Yahoo!ニュース

四日市ATPチャレンジャー:元世界19位とのリベンジへ――復活の杉田祐一が3大会連続出場を決意した訳

内田暁フリーランスライター
7月のウインブルドンに予選を突破し出場し復活への道を歩みだし杉田(写真:アフロ)

「チョン・ヒョンとやりたかったんです」。

 間髪入れず返ってきたその答えは、にわかには不意をつかれつつも、その実、これ以上ないほどに彼らしい理由だなと得心のいくものだった。

 

 2大会連続でATPチャレンジャー決勝進出中の杉田に、現在四日市市で開催中のチャレンジャー出場の真意を問うた時のこと。

 2週間前のニューヨークのチャレンジャーで優勝した杉田は、翌週の成都大会でも決勝へ。連勝街道をひた走るその彼を、頂上決戦の舞台で待っていたのは、元19位のチョン・ヒョン(韓国)だった。今年2月以降、腰のケガのためにツアーを離れていた23歳のチョンにとっては、このチャレンジャーが復帰戦。状況は異なるものの、共にかつていた場所へと戻る道を走る中での初邂逅は、チョンに軍配があがった。

 この敗戦が、きたる全米OPに備え四日市チャレンジャー欠場も考えた杉田の、闘志に火を灯す。

 「これでは終われない。単純に(試合するのが)面白かったですし、ストレートでやられているので……このままUSオープンに入れないという想いもありました」

 その、やり残した何かにケリをつけるため、彼は3週連続となる酷暑の戦いを選びとった。

 2週間前のニューヨークで約2年ぶりに手にしたタイトルを、杉田は「キャリアの中でも、とても価値のある優勝」と位置づけていた。その理由は、約2年前に36位に上げたランキングを200位代後半まで落とした中で、挑戦し続け、ようやくかつての感覚を取り戻してつかみ取ったタイトルだから。

「苦しい2年間から、ここに戻ってこられたのは評価できる。大きな大きな意味を持つ優勝だったかなと思います」。

 踏破してきた苦しい日々を噛みしめるかのように、彼は久々のタイトルを評した。

 勝ち星に見放された時期は、「自分のテニスがわからない。どうやってポイントを取って、どう勝負を掛けていたのがわからない」という状態だったという杉田。2017年の快進撃によりランキングを大きく上げ、しかしそのために主戦場としたツアーで敗戦が続くなか、「良い流れが作るのが難しい」状態に陥っていたという。

 もがき苦しみ、迷走し、そして再び上昇気流を自ら生み……だからこそ、今もう一度あの高みに身を置いたなら、「もしかしたら踏ん張れるのかもしれない」との手応えも携える。不敵な笑みをこぼす杉田は、「戻りたいですね」と静かな口調に実感を込めた。

 そのかつていた場所に戻るためにも、似通った道を歩むチョン・ヒョンと戦うことは、今の杉田にとって単なる再戦以上の意味を持つのだろう。

 杉田の想いを叶えるように、先週の決勝で戦ったばかりの2人は、本日(9日)四日市チャレンジャーの準々決勝で相まみえる。

※テニス専門誌『スマッシュ』のFacebookから転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

内田暁の最近の記事