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マイアミ・オープン:憧れのS・ウィリアムズを破った大坂なおみが、「夢の一戦」で遂行した策とは……

内田暁フリーランスライター
(写真:Shutterstock/アフロ)

■1回戦:大坂なおみ 6-3,6-2 S・ウィリアムズ■

 その人は「私がテニスを始めた理由だった」と、大坂なおみは言いました。

 幼い頃にテレビで戦う姿を見て、プレースタイルも去ることながら、心の強さにも魅せられたスーパースター。

「こういう時には、こんな風にプレーするんだ……」と、自分の姿を重ねたお手本でもあります。そして幼い彼女が「いつか試合をしたい!」と切実に願った、未来の夢の一戦の対戦相手――。

 月日が流れ、2年前の全豪オープンで予選を勝ち上がった時に大坂は、ドローシートの「予選勝ち上がり選手」がいずれもセレナから遠いことを知ると、「セレナが側に居ない!」と手足をバタバタさせんばかりに残念がりました。

 会見室でもプレスルームでもなく、通路の端に置かれたベンチでの、“おしゃべり”状態の取材でのことでした。

 そのセレナ・ウィリアムズと、マイアミ・オープン初戦でついに対戦することを知ったのは、インディアンウェルズでツアー初優勝を成し遂げた、わずか数時間後のこと。飛び上がらんばかりに喜ぶ大坂の姿を見ながら、セレナのヒッティングパートナーを8年務めた大坂のコーチのサーシャ・バヒンは「セレナと試合!? 大変なことになった!」と頭を抱えたと言います。

 そのコーチが大坂に授けた策とは……その詳細に関しては、当のバヒンは「それは勘弁してください、具体的なことは明かせません」と困ったように笑いました。

 それでも「そうだな……何だったら話せるかな……」と誠実な面立ちを少々しかめ、彼は言葉を選びながら話します。

「まずは、ポイント間の準備を素早くすること。そしてセレナをたくさん動かすこと。具体的な戦術は明かせませんが、基本は相手を動かし、自分は安定していることです」

 大坂はその策を、忠実に実行したと言えるでしょう。威嚇するかのように時折ボールを引っ叩くセレナの強打を、大坂は受け止めニュートラル化すると、丁寧にコーナーへと打ち分けます。

 相手を動かす、そして自分は安定する――その助言を最も端的に実践したのが、WTA公式サイトの「ベストショット」にも選ばれた、第1セット終盤でブレークしたゲームでのポイント。ベースラインから下がらずボールを両コーナーに打ち分けると、最後はヒザが地面に付くまでに腰を落とし、軽くバックで面を合わせるようにして、ストレートにボールを流し込みました。

 第2セットで迎えたこの試合最大のターニングポイントは、大坂サービスの第3ゲーム。3度のデュースを繰り返し1本のブレークポイントにも瀕した大坂ですが、その度にエースで流れを引き寄せます。

「あの場面では『セレナだったら、どんなプレーをするかな……』と考えていた」

 後に大坂はそう明かしました。幼少期から幾度もセレナの試合を見ては、その勝負強さの秘訣を解き明かそうとしてきた憧憬の情と探究心……その過去の累積が、セレナとの試合を決定づける要因となったのでしょう。

 勝利後の会見で、「セレナが居ない今、決勝は誰と対戦したい?」と問われた大坂は「ドローは全く見ていない。セレナが初戦だと知り、その一戦だけに集中しようと思ったから」と言いました。

 それは正に先週のインディアンウェルズで、シャラポワとの初戦対戦が決まった時にも口にしたセリフ。常に目の前の一戦のみに専念する……その姿勢を貫く限り、8まで伸びた白星街道は、まだ続きそうな気配です。

※テニス専門誌『Smash』のfacebookより転載。連日テニスの最新情報を掲載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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