「社会はみんなのためにデザインされているけれど、全ての身体のためではない」
年齢・身体的・心理的・認知的な違いにかかわらず、より多くの人々が互いに距離を置くことなく、より利用しやすくインクルーシヴな世界を創造することは可能か?
世界各国から集まった建築学生が、学術的アプローチでユニヴァーサルデザインを共同制作した。
ユネスコ世界建築首都に任命された北欧デンマークの首都コペンハーゲン。7月の国際会議UIAの会場では、デンマーク王立アカデミーが「A Society Built for Every Body」という学生アカデミー企画を主催した。
王立アカデミーは「すべての人のためのインクルージョンとアクセシビリティ」をテーマにサマースクールを開催。24か国から20~30代の建築学生が6人ごとに6グループに分かれて、期間限定でグループ作品を制作した。
1週間の間に集中的に講義を受け、インタラクティブなインスタレーションやプロジェクトを作ったり、障がいを持つということがどういうことなのか、どうすれば誰にとってもアクセシブルなもの、よりアクセシブルなものを作ることができるのかを考え体験した。
香港出身のカーリさん(20)のグループは、振動でイラストが描かれる作品を完成させた。
「私たちは誰もがコミュニケーションしたいと思っているけれど、異なる文化で異なる言語を話します。そこで私たちの共通のものは何だろうと考えたんです。身体とバイブレーション。参加者が身体を使ってオブジェで揺れ(バイブ)を作ることで、なにかが描かれる作品になりました。参加者の多くは楽しんでくれて、人によってはペンを使って絵を描き始めるという意外な現象も観察できました」
バングラデシュ出身のアディバさん(24)のグループは、参加者は好きな色の意図を選んで、自分の浮き沈みのある人生の流れを「紐の流れ」に例えることで、自分の人生を壁に残す作品を仕上げた。
「歯を磨く時間が人によって異なるように、時間は人によって異なります。私たちが違うということは問題ないというメッセージで、社会は違いを理解する必要があるということを訴えたかった」と話す。
エジプト出身のジィーナさん(20)のグループでは、壁にある蛇口から粘土が出てきて、さまざまな色・形の自分だけの作品を作ることができる作品を展示した。
「多様性・異なる人・コミュニティを考えた結果が、参加者によって作られた異なる粘土です。同じ形がひとつとしてない粘土は、異なる人々、異なるボディ(身体)を表現しています」。
SNSで自分の顔や身体を修正して投稿しながら、自分の身体はだめなのかと精神状態を崩す若者がいる現代で、「どのような身体でもいいではないか」と問いかける作品は筆者にとっても特に印象が残るものだった。
多様性をデザインプロセスの中核に据えて、これからの世界に必要とされるデザインツールと方法論を学んでもらう機会を提供したこの取り組み。
「様々な文化があり、建築にも様々な方法があります。世界中で同じではないからこそ、驚きが生まれます。伝統的な建築の仕事ではなく、新しい方法でいかにユーザーに感覚や体験を伝えるかを体験することができたでしょう」と、学生アカデミーのメンターとして指導したマティアス・コールマンさんは取材で話した。
取材した学生たちは「異なる国籍と文化の学生が集まったグループ活動が貴重な体験だった」と口を揃えていた。
コロナ禍で他国に行く機会が激減し、オンラインでのコミュニケーションが続き、交流が限定されていた若い学生たち。共に学び・話し、「なにかを共に作った」異文化体験がよい学びで会ったことは間違いない。
みんなのための建築の実現のためにも、建築に携わる人々本人が自分の世界だけで満足せずに、異なる考えや生活をする人を理解しようとすることは大切だ。
大人、教育現場、社会が、若い学生に国境を越えて交流する機会を提供することの重要性や責任も改めて感じる取材であった。
Photo&Text: Asaki Abumi