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ATPツアーファイナル ロンドン現地リポート:錦織が活躍する大舞台に立つ、もう一人の日本人

内田暁フリーランスライター
大会のデイリープログラムでも紹介されていたボールキッズの瑞季さん

■渡英から4年。ラストチャンスに奮起しチャレンジ■

既にテレビなどでも紹介されたそうなのでご存じの方も多いかもしれませんが、今回のツアーファイナルで錦織圭以外にもう一人、世界のエリートのみが立つのを許されるコートで頑張っている日本人がいます。

それが、ボールキッズの櫻井瑞季さん。ロンドン在住の瑞季さんは、1,200人の応募者の中から30人に絞り込まれたオーディションを通過し、みごと栄えあるステージに立っているのです。

瑞季さんがご両親の仕事の都合でロンドンに来たのが、11歳時の2010年。実は、ツアーファイナルはその年に会場に行き、初めてプロのプレーを生観戦した上にフェデラーにサインまでもらった、思い出深い大会です。

自身もテニスに打ち込む瑞季さんは、以前からこの大会のボールキッズを「友達がやったこともあり、やりたいなと思っていた」ものの、応募するには至っていませんでした。渡英した時は英語ができなかったので、そのあたりの不安もあったでしょう。

しかし16歳になる今年が、年齢規制でラストチャンスとなるため思い切ってチャレンジ。夏に地域別選考会へ参加し見事にパスすると、今度は10月に行なわれた100人による全国選別会に進みました。

「リージョン(地域)のテストは、ボールを転がしたり、見ず知らずの人とペアを組んでボールを選手に投げる動作をしたり…というのが多かったです。ナショナルの選考会では、イレギュラーバウンドするラグビーボールを取ったり、ラダーを使ったフットワークなど、敏捷性や反射神経などをチェックしました。あとは、いかに知らない人とフレンドリーに話しているかというのも、スタッフはよく見ているらしいですね」。

そう瑞季さんが言う通り、実は選考側にとって、このコミュニケーション能力は非常に重要視した要素だそう。

「大切なのが、コミュニケーションの力。ボールキッズはチームとしてやっていかなくてはいけないので、他の人たちとコミュニケーションを取る能力はすごく重要視しています。テニスを知らない子にもチャンスを与えたいので、選ばれた30人のボールキッズのうち、テニスをやらない子も10人居るんです」とは、ボールキッズを統括するマーク氏の言葉です。瑞季さんは「イギリスに来て1年目だったら、怖くて自分から声をかけたりできなかったと思います」と振り返るので、今回選ばれたのは、それだけ彼女が英語力も含めイギリスの生活や社会に馴染んだ証でもあります。

そんな狭き門をくぐり抜けてO2アリーナに辿りついた瑞季さんは、錦織対マリーの試合でコートに立ち、さらには大会側の計らいで錦織と対面する機会も得られたのです。

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「いきなり『会えるよ』と言われていたので、すごく緊張しました。でも錦織選手は、ずっとニコニコしていてくれて……コート上とは顔つきも全然違い、すごく優しかったです。私がマリー戦にいたことも覚えていてくれて『ありがとう』って言ってもらえました。今までは、フェデラー選手が一番好きで次が錦織選手だったんですが、変わりました(笑)。今は錦織選手が一番です」。

トップ選手の側にいられるなんて夢のようだし、大会が終わってほしくない――。

周りのボールキッズたちに「また取材受けてるの? すごいじゃんミズキ! 大スターね!」とからかわれながら、瑞季さんはそう言って笑顔を見せました。日本にいた時もテニスはやっていたけれど、渡英してから無料で使えるコートの多さなどもあり、よりテニスをやる機会が増えたと瑞季さんは言います。

イギリスに来た時は英語のできなかった11歳の少女が、今ではボールキッズのリーダー格として、世界の超エリートたちと同じコートに立っている――。

そんな夢が現実になるのも、スポーツの持つ大きな力です。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。

大会の様子を毎日レポートしています。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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