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ローマ大会レポート:ベスト8は心身の強さの証明 世界1位のジョコビッチ戦のカギは「安定」と「我慢」

内田暁フリーランスライター

○錦織圭 6-4,6-3 V・トロイツキ●

本日プレスルームに2度、試合前の選手が急遽会見するとのアナウンスが流れました。

最初は、アンディ・マリー。この放送が流れると同時に、会見場に行くため席を立った記者たちは「やっぱり棄権かぁ」と声を揃えます。先週のマドリードを含め、2大会連続優勝でローマを迎えていたマリーは、今大会が始まる前から棄権の可能性を示唆していました。果たしてマリーが会見で明かしたのは、3回戦の棄権表明。「疲れ」がその理由であり、「ローランギャロスを前に無理をして、状況を悪化させたくなかった」と説明しました。

2人目は、セレナ・ウィリアムズ。彼女もやはり、棄権の発表です。理由は、ヒジの痛みのため。マドリードの時点で発生していたものだと言いました。

この男女上位シードの揃っての棄権は、マドリード大会とローマ大会の2週連続参戦が、いかにタフかを顕著に浮き彫りにするものです。約1週間後にフレンチオープンを控えていることが、状況をより困難にしているとも言えるでしょう。

話は本題に移って、錦織圭です。先週はマドリードで、マリーに敗れたものの準決勝進出。その2週前ではありますが、バルセロナでは優勝しています。マドリード準優勝のナダルと並び、錦織は現在ドローに残っている中で、最もタフなスケジュールを戦っている選手だと言えるでしょう。

2回戦ではその疲労もあってか、勝ったもののミスも目立った錦織。しかし今日の3回戦では、「昨日より良かったと思います」と本人も認めるように確実に調子を上げていました。トロイツキがストロークをつないでくることも、そしてその中で攻めるチャンスが増えるだろうことも、過去の対戦経験から予測できていたと言います。無理せずつなぐ局面と、深く踏み込み攻める場面を巧みに嗅ぎ分け、試合の大部分で主導権を握りました。いずれのセットでもブレークした後にブレークバックを許しますが、終盤では再び集中力のネジを巻きなおす。トロイツキの高速サーブに幾度もブレークポイントを凌がれても、最後は突き放し勝利を手にしました。

試合後、連戦について問われた錦織は「ここ(ローマ大会)は特にきついですね。インディアンウェルズみたいに2週間ではないので、休みが少ない分、身体に負担はかかりますし」と難しさを否定しません。それでも「ベスト8まで来ているし、プレーも良くなっている。身体と相談しながら、今週は頑張っていくしかないです」とマスターズでの上位進出に意欲も見せました。

その上位進出への道に立ちふさがるのは、世界1位のジョコビッチ。

「誰よりも安定したプレーをする選手なので、崩すのも特にクレーでは難しいと思います。粘って長いラリー戦を制せるように、我慢強くプレーしたいと思います」

錦織はジョコビッチ戦の展望とカギを、そのように語りました。

対するジョコビッチは、「ニシコリはもはや、未来を担う選手ではない。グランドスラム準優勝者であり、確立されたトップ10選手であり、とても攻撃的でツアー随一のバックハンドの持ち主だ」と定義した上で、こう続けます。

「彼相手には、常に安定したプレーをしなくてはいけない。良いスタートを切り、最高レベルのテニスをしなくてはならない。なぜならそれが、彼に勝つ唯一の方法だからだ」

錦織とジョコビッチの両者が口にしたキーワードが「安定」。抜群の安定感を誇るジョコビッチを、錦織が攻め崩せるのか? 

「対策は、今晩考えます」と笑う錦織。「対策は言えないよ。言ったら、圭にばれちゃうだろ」とはぐらかすジョコビッチ。

フレンチでの対戦の可能性も考慮しながらの、手の内の探り合いになるのかもしれません。

※テニス専門誌『Smash』のfacebookから転載。連日大会レポートを掲載しています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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