15日、フィンランド政府はNATO加盟に申請する方針を正式に決定した。

同じ日にはスウェーデンのマグダレナ・アンデション首相が率いる与党・社会民主党がNATO加盟を支持すると決定。スウェーデンではほとんどの与野党も加盟を支持する方針だ。国会で審議はされるが、大多数の賛成で加盟への道を歩むと見られている。

現在の情勢で、バルト海地域でNATO非加盟国であることはリスクが高すぎる。フィンランドとスウェーデンは国際社会の後押しを背に、共に申請の動きを進める戦略で、NATO加盟の議論期間中や加盟の移行期間にロシアから挑発されるリスクを下げようとしている。

北欧では、本来は大きな政治決定がされるときに、市民・メディア・政府側の議論期間が非常に重要視される。

「できるだけ多くの人や意見を巻き込んで議論を重ね、互いに妥協点を見つける」ことは、北欧の大事な民主的プロセスだからだ。

閉じられた空間で、特定の権力者だけで決定がされる形式を北欧は好まない。

できるだけ多くの人を話し合いのテーブルに参加させたいという、この北欧の議論カルチャーというのは「長い話し合いの期間」をどうしても必要とする。海外の企業カルチャーなどで慣れていた人が北欧企業に転職すると、よく話題にするカルチャーショックのひとつともされている。

だが、今回のNATO加盟申請の議論は、そのプロセスが異例のスピードで進んでいる。

閉じられた空間で、特定の権力者だけで話し合いがされているわけではない。党内や議会での審議期間や、市民が考え・意見交換をする期間が通常よりも短く、しかし凝縮した内容で進んでいる。できる限り開かれた空間で議論され、情報も公開されるようには配慮されている。

「NATOに加盟したら、私たちの生活にどのような変化が起こるのか?」。フィンランドでもスウェーデンでも、メディアが必死に情報を発信し、市民は学ぼうとしている。

市民との議論が熟すまで待つ余裕が今回はないこと、与野党の意向が一致していること、ウクライナ情勢を受けて、NATO加盟に対する市民の理解や心理の激変が世論調査で明らかになっていることなどが、今回の民主的プロセスを急がせている。

EUやNATO加盟は北欧諸国では現れては消える議論であり続けた。これほどのテーマとなると、国政選挙で何度も争点となり、市民との議論期間も相当長く保っている必要がある。

だがプーチン大統領の暴挙は北欧政治を激変させた。北欧の防衛政策や価値観はもはやこれまでと同じ形ではない。

日本に住み続けていると、簡単にはわからない北欧諸国で共通する「自覚」がある。「小国であること」「孤立する」という認識だ。アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、フィンランド。どの北欧の国々にも「小さな規模の国に住む私たち」という認識があり、市民のアイデンティティや自己肯定感に深く根付いている。

「小さい国だからEUに加盟していないと孤立する」

「EU非加盟でも、NATOやEEA(欧州経済領域)に加盟していればなんとかなる」

「小国だから市場も小さくて、国際的な市場を狙わないと生き延びることができない」

人口規模やビジネス市場が小さいことなどの要素は、北欧諸国に「自国だけではサバイバルできない」という認識を植え付けている。

この自覚は北欧のビジネスモデルや考え方に深く影響しており、「自分たちの国は小さいから……」は、私が北欧のどの分野を取材していても、インタビュー中に出てくる言葉だ。

小国だから、国際政治でも世界のビジネス市場でも、とにかく孤立することは危険。誰かや別の国々、国際的な組織と連携し、信頼関係を築き上げていく必要がある、という生き残り戦術は政治家にも市民にも根付いている。

北欧諸国はジェンダー平等や福祉制度などが特徴的だと、世界的に賞賛されることも多い。だが、この有名な北欧モデルが北欧の人々にある程度の自信を加えていたとしても、「小国」という事実は同時に北欧の人々の自信を下げている。

この感覚は日本のような規模の国に住んでいたら、しっかりと理解することは難しい。私が住むノルウェーはNATO加盟国だが、EU非加盟国だ。

ロシアのウクライナへの軍事侵攻を受けて、「ノルウェーでのEU議論を再開させたほうがいいのでは」という動きもすでに現地で出ている。

北欧にはロシアと面する国々が複数あるため、ロシアに対する警戒も強い。ロシアのウクライナ侵攻が、北欧の「小国が孤立することのリスクと不安」心理を悪化させたことは間違いない。今後、「何かあった時のために」他国との信頼関係を積み上げていこうとする北欧諸国の努力は、さらに加速するだろう。