Yahoo!ニュース

テニスのオフシーズンは、ファンにとってのオンシーズン? イベントを自ら立ち上げる選手たちの願いとは…

内田暁フリーランスライター
12月に浜松市で開催されたイベント。内山ら現役選手が集った(写真:主催者提供)

 テニス選手のオフシーズンは、日本のテニスファンにとってはオンシーズン……と言えるかもしれない。

 テニスの選手活動が「ツアー=旅」と呼ばれるのは言い得て妙で、1月から11月に掛けて選手たちはその大半を大会参戦と移動に費やし、ひと月以上一つ所に滞在することすらままならない。しかもランキング上位になればなるほど、参戦する大会はATP(男子)およびWTA(女子)ツアーに集中する。日本国内で開催されるATPツアーは10月上旬の楽天オープン、WTAツアーは9月の花キューピットオープンと東レパンパシフィックオープンのみ。つまりは日本のファンが、日本のトップ選手の姿を見る機会は実に限られている。

 この状況は、選手たちにしてみても矛盾を孕んだ歯がゆさだ。活躍するほどに戦いの舞台は日本を離れ、メディア報道などからも遠ざかる。そうなればますます、日本の人たちが自分らの姿を目にするチャンスは少なくなる。

 だからこそ、日本に居る今時期に国内でプレーを披露したいが、公式の大会等はない。それでも、選手たちが抱く「自分たちの姿を生で見て欲しい、日本でのテニス人気を高めたい」との切なる願いは、選手間の連携を強め、一つのムーブメントへと発展していった。

「誰かが用意してくれないのなら、自分たちでその場を作ろう!」

 若い選手たちを中心に強まるそのような機運の中から生まれたのが、昨年末に正式に発足した“全日本男子プロテニス選手会”であり、選手や元選手たちが主体となって開催される、ファンとの交流型イベントやエキシビションマッチである。

■地方から世界へ――自らテニス普及に乗り出す若手現役選手たち■

 それらこの時期に行われる選手主導のイベントで、最も大規模なのが『ヒートジャパン』だ。

 例年、12月中に2日に渡り東京・三鷹市で開催されているこの大会は、元全日本チャンピオンの増田健太郎氏が中心となり、彼の知己の選手数人により行われていた。

 それが今年は“選手会主催”という形を取り、参戦選手も大幅に増加。その数は、一日のみ参加の選手も含め総計12名に及び、試合形式もチーム対抗戦を取ることとなった。参戦選手のリストには、世界ランキング73位の西岡良仁を筆頭に、今季ツアー2大会でベスト8に入る大躍進を遂げた内山靖崇、そして選手会会長の添田豪や、円熟味を増す伊藤竜馬らが名を連ねる。なお、このイベントのチケットは既に両日ともに完売。ここで言及していながら恐縮だが、興味を持った方はぜひ来年観戦に訪れて頂きたい。

 このヒートジャパンは東京での開催だが、これら選手やコーチ陣主催のイベントに見られる一つの傾向が、大都市以外で行われる点だ。

 例えば、選手会の最年少理事である24歳の西岡は、2年前から同期選手二人と共に、自分たちの出身地でテニスクリニックを開いている。『地域活性化プロジェクト』と銘打ったこのイベント運営の熱源は、テニスファンと直に触れ合うことで、特に少年・少女たちの関心を喚起し、一層テニスを好きになって欲しいという情熱だ。

昨年の地域活性化プロジェクトは、西岡の出身地・三重で開催された。右から西岡、沼尻啓介、斉藤貴史。(著者撮影)
昨年の地域活性化プロジェクトは、西岡の出身地・三重で開催された。右から西岡、沼尻啓介、斉藤貴史。(著者撮影)

 

 あるいは選手会発足の中心メンバーである内山も、浜松市開催のイベントに毎年顔を出すことで、地方でのテニス普及を担う一人。「自分が札幌出身ということもあり、プロの試合を見る機会はほとんど無かった。それだけに、子供の頃にプロと打たせてもらった記憶とインパクトは、短い時間でも鮮烈に残っている」と幼少期を振り返る内山は、自身のその体験を今に還元しようとしている。

 これら既存のものに加え、今年は関西で新たなイベントが立ち上がった。兵庫県三木市の“ブルボン・ビーンズドーム”で開催される、選手およびコーチ主催のエキシビションマッチ&クリニックだ。

 『クリスマス大感謝祭』の名を冠するこのイベントは、文字通り12月24日開催。参加選手は、WTAツアー2大会優勝を誇る日比野菜緒に、ダブルスでツアータイトルを2つ持つ加藤未唯、さらには若手有望株の清水悠太や、全日本ダブルス優勝経験者で選手会発起人の一人でもある仁木拓人たち。彼・彼女らはいずれも、日頃からビーンズドームを拠点として練習に励む同志であり、それだけに「いつも応援してくれる地元の方たちに恩返ししたい」との想いが強い。

 エキシビションマッチ発足の着想は、「来季に向け、真剣勝負に近い練習試合をやりたい」という実用的な動機だったという。そこに「ならば、お客さんも入れようよ」、「ファンの方と一緒にテニスもやろう!」と種々のアイディアが盛り込まれ、『感謝祭』へと発展していった。

 このようなファンと選手が交流するイベントは他競技でも存在するが、テニスがある種独特なのは、関係者たちの純然たる想いを動力源とし、選手主導で行われるものが多いこと。

 それだけに参加・観戦する人々にも、選手たちの熱意が直接的に届くはずだ。

※記事中に触れたイベントのうち、『ヒートジャパン』、『地域活性化プロジェクト』はチケット完売。『クリスマス大感謝祭』の一部コーナーは既に定員に達しています。

★ヒートジャパン  

★テニスラボ・クリスマス大感謝祭

★地域活性化プロジェクト

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

内田暁の最近の記事