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全豪OP準々決勝:「ミスの量産」を悔いた錦織。挑戦者の戦法を「予期していた」王者ジョコビッチに屈する

内田暁フリーランスライター
試合後にジョコビッチ(左)から声を掛けられる錦織

●錦織圭 36 26 46 ノバク・ジョコビッチ

Unforced error(アンフォーストエラー)――直訳すれば「自発的に犯した誤り」、いわゆる「凡ミス」ですが、その内実は、そこまで単純なものではないでしょう。

全豪オープン準々決勝でジョコビッチと戦った錦織は、相手を上回る31本のウイナーを決めましたが、スタッツ上のアンフォーストエラーは、54本を数えました。

「ミスが増えた」「ミスが多すぎた」「ミスが出始めて…」

試合後の会見で、錦織は再三「ミス」という言葉を繰り返しました。

ジョコビッチ戦の立ち上がり、錦織は世界1位と互角か、あるいはそれ以上の打ち合いを演じてみせます。サービスはコンスタントに190キロ台後半を計測し、攻めにも迷いがありません。両翼からライン際に鋭い打球を立てつづけに打ちこみ、ウイナーの数でもジョコビッチを上回りました。 

しかし突如として流れが変わったのが、2-3からのサービスゲーム。40-15とリードし、次のポイントでも打ち合いで完全に押し込みながらも、錦織はフォアのドロップショットをネットに掛けてしまいます。そこからは、まるで気持ちが切れてしまったかのようにミスが続き、最後はラインを大きく逸れるダブルフォールト。ブレークを献上したこのゲームを機に、試合の趨勢は一気にジョコビッチに流れ込みました。

「錦織はシモンと違うタイプの選手。とてもスピードがあり、攻撃的なプレーを好む。だがその分、エラーも多い。だから試合へのアプローチも変わってくる」

4回戦でシモン相手に100本のアンフォーストエラーを犯し苦戦を強いられたジョコビッチは、来たる錦織戦に向け、セルビア語の会見でそのように述べていたといいます。そしてこの日の彼は、自分が思い描いていたプレーを完遂したと言えるでしょう。

「最初の数ゲーム、彼(錦織)は素晴らしいプレーをした。スピーディでベースラインから下がらず、両サイドのコーナーへと打ち込んできた。ただそれは、僕が予期していたことだった」

だからこそジョコビッチは、「耐えて、嵐が過ぎ去るのを待った」のだと言います。

ミスが多かったと再三悔いた錦織ですが、その理由が自分自身にあったのか、もしくはジョコビッチから受けるプレッシャーだったのか、あるいは何かしなくてはという焦りだったのか……試合から僅か30分後の時点では、自分でもまだその理由が分からず、どこか困惑しているようでした。 

対してジョコビッチには、勝因や試合の分水嶺に関して確信があったようです。つまりは、立ち上がりの猛攻を耐え忍び、「より多くのボールを返して、相手に一本でも多くのボールを打たせる」ことで、錦織のミスを誘うこと。「アンフォースト」に見えたエラーは、その実、ジョコビッチにより打たされていたものかもしれません。

「頭の中ではやるべきことは明確にあるのですが、なかなか実行に移せなかったので……。チャンスが見い出せなかったので、ちょっと不甲斐ないというか……」

試合が終わった直後には既にコーチ陣からいくつか指摘を受け、話し合いも持ったという錦織。ですがその内容は「話せない」と苦笑い。

完敗と「不甲斐なさ」を受け止め、ジョコビッチの強さを改めて認めたこの時点から、また新しい挑戦は始まるはずです。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日、全豪オープン大会レポートを掲載中

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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