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ATPマスターズ1000でベスト8躍進の西岡良仁 その源泉は、経験則と“考える力”にあり

内田暁フリーランスライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 試合時間は1時間23分。与えたブレークポイントは、ゼロ。

 自身初のATPマスターズ1000大会ベスト8進出を決めた試合は、結果だけを見れば、あっけないほどの快勝だった。

 ただもちろん快心のその勝利は、偶然ではなく、経験と緻密な分析に根ざした、西岡の周到なるゲームプランの産物である。

 「前回やった感じと、彼の試合を観ていても、かなり相性が良いと思っていた。どうやったら自分のプレ―ができるか、完全に把握できていたので気負うことがなかたです」

 試合後の会見で、涼しい顔で勝者は言う。ランキング的には、38位のアレックス・デミノーは西岡より上ではあるが、昨年の対戦で快勝した時の感覚は身体にしっかりと残っている。両者は共に、軽快なフットワークによる驚異のコートカバー能力を武器とするが、スピンを掛けて相手を振り回すのを得手とする西岡に対し、デミノーは相手のショットの威力を活かす典型的なカウンターパンチャー。ならば、緩いボールを意図的に用いて相手を振り回せば、自分が優位に立てるというイメージが戦前から西岡の頭にはあった。

 加えて最近の西岡は、サービスゲームをキープする術も味得しつつあるという。170センチの小柄な身体が、サーブで不利なのは隠しようもない事実。だが彼には、サウスポーという強みと、何より、幼少時から培ってきた考える力がある。

 「サービスゲームをどうキープするかは、けっこう考えている。打ち方やトスの位置、コースや球種、ボールの回転量も試合中に目的を持って変えているし、クイックサーブもまぜている。サービスゲームはゲーム感覚でやっているので、布石をずっと打って最後だけ変えるなど、やることは色々あるので」。

 この日の“ブレークポイント・ゼロ”は本人にとっても多少の驚きだったようだが、それも重ねてきた日々の、必然の帰結である。

 マスターズレベルでのベスト8も、決して勢いのみならず、3度目の正直でつかんだ確かな実力の証だ。

「もっと上に行けると信じている」

 その強き心を指針とし、さらなる先を目指す。

 

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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