Yahoo!ニュース

全米オープン:終盤の「分析スタート」で初戦突破の大坂なおみ。続きが楽しみな『大どんでん返し』の物語

内田暁フリーランスライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

〇大坂なおみ(JPN)[6-4, 6-7, 6-2]A・ブリンコワ(RUS)●

 ベンチに深く腰を沈めると背をまるめ、両手で頭を抱えて、じっと下を凝視する――。

 マッチポイントを握りながらも取り切れず、タイブレークの末に第2セットを落とした後の、チェンジオーバーでの光景。大坂なおみの姿は深く落胆しているようにも、あるいは外界を遮断し、集中力を高めようとしているようにも見えた。

 

 そうして迎えた、ファイナルセット。

 コートに立つ大坂は、ポイントを奪っても落としても表情を変えず、淡々と次のプレーへと向かっていく。第3ゲームで瀕したブレークの危機をサービスで切り抜けると、続くゲームはリターンから攻め、ブレークに成功した。その次のゲームでもブレークポイントを握られるが、やはりここでもエース級のサービスを連発し、最後の山場を凌ぎきる。マッチポイントではバックの強打を叩き込み、ディフェンディングチャンピオンとして迎える初のグランドスラムで、初戦勝利をつかみとった。

 第3セットを迎えた時、ベンチに座る大坂の胸中は平静で、両手で抱えられた頭の中を巡っていたのは、いかに勝利をつかむかの算段だったという。

 「ファイナルセットは、私の十八番。分析タイムのスタートだから」。

 果たして分析の成果は、第1セットで14、第2セットでは28を数えたエラーが、第3セットでは8にまで減少した数字に映し出される。「とても緊張した」ままに戦い続けた初戦ではあったが、ファイナルセットは試合を通じ、最も平穏な精神状態でプレーできた8ゲームだった。

 いつもなら、最初の数ゲームで払いのけられるその緊張が抜けない中、大坂の脳裏をよぎったのは、2年前の全米オープン初戦……時のディフェンディングチャンピオンのケルバーを、自らが破った一戦だという。その時のケルバーがいかにナーバスだったか、当時19歳の大坂には見えていて、そして彼女は、挑戦者である特権を生かし勝利した。だからこそ、立場を変え自身がディフェンディングチャンピオンになった今、彼女は可能な限り、自身の硬さを相手から隠す。同時に、今や自分と戦う相手は常に「チャレンジャー」である事実に、不思議な感慨も覚えていた。

 ここ数年の、“挑戦者”から“女王”へと変遷する自身の旅を、彼女は「どんな結末を迎えるかは、私にも分からない書きかけの本」に例えた。その本の、ここまでの章にタイトルをつけるなら、それはずばり『大どんでん返し』。「みんなが、つい続きが読みたくなるような仕掛けが待っているの」と、彼女はいたずらっぽく笑った。

 

 ディフェンディングチャンピオンとして挑む初のグランドスラムの初戦は、大どんでん返しとまでは言わないまでも、先の読めないスリルに満ちた筋書きだった。

 その結末は、果たしてどうなるのか……? 

 確かに、続きが楽しみでしかたない。

※テニス専門誌『Smash』のFacebookより転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

内田暁の最近の記事