米の敷地には雑草が生い茂っていた(2018年11月28日、筆者撮影)

また高等森友学園保育園を経営していた社会福祉法人肇國舎は、所有している建物の賃借料未払いのため2018年7月13日、森友学園管財人により建物収去土地明渡請求の訴訟を起こされた。この裁判は2018年12月12日に原告の勝訴で判決が確定。2019年5月9日午前7時以降、いつでも強制執行が出来るような状態となっている。

森友学園創立の地で運営していた高等森友学園保育園の園舎。近日中に取り壊されるという(2019年3月5日、筆者撮影)
森友学園創立の地で運営していた高等森友学園保育園の園舎。近日中に取り壊されるという(2019年3月5日、筆者撮影)
桜の花のほころぶ園庭で談笑する籠池夫妻。いつまでも別れを惜しんでいた(2019年3月5日、筆者撮影)
桜の花のほころぶ園庭で談笑する籠池夫妻。いつまでも別れを惜しんでいた(2019年3月5日、筆者撮影)

なにもかも奪われても誇りだけは奪えない

泰典氏は静かに語る。

「すべての資産を失いました。刑事事件の裁判が進行中のため働くこともままならず、夫婦とも収入はありません。差し押さえの可能性があるため年金の受給手続きもしていない。そもそも銀行口座も作れないんですよ。家内が近所の農協窓口で普通預金の口座開設をお願いしたところ、理由も明かさず断られたんです。弁護士先生は抗議してくれましたが暖簾に腕押しでした」

「物質的なもので私から奪えるものはもうありませんからね。やられっぱなしのままでいるつもりもありません。国家がこんな状態のままでいいはずがない。お役に立つためにもう一踏ん張りしなきゃならんなと感じる今日この頃です」

諄子氏は意気軒昂だった。

「家がなくなってしまったのはそりゃ悲しいけど、失ったものをいつまでも引きずってても仕方ない。今は前を向いて生きています。お金? そりゃお財布の中はいつも寂しいもんですよ。でもお金がなくても不思議と生きていけるもの。以前は値札なんか見ることなく買い物してたけど、今はスーパーで半額セールを狙う(笑)。先日は主人が山で採ってきたタケノコが食卓に並びました。この年になってこんな経験が出来るなんて感謝感謝。絶対に負けませんからね」

不思議なほど明るく語る。

3月6日に初公判が行われた2件の詐欺事案は5月29日より大阪地裁にて審理を再開。以降、7月中旬まで週二回のペースで証人尋問が行われる予定である。

作家 編集者

大阪府出身。慶應義塾大学文学部卒業後、公益法人勤務、進学塾講師、信用金庫営業マン、飲食店経営、トラック運転手、週刊誌記者などに従事。著書としてノンフィクションに「国策不捜査『森友事件』の全貌」(文藝春秋・籠池泰典氏との共著)「銀行員だった父と偽装請負だった僕」(ダイヤモンド社)、「内川家。」(飛鳥新社)、「サッカー日本代表の少年時代」(PHP研究所・共著)、小説では「吹部!」「白球ガールズ」「まぁちんぐ! 吹部!#2」(KADOKAWA)など。編集者として山岸忍氏の「負けへんで! 東証一部上場企業社長VS地検特捜部」(文藝春秋)の企画・構成を担当。日本文藝家協会会員。

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