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全仏オープン予選:1本のショットで得た“気づき”と考え方の調整で、加藤未唯が危機を切り抜け初戦突破

内田暁フリーランスライター

○加藤未唯 64 63 ロディオノワ

「やっぱり自分が振り切ったショットを打てば、相手のボールもアウトになるんだ……」

それは、追い上げられる窮地の中で加藤未唯を救った、一本のショットと、その帰結としての“気づき”だったと言います。

第1セットをブレーク合戦から最後抜け出し6-4で奪った加藤は、第2セットでは気落ちした相手を突き放し4-0と大きくリード。続く第5ゲームでも40-0とし、勝敗は決したかに思われました。ところがそこから突如崩れ、以降の15ポイント中2ポイントしか奪えずブレーク数で並ばれます。

「相手に早いミスが増えてラリーがなくなり、戸惑った」ために自らリムズを崩し、「勝手にイライラし、勝手に緊張した」がために許した3ゲーム連取。第8ゲームの相手サービスでも30-15となり、「このゲームをキープされたら、負けるかも」と感じるほどの圧迫感を覚えていました。しかも次のポイントでも、加藤のフォアの逆クロスを、ロディオノワはバックでダウンザランに鋭く叩き返す。決まったか……そう思われた次の瞬間に上がるラインズマンの「アウト」の声に、「助かった…」とホッと胸をなでおろす外野。

ところがこの時コートにいた加藤には、別の思いがあったと言います。

「今のは私が振り切って打ったからアウトになったんだ。やっぱり私は、フォアで作っていかないと」

この確信が、加藤に再び落ち着きと自信を与えたのでしょう。以降はロディオノワのスライスにも我慢強く対応し、機を見て振り抜くフォアの逆クロスで打ち合いを支配します。この第8ゲームをブレークした加藤が、土壇場で加速し抜け出しました。

クレーでのプレーは決して嫌いではないものの、イレギュラーバウンドに気持ちを乱されることが多いのだと、大会前には渋い表情でこぼしていた加藤。しかし今日の試合後には、「ここのコートはイレギュラーしないんで」と笑顔をこぼします。実際には時折相手のショットがあらぬ方向に跳ねたようにも見えましたが、「あれは彼女のスライスが良かったから」と自分を納得させていたようでした。

同じ事象も考え方や視座ひとつで、かくも見える景色は変わってくるもの。柔軟に自分を律しつつ、次も勝利を狙います。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日、テニスの最新情報や大会レポートをお届けしています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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