人生100年時代到来

 少子高齢化が急速に進展し人口が減少するなかで、日本は人生100年時代を迎えている。2020(令和2)年厚生労働白書によると、かつて1989(平成元)年では、65歳の人が90歳まで生きる確率は男性で22%、女性では46%と推計がなされていたが、2040(令和22)年時点では男性42%、女性68%とされ、さらに女性の2割が100歳まで生きるとされている。

 平均寿命の変化とともに、近年の高齢者の心身の老化現象に関する種々のデータの経年的変化から、健康寿命も延びてきていることが示されている。特に65~74歳では心身の健康が保たれており、活発な社会活動が可能な人が大多数を占めている。

 2020(令和2)年厚生労働白書では、スポーツ庁が実施している新体力テストの結果から、高齢期の身体機能は男女ともに、1998(平成10)年と比べ2018(平成30)年では5歳程度若返っていることが報告されており、高齢者像が変わりつつある。高まる高齢者関係の社会保障給付費の突破口として、このような高齢者像の変化を見据えた政策の転換が求められているのではないだろうか。

高齢者って何歳?

 そもそも高齢者とは何歳を指しているだろうか。かつて「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(1971(昭和46)年)の第2条で高年齢者の年齢は55歳以上と定義されていた。2001(平成13)年の「高齢者の居住の安定確保に関する法律」第52条では高齢者を60歳以上としている。だが世界的には、世界保健機関(WHO)の「人口高齢化とその経済的・社会的意味(The Aging of Populations and Its Economics and Social Implication)(1956年)」によると、65歳以上である。

 個々の法律で高齢者の定義と意味を確認していくと、高齢者の年齢が異なることが見えてくる。道路交通法(1960(昭和35)年)では高齢者を70歳以上とし、医療では65歳~74歳を前期高齢者(「高齢者の医療の確保に関する法律」第32条(1982(昭和57)年))に、75歳以上を後期高齢者(同法第50条)と定義している。実は、高齢者の用語は文脈や制度ごとに対象が異なり、一律の定義が定まっていない。

 さらには、具体的な年齢を設定していない法律もある。たとえば、福祉用具については「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律(平成5年法律第38号)」では、その対象を「心身の機能が低下し日常生活を営むのに支障のある老人」と明記している。「長期優良住宅の普及の促進に関する法律(平成20年法律第87号)」では「日常生活に身体の機能上の制限を受ける高齢者の利用上の利便性」に措置を講じるよう記されている。

変わりゆく高齢者像

 このような高齢者像の変化は、各種の意識調査からも読み取れる。内閣府(2014)「高齢者の日常生活に関する意識調査」の「高齢者とは何歳以上か」への回答では、2人に1人が75歳以上と答えている。65歳以上を高齢者とすることに否定的な意見が強くなってきている。高齢社会対策大綱においても、「65歳以上を一律に「高齢者」と見る一般的な傾向は、現状に照らせばもはや現実的なものではなくなりつつある。」としている。日本老年学会・日本老年医学会(2017)「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ報告書」では、75歳以上を高齢者の新たな定義とすることが提案されてきている。

持続可能な社会の再構築

 高度な医療技術によって平均寿命が大きく伸びる「超高齢者社会」を迎えるなかで社会保障費は増加の一途をたどるばかりだ。国立社会保障・人口問題研究所「社会保障費用統計」により、年金・医療・福祉その他を合わせた社会保障給付費は2017(平成 29)年度は120兆 2,443億円となり過去最高の水準となった。社会保障給付費のうち、年金保険給付費、高齢者医療給付費、老人福祉サービス給付費ならびに高年齢雇用継続給付費を合算した高齢者関係給付費は、2017(平成 29)年度は79兆7,396億円となり、前年度の78兆6,877億円から1兆円以上の増加だ。変わりつつある高齢者の姿をとらえた場合に、高まる高齢者関係給付費の突破口として、高齢者政策の転換が求められているのではないだろうか。

 かつては、一律的に高齢者をとらえてきた。だが、現状を照らせば、もはや現実的でなくなってきている。身体的にも心理的にも若返り現象が認められるなかで、いまや60歳以降でも、個々の意欲や能力に応じた力を十分発揮できる時代が到来している。そこには、高齢者を支える発想だけでなく、意欲ある高齢者の能力を発揮する社会を目指すことも重要であろう。超高齢化、超少子化、超人口減少社会を見据えた持続可能な社会の転換として、変わりゆく高齢者像に応じた社会の再構築が求められてきているのではないだろうか。