Yahoo!ニュース

元女王のアザレンカに示した“満点解答”。大坂なおみが次に挑むは、過去1勝3敗の現女王ハレプ

内田暁フリーランスライター
(写真:ロイター/アフロ)

 試合後の会見時の明るい笑みと、自ら話題を広げていくなめらかな口元が、今の彼女の心身の状態を明瞭に映していた。その快活な姿は、約1ヶ月前のチャールストン大会を取材していた米国人記者を驚かせたほど。インディアンウェルズの優勝とセリーナ・ウィリアムズを破ったことで注目を集め、衆人環視の中で挑んだチャールストンで大坂は、押し寄せる他人からの感情に押しつぶされるように、コート上でも、そして会見室でも涙を流していたという。

 それから約1ヶ月――。再び笑顔になれた訳を、大坂は、まずは「日本に帰ってフェドカップを戦ったのが凄く良かった。あのような環境のなかでプレーしたのは、初めての経験だったから」と説明する。その後、クロアチアに行きクレーでの動きに重点を置いたトレーニングを積んだこと、そしてその中でコーチやトレーナーらスタッフたちと充実した時間を過ごせたことが、前向きな姿勢と活力の源泉になっていた。

 ローマ大会の初戦の相手が元世界1位のビクトリア・アザレンカであることも、大物と戦う時ほど集中力が研ぎ澄まされる、彼女の性質に上手くハマったかもしれない。アザレンカと大坂は2年前に対戦し、その時に大坂は完敗している。

「こんな風に完膚なきまでに叩きのめされ、むしろ良かったと思っている。もっと強くなりたいと思えたし、多くのことをこの試合から学んだ」

 それが敗戦直後に、当時18歳の彼女が残した言葉。

 その2年前に学んだこととは何だったのか?――「苦手」と公言するクレーコートでの元女王との再戦は、かつての問いへの解を示す場でもあった。

 果たして、世界の21位に成長した20歳がセンターコートで描いた答えは、まるで2年前の試合の鏡像のようだった。常に先んじて強打を両コーナーに打ち分け、主導権を掌握する。立ち上がりから怒涛の6ゲーム連取で圧倒し、第2セットはリードされながらも直ぐに追いつき突き放す。なかでも彼女の成長を、最も色濃く打ち出したのが最終ゲームだ。大坂は自分のサービスゲームで15-40と2本のブレークの危機に瀕し、続くポイントでもアザレンカに攻められる。それでも必死に食らいつきボールをなんとか打ち返し続けると、最後は起死回生のロブをねじ込んだ。続くポイントは、センターに叩き込む時速180kmのエース。

 後に大坂は「以前の私だったら、『アザレンカ相手に15-40……うーん、もうこのゲームはお終いね』と思ったかもしれない」と決まりが悪そうに笑う。前回の敗戦から学び、今回実戦したのは「前回は走らされてばかりだったので、自分から先に展開し相手を走らせること」と、「バックハンドのリターンが良いので、セカンドサーブはボディを狙うこと」。戦前の策を実践する聡明さと、実践できる確かな技術。そして、いかなる状況でも目の前のボールに集中し全力で戦う姿勢――かつて自分に「レッスン」を与えてくれた元女王に、彼女は完璧な解答用紙を提出した。

 元女王を破った先には、現女王が待ち受ける。2回戦で当たるシモナ・ハレプは、先のインディアンウェルズでは大坂が圧倒した相手だが、2年前にクレーコートの全仏オープンで対戦した時は、経験と赤土への適応力の差でいなされた。両者の対戦は既に5回を数え、今年だけでも早くも3戦目。この先、女王の座を競い幾度も戦うことになるかもしれない両者の今後を占う上でも、趣深い一戦になる。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

内田暁の最近の記事