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フィンランドとスウェーデンは今あせっている

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
北欧2カ国首相が会談 NATO加盟検討の意向表明をした4月(写真:ロイター/アフロ)

スペイン・首都マドリードで来週(6月29~30日)開催されるNATO首脳会議での加盟承認を目標に、北欧2か国のNATO加盟申請の手続きは「順調に・速やかに」進む「はず」だった。

トルコ側はトルコがテロ組織と指定する組織支援や、トルコへの武器禁輸措置を理由に、両国の加盟申請に否定的だ。

承認にはNATO全加盟国の同意が必要。なんとかトルコを説得しなければいけない。

NATO・フィンランド・スウェーデンは、今あせっている。

なぜトルコはフィンランドよりもスウェーデンを標的とするのか

トルコはフィンランドよりもスウェーデンに対してより批判的であり続けている。

このことを不思議がる声はフィンランドからも出ており、

ストックホルム大学トルコ研究を専門とするポール・レヴィン局長はフィンランド公共局YLEにこう話している。

  • 「スウェーデンのほうがクルドでの運動に、よりポジティブな見方をしているように見える」
  • 「スウェーデンには約10万人のクルド人という、影響力を発揮するには十分な数のマイノリティが住む」
  • 「そういうことを考慮すると、トルコがスウェーデンのほうをより気にかけることは正しいともいえる」

なにより、スウェーデン国会には無所属のクルド系国会議員がおり、彼女の1票にスウェーデン与党が降りまわされている。

22日も予算案の審議で、彼女の1票によって与党の予算案が可決された。

法務大臣の不信任案、予算案と立て続けに、トルコがテロリストと指摘した議員がユニークな影響力を発している。

スウェーデンにとって、国際社会に発したい好ましいPRではないだろう。

「スウェーデンの問題は、フィンランドの問題」

だが両国のテロリスト対策は「さほど違わない」と擁護派もいる。

フィンランドのニーニスト大統領は、そもそも両国や他のNATO加盟国のテロリスト対策は非常に似ているので、スウェーデンだけがトルコの目の敵になっていることを疑問視する発言もしている。

ニーニスト大統領は

  • 「スウェーデンの問題は我々フィンランドの問題だ」
  • 「手を取り合い、共に進んでいく」

とも話し、この言葉はスウェーデンでもニュースとなった。

フィンランドがスウェーデンを置いてNATO加盟申請することはあり得るのか?

一方でフィンランドでは「もしトルコがフィンランドの加盟申請だけは承認するとしたら?」という問いも出ている。

一部の野党からは、両国のロシアとの緊張関係は同じレベルではなく、フィンランドがスウェーデンと同じ運命を共にすることに懐疑的な声も出ている。

フィンランドで風向きが少しだけ変わりつつあることは、スウェーデンでも報道されている。

それでも「フィンランドはスウェーデンと共に加盟する」という空気のほうがフィンランドでは強い。

だがスウェーデンと運命を共にするにも「我慢の限界がある」という声はフィンランド国内でも明らかに出てきている。

首脳会談の結果によっては、空気が変わる可能性もないとはいえない。

「トルコとの対話は構築的だ」

「トルコとの対話は構築的に進んでいる」は、NATO事務総長やスウェーデン外相が繰り返している言葉だ。

「対話が中断されずに継続されている」という視点で、スウェーデン政府は事態をポジティブに伝えようとしている。

交渉内容についてメディアに詳しく話すことはスウェーデン外相は避けている。

またスウェーデン公共局SVTは、スウェーデン政府の政治家たちのトルコに対する言葉遣いも変化しているとも伝えている。

  • 「NATOメンバーになったらトルコの安全保障も気にかける」
  • 「スウェーデンはテロリズムと闘っている」

このような発言がスウェーデン政府から相次いでいるが、かつてはこれほど口にされてきた表現ではなかったと。

トルコの機嫌を取ろうとする姿勢が明らかに出てきているのだろう。

「締切日」の認識が違った

北欧のどの国のニュースを見ても、もう今月中に2か国の加盟申請が承認されることは難しいだろうという空気で報道されている。

そもそもフィンランドとスウェーデンと違い、トルコはマドリードでのNATO首脳会議を「締切」として捉えていないからだ。

NATO事務総長は楽観的すぎたか?

私が住むノルウェーではNATOのストルテンベルグ事務総長の手腕に注目するニュースも多い。

ストルテンベルグはノルウェーの元首相・労働党の元党首という、ノルウェー現地絵は人気の政治家だからだ。

だが、ストルテンベルグ事務総長はエルドアン大統領と政治的に交流があったのだから、「このような事態になるリスクをもっと予測するべきだった」「彼は楽観視しすぎたのでは」という声を取り上げる記事も出てきている。

早くNATO加盟国になりたいフィンランドとスウェーデンの「あせり」を、トルコは政治の取引カードとして存分に利用している。

いずれは両国はNATO加盟国になれるだろうという見方はどの国でも濃厚だが、そこにたどり着くまでには予定よりも長い時間がかかりそうだ。

でも、フィンランドにはそこまで忍耐強く待つ余裕はあるだろうか。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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