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全米オープンテニス:第15シードにフルセットの大熱戦 敗れるも奈良くるみが示した目指すテニスの新境地

内田暁フリーランスライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

女子1回戦 ●奈良くるみ 2-6、7-6、5-7 E・メルテンス

 アンフォーストエラー(自らおかしたミス)は55本で、ウイナーは、サービスエースを除けば相手を上回る39本。彼女にしては、いずれも多いこれらの数字が、奈良が今日の試合で何をコートに描き、ここからどこに向かうかを示しているでしょう。

「やっぱり、アンフォーストエラー多かったですか…?」

 会見で前述のスタッツについて問われると、奈良は逆質問します。意識的か無意識か、奈良は第15シードのメルテンスとも、真っ向勝負の打ち合いに挑んでいました。その背景にあるのは「それくらい打ち合えるフィジカルは作ってきたつもり」だという、体力及び走力向上への確信です。

 奈良が打ち込んできたトレーニングの成果は、フィットした見た目にも明らかでした。食事制限もしながら身体を絞り、「速く走れるようになった」との自信も携え入ったニューヨーク。その中で今の奈良が目指すのは、打つタイミングを早めて相手の時間を奪い、ネットにも出るテニスです。「最近は、寝る前によく見ている」というR・フェデラーの動画も、目指すテニスのヒントとなっているのでしょう。得意のバックはもちろん、この日の奈良はフォアでも早いタイミングで広角に打ち分け、自らウイナーを奪いに行きます。第2セットのタイブレークで沈めた息を呑むようなドロップボレー、そしてセットポイントで叩き込んだボレーは、彼女が目指す地点を指していました。

 試合のなかで「自分の武器を見つけられたな」と感じるまでに、プレーに手応えを覚えていた奈良。その彼女がこの日唯一苦しんだのが、サービスです。それでも第3セット途中までキープしますが、このセット唯一のダブルフォールトを記したのが、4-3とリードした第8ゲームの30-15の場面。このポイントを機にブレークバックを許した奈良は、最後は攻めたバックが長くなり、2-6、7-6、5-7の惜敗を喫しました。

 コートを去る時には、悔しさからか目には光るものが。それでも、前回の対戦で圧倒された相手と互角の打ち合いをできたのは、「新たな発見」だと微かな笑みを浮かべました。

「こういうテニスをやりたいなという目標ができたので、すごく前向きなものとして捉えられています」

 それは今日の試合を見た人なら、誰もが共有した思いでしょう。

※テニス専門誌『スマッシュ』のFacebookより転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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