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ATPツアーファイナルズレポ3 錦織圭、ターニングポイントを制して掴んだベルディフ戦の勝利

内田暁フリーランスライター
年間レースを制して集う8人の選手中、錦織は最年少

苦しんで手にした勝利は、もしかしたら、勢いのまま圧勝する以上に意味をもったかもしれません。

ツアーファイナルの第2戦。ベルディフ戦の立ち上がりの錦織は、会心と言えるプレーを見せていました。初戦のジョコビッチ戦後に「改善が必要」と話していたサービスも、第1セットは65%の確率でファーストが入り、87%の確率でポイントにつなげます。

「1セット目はブレークポイントを与えることなくできた。こうやってサービスが入ればストロークもリズムに乗っていけるので、より攻撃的なテニスができるようになる。サーブもストロークも、一試合目よりは良かったです」

サービスでリズムを作り、ストロークで広角に多彩なショットを打ち分ける創造性豊かな錦織のテニスが、青白い光に浮かび上がるO2アリーナのコート一面に描かれます。特にフォアでの攻撃性が際立ち、逆クロスに、あるいは鋭いアングルでウイナーを次々に奪いました。

終盤のブレークで第1セットを奪い、第2セットも早々にブレークした時、恐らく多くの観客も、錦織の勝利を予想していたでしょう。ところが、ダブルフォールトでブレークバックを許した時、試合の流れは逆転します。ベルディフの攻撃の前に、立ちすくむことの多くなる錦織。第2セットは、中盤に12ポイント連取をしたベルディフが6-3で奪い返しました。

嫌な流れで迎えた第3セットですが、ここで立ち上がりから気持ちを切り替えられたことが、結果的には大きかったでしょう。エースで最初のポイントを奪うと、サービスウイナー、サービスで崩してからのボレー、そして最後もワイドへのウイナー。課題とされたサービスで、第1ゲームをキープしました。

このサービスの向上が、ベルディフにプレッシャーをかけたでしょうか。第2セットに比べミスが増えたベルディフに対し、錦織は攻め切れずとも守備からラリーを組み立てます。セット終盤、互いにつかんだブレークの機をモノにしたのは、錦織。2時間23分の接戦で勝敗を分けたのは、勝利への執念の差のように見えました。

「競り勝った試合だったし、内容も含めて攻撃的にできていたので、自信にはもちろんなる。次の試合が大事なので、それに向けては良い試合だったと思います」

試合後にそう語る錦織が、次に対戦するのは、ロジャー・フェデラー。今日の試合では、あのジョコビッチを7-5、6-2、1時間17分で退けています。

「ケイのことは、彼が16~17歳の頃から知っている。その頃から将来は良い選手になると思っていた」

9年前の日を振り返るフェデラーは、当時の錦織の印象を、次のように語ります。

「第一に、彼はスピードがあった。そして、彼のサイズにしては非常にパワーもあった。バックハンドをアングルに打つのがうまかった。そして、フォアハンド。僕が良いと思ったのは、バックはフラットなのに対し、フォアは鋭い弧を描く点だ」

ケガさえなければ、もっと早くブレークスルーの時を迎えていただろう。でも彼は今ここにいる。世界で最も優れた選手の一人としてね――まるで自らの予感の正しさを喜ぶようにそう言うフェデラーも、錦織との対戦を楽しみにしているようです。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookから転載。連日テニスの最新情報を掲載しています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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