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勝因は「メンタル」と「ショットの質の向上」。土居美咲が全仏準優勝者を破り3回戦へ:BNLイタリア国際

内田暁フリーランスライター
勝利後、ファンの求めに応じて“セルフィ”を撮る土居

BNLイタリア国際2回戦 ○土居美咲 6-3,7-5 L・サファロワ●

「メンタルですね」

勝因を問われた彼女は間髪入れずに答えると、そう断言できたことが自分でも嬉しかったのか、あるいは少し照れたのか、はにかむように「ふふふっ」と笑みをこぼしました。

BNLイタリア国際の2回戦。世界15位にして昨年の全仏準優勝者のルーシー・サファロワと対戦した土居美咲は、実力者の追撃を振り払い、価値ある勝利を手にしました。

日が傾くと共に降りだした雨のため、いつ始まるか判然としない中で迎えた一戦――。この難しい立ち上がりの攻防を制したのは、高い集中力と攻撃的な姿勢でスタートダッシュを切った、土居でした。自慢の左腕を鋭く振り抜くと、ボールは快音をひびかせ次々に相手コート深くに刺さります。第3ゲームで2本のブレークポイントを握られるも、フォアのウイナーやサービスエースで危機を切り抜け、次のゲームでは相手のダブルフォールトに乗じてブレーク。まずは土居が、一歩リードを奪いました。

しかしさすが相手は、先月のプラハ大会でも優勝しているクレー巧者です。次のゲームでは土居の猛攻を凌ぎつつ、機を見てフォアの強打を、あるいはボレーを決めてブレークバック。続くゲームでも2本連続ウイナーを決めたサファロワが、土居から主導権を奪い取ったかに見えました。

それでも土居は、引きません。この1年ほど徹底して追い求めてきた「スイングスピードアップ」と「一球一球の質の向上」の成果を見せつけるかのように、第10シードと真っ向打ち合い、そして、ねじ伏せます。サウスポーどうしクロスコートの打ち合いから、時にストレートへ切り返し、時にはそのままクロスの強打で押し込む土居。7ポイント連取で即座に流れを奪い返した土居が、第1セットを奪取しました。

第2セットに入っても、土居の凛とした佇まいは崩れません。最初のポイントでダブルフォールトを犯した相手の落胆に食らいつき、土居はデュースの末に第1ゲームをいきなりブレーク。次のゲームをラブゲームでキープすると、さらには続く第3ゲームでも、2本のブレークポイントを手にしました。

ところがこの局面で、それまで安定しなかったサファロワのサービスが、突如として次々にコーナーに鋭く刺さります。成す術なく、ブレークの機を逃す土居。するとそれまで目の前の1ポイントのみに集中していた土居が、「3-0にできなかったのが少し引っ掛かった」ことから「勝ちを意識」しはじめました。さらには時期を同じくして、空から再びハラハラと落ちてくる雨。試合が中断されることへの不安も頭をよぎったと言います。

それら土居を襲う精神面の揺らぎを、経験豊富なベテランは見逃してくれません。第6ゲームをブレークバックしたサファロワが、続くゲームも競りながらキープ。ブレークの数では並んだだけですが、サファロワがプレーの質を上げてきたのは確実です。

「相手のサービスが良くなり、ブレークチャンスが無いなかで追いつかれた、嫌な展開だった」

試合後の土居は、その時の心境を素直に振り返りました。

経験で上回る上位選手が、勝利を意識した挑戦者を追い上げ逆転する――それはテニスでは、実によく見る光景です。土居も過去に、そのような悔しい敗戦を幾度も経験してきました。

しかし昨年末、窮地を切り抜けツアー優勝という確たる実績を手にした土居は、ありがちなシナリオを拒絶します。「自分のテニスを貫くこと」を胸に期し、ゲームカウント5-5からのリターンゲームで再びブレーク。6-5とリードし、サービングフォーザマッチを迎えました。

ところが最後の最後で、またも試合はもつれます。40-15と土居が2本のマッチポイントを握るも、この痺れる場面でサファロワの逆襲にあい、ブレークポイントをつかまれました。

土居が圧巻だったのは、このブレークポイントでの攻防です。両者強打を左右に打ち分ける激しいラリー戦の中、土居はフォアサイドに大きく振られながらも、全力疾走で追いつくと左腕を一閃。ボールはネットギリギリをかすめ、瞬く前に相手コートに刺さります。弾けるように声を上げ、拳を2度激しく突きあげる土居。

それから、4ポイント後――最後はサファロワのリターンが大きくラインを割り、1時間32分の戦いに終止符が打たれます。そのとき土居は喜びを爆発させるでもなく、小さくガッツポーズを握りしめました。

「最後まで気持ちを強く保てた」

会心とも言える勝利に胸を張る土居は、その背景に、経験の積み重ねがあったことを認めます。

「こういうシチュエーションを何度かしてきた経験は大きいし、今日は最後まで、徹底して自分のやるべきことをやれた。2セットで締められたことは、今後の自信になると思います」

大きな自信を手にして3回戦で戦う相手は、英国のジョハンナ・コンタ。

彼女もまた、本日の2回戦で第7シードのR・ビンチを破り自信を得た、急成長中の選手です。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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