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苦しみながらも、勝利への流れを自ら構築。土居美咲、逆転勝利でベスト8へ:BNLイタリア国際

内田暁フリーランスライター

BNLイタリア国際3回戦 ○土居美咲 4-6,7-5,6-2 J・コンタ●

2回戦で、世界15位にして昨年の全仏準優勝者のL・サファロワを破った時、土居美咲は勝因を「メンタル」だと即答しました。打ち合いで上位選手と互角以上に渡りあいつつ、終盤での勝敗を分けるどうしても欲しいポイントを我武者羅に奪って手にした快勝は、ある意味「チャレンジャー」ならではの勝利だったかもしれません。

その嬉しい勝利の先で迎えた対戦相手は、23位のジョハンナ・コンタ。彼女もまた土居同様に、この1年で成績を急上昇させてきた英国期待の成長株。また土居とは過去に3度対戦し、いずれも土居が破れてきた相手でもあります。

そのコンタとの、4度目の対戦――。サファロワ戦では常にスコアで先行した土居ですが、この日は相手にいきなり3ゲーム連取を許す立ち上がり。

「正直なところ、そんなに自分のテニスは良い印象ではなかった」

後に土居は、そう振り返りました。ダブルフォールトがありながらも要所でエースを叩きこんでくる相手のサービスも、土居がリズムをつかみきれない要因だったでしょうか。第1セットを落とし、第2セットも最初のゲームでブレークを奪われる、苦しい展開となっていきます。

しかし真に「一番苦しい」時間帯が訪れるのは、土居がここから5ゲーム連取し、5-1と逆転した後でした。自らのミスが重なり、どうしても遠い第2セット最後の1ゲーム。

「相手に何をされたという訳でもないのに、自分から崩れてしまった」

自分自身に苛立ちを覚え、「フラストレーションがたまる」なかで相手に手渡してしまった5連続ゲーム。さらには次のゲームでも、15-40と2本のブレークポイントを握られます。展開的には、完全に土居の負けパターン……。

しかし、前の試合でも「メンタル」の強さを発揮し勝利した土居は、この「嫌なムード」を……即ち敗戦のパターンを断ちきります。「自分が良い球を打てれば、相手を追い込むことができる」と信じ、4ポイント連取で危機を脱出。すると次のゲームでは、相手の少しの落胆に飛びつくように2度のデュースの末にブレークし、第2セットを辛くも取りきりました。

こうして、試合後に振り返った「一番苦しい」局面を切りぬけたことが、結果的には相手にとって、最も嫌な展開となったでしょうか。コンタは試合後に、第2セットを取れなかったことへの精神的な落ち込みは否定しましたが、代わりに「美咲はとても素晴らしいプレーをし、常にボールを左右に打ち分けていた。結局私は最後まで、彼女のリズムを崩すことができなかった」と振り返っています。スコアではリードしながらも、試合を支配しているのは土居の方だと、コンタは感じていたのかもしれません。

一方の土居は第3セットに入った時に、相手の疲れをなんとなく感じていたと言います。最初の2ゲームは互いにブレークチャンスがありながらもキープすると、第3ゲーム以降は一転、土居は8本連続で鋭いファーストサービスを入れ、自らのゲームで8ポイント連取し良い流れを作りました。

「自分の良い流れやムードは、感じていました」と本人も言うように、ここからは完全に土居のペース。第6ゲームを3度のデュースの末にブレークすると、あとは手にした手綱を握りしめたまま、4ゲーム連取で一気にゴールを駆け抜けます。第2セット中盤の嫌な展開を打ち破り、そこからは自分で勝利へのシナリオを描き演じ切ったこの一戦は、2回戦とは異なる形で、メンタルの強さを発揮した試合だったでしょう。また、「自分のテニスはそんなに良くない」と感じた中での勝利は、彼女が1年前から師事するザハルカコーチが常々「目指す地点」だと強調する、「アベレージのプレーで勝てる選手」に近づきつつある証左でもあるでしょう。

「状況的にも苦しい中で、自分のテニスを貫けている」ことで3つの勝利を手にし、初めて到った“プレミア5※”でのベスト8。それでも試合後の土居に、浮かれた様子は全くありません。

「本当に、試合がまだまだあるので。昨日も含めて今日の勝ちはすごく嬉しいですが、一戦一戦、頑張っていきたいなという感じです」

「試合がまだまだある」……そう、まだ今大会には、先がある。

準々決勝で対戦するのは、イリナ-カメリア・ベグ。先週のマドリード大会でベスト8に入り、今大会でも第4シードのV・アザレンカを破って勝ち上がってきている、今、最も勢いのある選手の一人です。

※“グランドスラム(年4大会)”、“プレミアマンダトリー(年4大会)”に次ぐ高いグレードの大会。今大会も1位のセリーナ・ウィリアムズをはじめ、トップ10選手のうち8人が出場するなど、ほとんどの上位勢が顔を揃える。

テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日、大会レポートも含めたテニス情報を掲載しています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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