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判定への怒りを力に変えて――西岡良仁、本選出場権獲得まであと1勝:全仏オープン予選

内田暁フリーランスライター

全仏オープン予選2回戦 ○西岡良仁 6-3,2-6,8-6 H・ラクソネン●

「No!!! You gotta be kidding me!(冗談じゃないよ!)」

西岡が主審に詰め寄り叫ぶと同時に、スタンドの観客たちも一斉に「今のはノットアップ(2バウンド)だ!」と声を上げました。

ファイナルセットの、勝敗を左右しかねない第6ゲームのデュースの場面で繰り広げられた、30本を超える長い長いラリー。前後左右に激しく駆ける両選手の様を固唾を飲んで見守っていた観客は、西岡のドロップショットを追うラクソネンのラケットが僅かに届かなかったように見えた時、ついに、長い打ち合いに終止符が打たれたと思ったはずです。

しかしジャッジから声は上がらず、ラクソネンの返球はコート深くに返ってきます。「えっ!」と一瞬困惑の表情を見せながらも応対した西岡ですが、数本の打ち合いの後に西岡のショットが長くなる――。

その直後、西岡は激しく主審に詰めより「2バウンドだったじゃないか!」と叫びました。抗議する彼の表情は、今にも泣きそうにすら見えます。しかし判定が変わることは当然なく、ラクソネンのサービスウイナーでこのゲームを相手がキープ。ここまで二転三転としてきた“流れ”が、相手に一気に傾いたかに見えた瞬間でもありました。

全仏予選の2回戦、西岡対ラクソネン――。

試合の立ち上がりは、西岡が完全に支配しました。フォアのアングルショットを効果的に用い、長い打ち合いを巧みにコントロール。第1セットは6-2。第2セットも早々にブレークし、2-1とリードします。

しかしここから、一つの際どいショットが入らなかったのを機に、西岡は自らへの苛立ちを募らせてしまいました。また、機を同じくして落ちてきた雨が、小柄なファイターをさらに不利な状況に追い込みます。

「ボールが重く跳ねなくなり、それまで相手のバックの高いところを上手くついていけていたのが、決まらなくなってしまって」

どんなに攻めても決まらぬ展開に西岡はリズムを崩し、ぬかるむコートに、パワーで勝る相手の優位性が増していきます。相手に6ゲーム連取を許し、第3セットも2-2からのサービスゲームに苦しむ西岡。

しかしここで、ますます強まる雨の前に、ようやく試合は中断へ。

「正直、助かりました」

西岡は素直に認めます。

約2時間半の中断を挟み再会した時、流れ込んできた寒気のためか気温は一気に下がり、しかし照り出した太陽が赤土を乾かせます。再び、試合序盤のようにフォアのスピンを効果的に使えるようになった西岡が、再開直後に渾身のフォアのウイナーを決めてキープ。次のゲームでも3ポイント連取し、ブレークポイントとデュースを繰り返しながら、試合を支配に掛かりました。

冒頭の、問題のジャッジが起きたのは、この時です。

結果的に5本のブレークの機を逃した西岡は、抗議の後に、憮然とした表情でサービスラインに向かいます。彼が、小柄な身体を怒りで満たしているのは、明らかでした。

ところがその直後のポイントで、西岡は興奮したコート上の雰囲気に水を掛けるように、ネット際にふわりとドロップショットを沈めます。その後もウイナーを連発してラブゲームキープ。

「こんな形で負けるのは、絶対に嫌だと思っていました」

苛立ちを闘志に変えながらも、同時に冷静さをも保とうと努めた西岡。その後、第9ゲームでブレークされ、5-4からの相手サービスゲームでは30-0となり敗戦まで2ポイントと追い詰められるも、相手のダブルフォールトを機に4ポイント連取してブレークバック。剣が峰で踏ん張った西岡は、第14ゲームでもラクソネンのダブルフォールトの機を逃さずに、一気に勝負を掛けマッチポイントまで漕ぎつけます。

最後、相手のショットがラインを割った瞬間、西岡は両膝を赤土につけ、「ヤーーー!」と咆哮を上げました。

本選ダイレクトインに肉薄しながらも、あと1枠というところで僅かに本選に手が届かず。気持ち的には「かなり難しかった」中で入った予選ですが、自力で本選入りの権利をつかみ取るまで、あと1勝。

本選を掛け予選決勝で戦う相手は、大ベテランの試合巧者、R・ステパネクです。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日、テニスの最新情報を掲載しています。

全仏オープンのプレビュー等を掲載した『スマッシュ』最新号は5月21日発売。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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