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教師がいじめの助けを求めた生徒を叱責。その3時間後に命を絶っていた。尼崎中2少女自死で第三者委が報告

赤澤竜也作家 編集者
尼崎市市政情報センターで行われた第三者委員会による記者会見(筆者撮影)

一昨年12月20日、兵庫県尼崎市で13歳の女児が命を絶った。尼崎市教育委員会の諮問を受け、昨年5月21日立ち上がった尼崎市いじめ問題対策審議会(第三者委員会)がこのほど調査結果を発表。自殺の背景に複合的ないじめと、学校側の不適切な対応があったことを明らかにした。

背景にあったクラスとクラブでのいじめ。担任も顧問も対処せず

まず第三者委員会はいじめがあったことを認定した。記者会見で示された報告書の概要をもとに、取材で知り得た情報を加味し、事案の推移を要約する。

Aさんは2学期よりクラスのグループからいじめに遭っており、学校側にもその事実を伝えていた。

11月1日に行われた生活実態アンケートの「最近、同級生から何か嫌なことをされたり命令されたり暴力を振るわれたりしたことがありますか」という質問に「時々ある」と答え、同月6日に実施されたマークシート式アンケートでも「友だちに嫌なことをされたり言われたりする」という問いかけに「すごく当てはまる」と回答していたのである。にもかかわらず、担任教諭は具体的な事実を聞き取ることはなく、注意深く観察することもなかった。第三者委員会の調査によると11月ころより「ブタ」「きもい」などと本人に聞こえるよう言うなどいじめはエスカレートしていったのだが、担任教諭はAさんが亡くなる5日前の母親Bさんとの懇談でも「人間関係に問題ない」と答えている。

また所属している女子ソフトテニス部はもともとトラブルが多発していた。Aさんはクラブ全体が仲良くなるよう努力し続けていたのだが、部活動に不真面目な態度でのぞむ生徒に注意を促したところ、11月から12月にかけてAさんはいじめの標的になっていく。顧問や副顧問は場当たり的な対応に終始し、根本的な問題解決に尽力しなかった。

12月18日の衝突とSNSによる集中攻撃

12月18日、もともとギスギスした雰囲気だった女子ソフトテニス部で複数の部員が生徒Cさんに「死ね」と言ったうえ、クロスに打つべきサーブを同人に向けて放つという事態が勃発。Cさんと仲の良かったAさんはLINEのステータスに何かを書き込んだところ、逆恨みをされることになる。

翌19日、Cさんの母親は顧問にトラブルへの対応を依頼。顧問は「死ね」とののしった複数の部員に事情を聞いた際、「Cの母親から連絡があったんや」と告げてしまう。

この日の部活動はきわめて対立的な雰囲気が漂っており、AさんとCさんが矢面に立つこととなる。複数の部員が2人の方を見ながら悪口を言ったり、にらみつけたりしたという。

その日の夜からLINE上でAさんは部員の一部から集中攻撃を受けることとなった。さらにクラスのグループからも誹謗中傷の書き込みをされてしまう。

なぜ少女はみずからの死を選んでしまったのか?

翌日の20日、Aさんとともに攻撃の標的になっていたCさんは学校を休んだ。不確かな情報伝達により、同学年で別のクラスの担任を持つD教諭は、Cさんの母親が学校に連絡を入れたことをAさんが言いふらしていると誤認してしまう。D教諭が組み立てた方針のもと、中学2年生の各クラス担任と学年主任は事態を収拾させるために、まずは関係する生徒にテニス部のトラブルについて口外させないよう指導することとした。噂が広まってCさんが登校しづらくなっており、沈静化させるためである。登校してきたAさんに学年主任がトラブルについて言いふらさないよう指導し、指切りを交わした。Aさんは「Cさんがかわいそう」と訴えたという。

この日、Aさんはクラスのグループから一方的に悪口を言われ続けた。終礼後には「直で言えや」「うっとおしい」と詰問されたが、Aさんは何も言い返さなかったという。

1時半ころのこと。期末懇談のためD教諭が教室に来た際、Aさんは「Cさんがかわいそうや」と話しかける。D教諭は「もう帰りなさい」と言ったが、Aさんは「30分後懇談空いてるやろ」と自分と話をしてほしい意向を示す。その際、そばにいた別の生徒も「Cさんがかわいそう」と発言した。

するとD教諭はAさんがテニス部のトラブルについて口止めしたにもかかわらず、口外したと判断。強い口調で叱責を始めた。

報告書には「本件生徒が発言しようとすると大声で言葉を被せて発言を阻止し、本件生徒を強く非難することを繰り返した」「興奮した様子で乱暴な言葉を使って大声で叱責し、一方の本件生徒は冷静に受け答えをしており、本件生徒の方が大人のようだった」と記載されているという。

ちなみに第三者委員会の調査によるとAさんが部活内の内情を言いふらしたという事実はない。

Aさんは学校のトイレの個室にこもってしばらく泣いたうえ帰宅。LINEのステータスメッセージに「限界、もう無理」と書き込んだ後、4時半ころに命を絶った。残されたA4の紙には「学校がしんどいです。もう無理です。ゴメンなさい。たえれませんでした」と赤色のマジックペンで書かれていた。一度目にしたら忘れられないほど大きく太い文字だった。

第三者委員会の調査が認定した自死に至る経緯とは

Aさんが亡くなった後、遺族の学校および尼崎市教育委員会に対する不信感は強く、調査はおろか議論すら一歩も前に進まない状態だった。

「尼崎市中2少女自殺 遺族置き去りの学校と教育委員会の対応に波紋広がる」

https://news.yahoo.co.jp/byline/akazawatatsuya/20180213-00081576/

とりわけ、遺族が公開を望んでいなかった、Aさんの亡くなった際の状況を尼崎市教育委員会が相談なく報道機関に開示してしまった件では、当初その事実を否定し続けており、遺族が何度も突き上げてようやく認める始末だった。

相互の信頼関係がなかなか構築できなかったため、第三者委員会の立ち上げが事案発生の5ヵ月後になってしまっている。本来なら関係者の記憶が薄れることのないよう、可及的速やかに調査開始されることが望ましいのは言うまでもない。

しかも、少女の使っていた携帯電話はパスワードでロックされ、その暗証番号は亡くなる直前に変えられていた。イジメられている状況を家族に知られたくないという強い意志がうかがえる。SNSに酷いことが書き込まれていることは推察できたのだが、遺族はその内容をうかがい知ることはできなかった。

第三者委員会が立ち上がったころ、遺族は事実解明ができず、うやむやになってしまうのではないかと不安でいっぱいだった。

そういった困難を乗り越えて出された調査報告書。その概要には自死に至る経緯として、

「本件生徒は何度もSOSを出していたにもかかわらず、教諭らはこれを汲み取って本件生徒の話に耳を傾けることはなかった。クラスでのいじめや部活でのいじめがエスカレートし、相当な精神的苦痛と周囲からの孤立を感じる中で、信頼していた教諭らにも話を聞いてもらえず、学年教員からテニス部トラブルを言いふらしているかのように扱われ、D教諭から叱責された。本件生徒は、このような状況の中で理不尽な叱責を受け、自分自身を否定されたと感じた結果、本学校そのものに絶望したものと判断される。このように複合的な要因が絡み合って本件生徒は自死をした」とまとめている。

母親のBさんは「私たちや学校、尼崎市教育委員会だけの調査では絶対に出てこなかった事実を明らかにして下さいました。第三者委員会の先生方には本当に感謝しています。聞き取りに協力してくれた生徒さんや保護者の方々に対しても同様に感謝の気持ちでいっぱいです」と語る。

こんなに悲しいことが二度と起こらないように

遺族は今年1月に報告書の内容を知らされたという。

「この報告を聞くまでいろんな胸のつかえがありました。なぜ、こんなことになってしまったのかわからない、原因がわからないという状態で、精神的に辛い日々がずっと続いていました。毎日、遺影を見ながら『どうして? どうして?』と思っていました」

「多くの方々のご協力を得て、ようやく何があったのかがハッキリしました。大人でもこんな負荷を与えられたら、辛くて耐えられません。13歳である子どもがすべてを1人で背負いこんでしまっていたんだなと思いました」

「誰かに心のうちを打ち明けることもなく自死を選んでしまいました。少しとどまって時間をおいて、顔を合わせて話ができるまで待っていてくれたら……。『辛かったね。助けてあげられなくてゴメンね』という思いを拭い去ることができません」

母親のBさんは事案発生当初より学校や尼崎市教育委員会に対し「犯人捜しをしてほしいわけではない」と言い続けていた。今回、複数の生徒がいじめの認定を受ける事態になったことについて、「学校が子供たちのSOSにしっかり耳を傾けて対応していれば、この様な出来事は回避できたはず」と話す。

「いじめをしたと認定され、指導されたという過去は消えません。認定されてしまった生徒さんたちもいずれ親になる日が来るでしょう。自分の子供がいじめを受ける、あるいはいじめる立場になるかもしれません。その時に、いじめ認定を受けた親という、あまりにも重い十字架を背負っていかなくてはならないのです。辛い立場になってしまうと思います」

「いくら悔やんでも相手が亡くなってしまっている。もはや『きついことを言ってゴメンね』と仲直りできない。認定されてしまった生徒さんたちは、しっかりと事実に向き合ったうえで、まっすぐな人生を歩んでいってほしいです」と語る。

第三者委員会は報告書のなかで、「再発防止に向けた提言」についても多くのページを割いているという。その概要は、

1、生徒のいじめに関する知識と理解の向上・早期発見のための教員らのいじめ感度の向上・いじめ対応のための学校体制づくり

2、青少年の自殺への理解・生徒への自殺予防授業の実施・学校における自殺予防体制の構築

3、SNSの特徴を踏まえた利用方法の周知・教員や保護者らによるSNSに関する知識のアップデート

4、生徒理解を踏まえた学級経営(担任と副担任の関係性)・開発的な生徒指導・部活動の在り方・スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの活用

といったものである。

いずれも火急の用で実行に移さなくてはならない提言だ。二度とこのような悲劇が起こらないよう再発防止策を速やかに実施すること。これこそが、遺族の願いなのである。大人の本気度が問われている。

作家 編集者

大阪府出身。慶應義塾大学文学部卒業後、公益法人勤務、進学塾講師、信用金庫営業マン、飲食店経営、トラック運転手、週刊誌記者などに従事。著書としてノンフィクションに「国策不捜査『森友事件』の全貌」(文藝春秋・籠池泰典氏との共著)「銀行員だった父と偽装請負だった僕」(ダイヤモンド社)、「内川家。」(飛鳥新社)、「サッカー日本代表の少年時代」(PHP研究所・共著)、小説では「吹部!」「白球ガールズ」「まぁちんぐ! 吹部!#2」(KADOKAWA)など。編集者として山岸忍氏の「負けへんで! 東証一部上場企業社長VS地検特捜部」(文藝春秋)の企画・構成を担当。日本文藝家協会会員。

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