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全豪オープン4日目 メルボルン現地レポート1:難しい試合を勝ち切った世界5位

内田暁フリーランスライター

※こちらの記事は、テニス専門誌『スマッシュ』facebookの転載です。連日、全豪オープンの現地レポートを掲載しています

錦織圭 46 75 62 76(0) I・ドディグ

わたしたちはよく、試合を表現する時「流れ」という言葉を使います。一本の鮮やかなウイナーが、一つの致命的なミスショットが、あるいは気象やケガによる中断などが転機となり、片方の選手が主導権を掌握しポイントを重ねていく状況を指すことが多いでしょう。「流れ」には実力を超えた不可抗力や、不確定要素が多分に含まれているようにも感じます。

今日の錦織圭対ドディグの試合には、そのような「流れ」がほとんど存在しませんでした。錦織と過去4度の対戦があるダブルス巧者のベテランには、この大舞台で番狂わせを演じてやろうとの野心もあったでしょう。第1セットの3目ゲームでブレークを奪うと、200キロ超えのサービスを立てつづけに打ち込み自身のゲームを快調にキープしていきます。

もちろん錦織も潮目を変えようと、要所で集中力を高め、4-5からの相手のサービスゲームでは0-30とポイントを先行しました。しかしこの局面で、ドディグはサーブ&ボレーを連発。

「嫌なところでサーブ&ボレーをしてきた」

バリエーション豊富な相手のプレーに、錦織もやり難さを感じます。作戦が奏功しこのゲームもキープした86位の30歳が、第1セットを奪いました。

第2セットに入っても、ドディグのサービスの威力と前に出る圧力に衰えは見られません。途中、錦織が絶妙なドロップショットを立て続けに沈めるなど流れを変えるプレーを試みますが、そのたびにドディグもエースやウイナーで応じます。

それでも並走したまま迎えた第12ゲームでは、コードボールが際どく相手コートに落ち、錦織がブレークポイントを手にするラッキーな場面も。この好機を生かして第2セットを競り勝った錦織が、続く第3セットでも2度のブレークを重ねて圧倒。このセットを奪った時、これで完全に流れが来たかに思われました。

しかし第4セットに入っても、相手には気落ちした様子も、プレーの質の低下も見られません。サービスは200キロを計測し、浅いボールを効果的に使って錦織を前後に走らせてもきました。このセット、先にブレークを奪ったのはドディグ。そのまま、5-4でドディグのサービスゲームを迎えました。

「気持ち的には、ファイナルの準備はしながらあのゲームに臨んだ」

試合後に、そう振り返る錦織。あるいはその覚悟が、攻めの姿勢を後押ししたかもしれません。このゲーム、バックでラリーの主導権を握った錦織が、土壇場でブレークバックに成功。雪崩れ込んだタイブレークでは、相手のサービスを巧みにさばき、打ち合いに持ち込みます。ストローク戦になれば、錦織に分があるのは明らかでした。最後の最後で7ポイント連取の猛攻を見せ、2時間47分の熱戦にピリオドを打ちました。

「(ドディグは)ダブルスもうまいので、リターンゲームでもプレッシャーをかけられた。もう少しリターンゲームでポイントを取れると思っていたんですが、サーブが良くて…」

この試合を、そして万全の錦織対策を用意した対戦相手を、勝者はそう評します。流れをつかんだかと思うそのたびに、相手のスーパープレーが飛び出しリズムを作り難い展開でもありました。それでも錦織は、重要な局面ほどプレーの質と駆け引きの妙を発揮し、点の積み重ねで勝利への道筋を描ききりました。

気温が35度に迫る暑さの中の接戦。それは、世界の5位が真の実力の証を示した試合でもありました。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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