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3回戦で敗退の大坂なおみ。頭痛、疲労、混乱する思考……“グランドスラム第1シード”に潜む魔物

内田暁フリーランスライター
(写真:ロイター/アフロ)

女子シングルス3回戦 ●大坂なおみ[4-6 2-6]K・シニアコワ○

 真夏を思わせる日差しがコートをオレンジ色に輝かせるなか、快音を響かせボールを打ち抜く大坂の姿は、好調そのものに見えました。

 序盤で大きくリードを許した過去2試合とは異なり、サービスゲームを快調にキープした大坂は、続くシニアコワのサービスゲームでも、左右から強烈なリターンを叩き込みブレークチャンスを手にします。結果的にブレークには至らなかったものの、大坂が世界1位の実力を発揮し勝利も手にするだろう……そのようなやや予定調和的な空気が、コート・スザンヌ・ランランを満たすようでした。

 

 その後も大坂の優勢は続くも、試合が進むにつれ徐々に様相が移り変わり、均衡状態へと向かっていきます。相手がショットのバリエーションを増やしたのに対し、ミスが増えていく大坂。特にバックの打ち合いでは、打ち負ける局面も目立つようになりました。

 そうしてついにはゲームカウント4-4からの大坂サービスゲームで、力関係は反転します。このゲームをブレークされた大坂は、続くゲームでは0―40としながら、シニアコワの勇気あるドロップショットに反撃の芽を摘まれました。

 第2セットに入ると、大坂のミスが飛び出すタイミングはさらに早まるようでした。このセットでは2度のブレークを許し、最終スコアは4-6,2-6。第1セットに7度あったブレークチャンスを逃し、第2セットでは一度も反撃の機を作ることなく、第1シードは、うつむいたまま観衆に手をかざしコートを去りました。

 試合後の大坂は、敗戦に「ものすごく落胆」しながらも、同時に「この敗戦は、私にとってよかったこと」だともこぼします。

 今大会が始まって以降の大坂は、ストレスからか頭痛に悩まされていたこと、極度の緊張状態のためか寝ても疲れが取れなかったこと、そして疲労が蓄積したまま迎えた3回戦では、いつもなら拾えたドロップショットを追えず、打ち勝てるはずのフォアのラリー中にも「なぜかストレートに打って、不利なバックの打ち合いに自ら持ち込んでしまった」と打ち明けました。

 そしてそれらを経験した今、彼女は再び夢に挑戦するために「もっと必死に練習しなくてはいけない」と誓いを新たにしたと言います。

 初めて身を置く環境に対する、自身の心身の反応を貴重な財産とし、大会後の世界1位の地位も確保したまま、彼女はローランギャロスを後にしました。

※テニス専門誌『Smash』のFacebookより転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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