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結束する北欧組、緊張する「NATO手続き期間中」へ

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
フィンランドとスウェーデンの申請書を受け取ったNATO事務総長(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

フィンランドとスウェーデンのNATO加盟申請は、両国だけの話題ではない。

これからの北欧全体の防衛政策や価値観を大きく変えていく出来事だ。北欧は新しい時代へと進むこととなる。

ここ数日間は、毎日「歴史的な日」が北欧で続いている。「今日、ニュースで『歴史的な日』と言っていたけれど、昨日も一昨日も『歴史的な日』じゃなかった?」と感じる人もいるだろう。

「歴史的な日」が絶えないのは、先週末から両国でNATO加盟申請を支持するという支持表明・正式表明・記者会見が相次いでいるからだ。

  • 両国の各政党の党内議論・支持表明
  • フィンランドの首相と大統領が共同声明
  • スウェーデンではアンデション首相が率いる政党が支持表明
  • その後も両国で大統領・国王・首相レベルでの共同記者会見
  • 両国の国会審議で大多数で加盟賛成
  • 国会・政府の代表がNATO加盟申請書に著名
  • 両国がNATOに加盟を申請する書面を提出

など「歴史的な日」といわれる日が途絶えない。

「できるだけ多くの人を巻き込んで、開かれた場で話し合う民主的プロセス」を北欧は大事にしている。

そのためにメディアで世論調査・市民の議論レベル、各政党レベル、政府レベル、大統領・国王レベル、国会レベルとそれぞれの支持表明・正式表明・記者会見が、短期間で連続的に発生している。

それぞれの対話空間での決定を「歴史的な出来事」と解釈するのは北欧らしいといえるだろう。

18日はスウェーデンとフィンランドが提出したNATO加盟申請書を大事そうに両手に掲げるストルテンベルグNATO事務総長の写真が、SNSや現地報道で拡散されている。

ストルテンベルグ事務総長もノルウェーでは人気ある元首相のために、この日の写真は実は北欧カラー満載なのだ。

両国の申請がうまくいけば、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、デンマーク、アイスランドと北欧5か国は全てNATO加盟国となる。

今まで加盟を拒んできたスウェーデンとフィンランドが仲間入りすれば、北欧全体のロシアに対する安全保障が強化される。周囲の地域にとっても今回の騒動は他人ごとではない。

フィンランドとスウェーデンの強まる絆

17日はノルウェーはナショナルデーで祝日。すでにコロナ規制は解除されており、大勢でパレードに参加できる年となったために、国中がお祭りモードだった。

だが私はスウェーデンとフィンランドから届くニュースが気になって仕方なかった。

フィンランド大統領とスウェーデン国王が共同記者会見するという、めったにない光景が繰り広げられていたからだ。

NATO加盟申請によって、防衛レベルが上がる重要性を説くとともに、両国の関係がさらに強化されるという両者のスピーチは興味深かった。

防衛政策だけではなく、イノベーションや教育など、他の分野での築き上げてきた協力関係を次々と挙げていたからだ。まるでビジネス・貿易関係の強化を狙った会見のようだった。今回のNATOへの同時加盟申請は、単に安全保障を強くするためだけのものではないことが伝わってきた。

北欧チームのつながり

北欧といっても、国同士の絆の強さには違いがある。

島国であるアイスランドはとりわけ「遠く感じる国」だし、ノルウェー・デンマーク・スウェーデンというスカンジナヴィア3国は言葉が似ているので、絆がとりわけ強い。

フィンランドとスウェーデンにはまた独自の絆がある。フィンランドではフィンランド語だけではなく、スウェーデン語も公用語だ。

今回の会見ではフィンランドのニーニスト大統領が、スウェーデン語で語っていた。言語レベルの高さがあるからこそ達成できる、相互理解の深さに、私は改めて気が付くことができた。これに英語が通訳言語として入っていたら、互いのつながりの質は変わっていただろう。

スウェーデンがフィンランドと持つ絆の質は、ノルウェーとデンマークにはないものだ。両国の絆は、今回の同時加盟申請でさらに頑丈になるのだろう。

気になるフィンランド「大統領」の役割

今回のNATO騒動で、私が「ん?」と不思議であり続けたのは、フィンランドのニーニスト大統領の「大統領」としての政治的立場だ。

「政治的権力は弱い」と聞いていたのだが、今回のNATOの一件の間、ニーニスト大統領は頻繁に記者会見に登場し、コメントを出している。

私が住むノルウェーには大統領がおらず、王様がいる。ノルウェー国王がこのような政治的な場で何度も発言することはめったにない。フィンランド大統領の登場回数の多さや、NATO加盟に対するコメントの多さはとても不思議に写っていた。

同じことはスウェーデン側も感じるようだ。フィンランドのニーニスト大統領とスウェーデンのカール16世グスタフ国王の共同記者会見の後、スウェーデン公共局の記者らは「NATO議論におけるフィンランド大統領の役割」を不思議に思い、話題に挙げていた。

フィンランド大統領は今かつてないほどの勢いで関係諸国を訪問し、ネットワークを広め、「フィンランドに何かあったら、助けてくれるか」という保証を高め、信頼関係を築くために動き回っている。

NATO申請期間中は、ロシアから何か挑発を受けるリスクが高いと両国が危惧してきた期間だ。だからこそ、両国は戦略として同時申請を選び、近隣諸国は申請期間中に何かあった場合に後ろ盾することを表明している。

現在、北欧諸国が気にしているのはトルコ側の思惑と狙いだ。両国の加盟申請を、NATO加盟国であるトルコが賛成するのかどうか、トルコ側の二転三転する態度にどの国も戸惑っている。

加盟申請が完了するまで、ロシアとトルコ側の反応に対して緊張する日々が続く。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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