医療界の転機:膨らむ社会保障費。新たなビジネスモデルとしてのヘルスケアソリューションに期待がかかる。

(写真:アフロ)

 高齢化とともに増加の一途を辿る医療費と介護費。だがその費用は莫大である故に、今までのように全てを公助で賄うとすれば、行政は先が見えない財政的窮地に立たされる。そこで提案されたのが地域の自立。社会保障の活路を見出すがごとく地域で活躍する民間事業者と医療・介護関係者が連携し、ヘルスケアビジネス事業が展開されている。

 その事例は様々である。例えば、北海道札幌市を拠点に株式会社ホクノーが展開する健康ステーションサービス事業。地域の中核をなすスーパーで健康に繋がるワンストップサービスを提供している。住民の健康への意識や行動の改善を促すだけでなく、医療機関とバイタルデータを共有し、ヘルスケア教室の講座などを開催している。これも一種の地域包括ケアシステムであろう。

 また、神奈川県藤沢市にある社会福祉法人伸こう福祉会の事業も注目すべき事例である。入居者が野菜を生産し市場で販売する。野菜の生産を「仕事」として取り組むことで、活動量が増えるだけでなく、社会に寄与しているという強い思いが入居者の精神の安定を生み出している。それは、入居者の生活の質(QOL)の向上という目に見えない成果にも繋がっている。

 

 このようなヘルスケアビジネス事業に対し、平成29年には事業総額の一定割合に補助が付いた。地域の自立への働きかけはこれだけに留まらない。民間資金を活用して事業を展開し、その事業成果物を支払いの原資とするソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)などもある。このSIBが自治体で導入されてきている。

 

 そもそも自治体が事業を展開するにあたり決算額の多くを占める経費とは何であろうか。それは初期に発生する固定経費である。この固定経費の効率化を図ろうと、SIBの導入が検討されている。このSIB導入を、初めてヘルスケア分野に導入した自治体として、神戸市と八王子市がある。その事業内容は、糖尿病性腎症重症化予防事業と大腸がん検診受診勧奨事業である。

図 SIB事業における効率性

画像

出典)経済産業省(2017)「地方公共団体向け ヘルスケア領域におけるソーシャル・インパクト・ボンド導入ノウハウ集」

 実際に神戸市では、2017年7月から2020年3月にかけてSIB導入を決めた。DPPヘルスパートナーズ株式会社を介して、神戸市国民健康保険加入者のうち糖尿病性腎症者を対象に、食事療法等の保健指導を行い生活習慣の改善を通じて人工透析への移行を予防する事業をSIBで行った。このときの資金提供者として、三井住友銀行、社会的投資推進財団そして個人投資家が手を挙げ、本案件の組成支援を、公益財団法人日本財団およびケイスリー株式会社が取りまとめた。

 

 一方で、SIB事業の課題として、事業規模が取りざたされてきた。この点についても、県域を越えた市町連携といった広域連携モデルの案件形成の支援がまさに進められている。たとえば広島県と市町の連携モデルがある。本連携モデルは、2017年度の経済産業省の案件形成の支援対象となり、翌年より事業を開始している。3年間の実施期間のなかで、国民健康保険加入者のうち前年度の大腸がん検診未受診者を対象に、オーダーメイド受診勧奨を行い、大腸がん早期発見の増加を狙っている。

 このような生活習慣病への予防や改善を図る動きは、病院から我々の日常の生活の場へと治療の場が広がるなかで、患者を中心とした治療成果の向上が求められている。従来であれば、対面時の問診、検査そして治療のなかで、それぞれのスタッフと患者の間でやりとりが終わっていた医療の世界。そこに、ケア全体の治療成果の向上を目指しながら、安全と効率を求めて、民間企業がプレーヤーの一人として参入しかつ投資を行ってきている。そして医薬品、医療機器、治療といった単体でサービスを提供されるビジネスモデルから、予防やモニタリングまで含めたヘルスケアソリューションといったビジネスモデルが、今医療界に大きな転換を促している。