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外に出ておいでよ!ノルウェー人を元気にする「自然」薬。でも雪はどこ?

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
クロスカントリースキーをする主人に同伴する犬 Photo:Asaki Abumi

高い山やフィヨルドという大自然に恵まれたノルウェー。この国の人は、自然が大好き。自然と共存するライフスタイルを、ノルウェー語では「フリルフツリヴ」ともいいます。

外で過ごしたがる若者、SNSの影響もあり

ノルウェーIpsosの調査によると、特に若者のアウトドア好きは顕著で、15~24歳の3人に1人は、外でテント、ハンモック、かまくらで寝たいと考えています。

これには、写真を投稿するソーシャルメディア「インスタグラム」の影響もあるでしょう。

外でのんびりとした時間を過ごすライフスタイルは、この国では「人生を満喫している人」というイメージを持たれます。

反対に、高価でおしゃれなアウトドアウェアを着て、SNSに写真投稿するカルチャーも生まれています。「自分はそうではない」と、他人のキラキラ写真との比較で心を病む人もいますが……。

家にいる市民を外に誘い出すには?

2月、ノルウェー全国各地では、「外に出ておいでよ」という有名なキャンペーンが開催されました。

人口520万人の国で、なんと30万人もの会員数を誇るノルウェートレッキング(山岳)協会DNTが、毎年行う企画です。

全国各地の自然スポットで、大人も子どもも楽しめる活動が、すべて参加費無料! 首相、閣僚、各地の政治家もよく視察に訪れます。

2月の「外に出ておいでよ」企画では、オスロにある大きな湖ソグンスヴァンに、たくさんの市民が集まっていました。ここは、散歩、ジョギング、スキーなどが好きな人々の癒しスポットとして有名です。

首都中心部から湖には、電車で20分ほどでアクセスできてしまいます。東京のような都市であれば、こんなに簡単に自然のど真ん中に移動できないので、とてもノルウェーらしい光景といえます。写真は凍った湖です Photo: Asaki Abumi
首都中心部から湖には、電車で20分ほどでアクセスできてしまいます。東京のような都市であれば、こんなに簡単に自然のど真ん中に移動できないので、とてもノルウェーらしい光景といえます。写真は凍った湖です Photo: Asaki Abumi

たき火でソーセージを焼いたり、テントを試してみたり、木に貼られているクイズを解いたり、凍った湖の上を歩いたり。現場では、たくさんの笑い声があふれていました。

テント以外に、最近はハンモックで森の中で寝るのがトレンドになってきているなと感じます Photo: Asaki Abumi
テント以外に、最近はハンモックで森の中で寝るのがトレンドになってきているなと感じます Photo: Asaki Abumi
ぱちぱちと音がするたき火は、ノルウェーの人を癒す効果がありますPhoto: Asaki Abumi
ぱちぱちと音がするたき火は、ノルウェーの人を癒す効果がありますPhoto: Asaki Abumi
いろいろな形のテントが用意され、子どもたちが楽しんで中に入って遊んでいました Photo: Asaki Abumi
いろいろな形のテントが用意され、子どもたちが楽しんで中に入って遊んでいました Photo: Asaki Abumi

しかし、いつもとは違うこともありました。

スキーをしている人がいない。雪がほとんど溶けていたからです。

真冬のはずの2月に、地面に緑色の芝生が見えるのは、異様な光景です Photo: Asaki Abumi
真冬のはずの2月に、地面に緑色の芝生が見えるのは、異様な光景です Photo: Asaki Abumi

冬の「外に出ておいでよ」企画では、通常はクロスカントリースキーも定番行事。ですが、ソグンスヴァンの雪は溶けかかってたので、スキーコーナーは中止に。

雪国なのに、雪がない!ノルウェーで異例の暖かさ

ノルウェーでは、例年と比べて、ぽかぽかと暖かい冬を迎えています。

王宮公園前。まるで春の訪れ Photo: Asaki Abumi
王宮公園前。まるで春の訪れ Photo: Asaki Abumi

通常は1~2月が最も寒く、4月になってもまだ雪が降る国。10度になれば、地元の人は「暖かいね。春だね」と思い始めます。しかし、天気予報yr.noを見ても、いつもなマイナスなのに、このあとも平均8度ほどの日が首都オスロでは続くようです。

1月はこれまでの年と比較して、首都では平均7度も高くなり、1816年以来の「最も暖かい1月」となりました(VG紙)。これは温暖化の影響であると報道する新聞社もあります(Aftenposten)。

1年のほとんどが冬のようなノルウェーでは、クロスカントリースキーが国民的スポーツ。

市民はスキー道具を抱えて電車やバスに乗り、雪のある場所へと移動するのが恒例です。

冬は、首都のど真ん中でも、スキーやスノーボード道具を抱えている人の姿が当たり前のように目に入るのですが、この光景も今年は少なめ Photo: Asaki Abumi
冬は、首都のど真ん中でも、スキーやスノーボード道具を抱えている人の姿が当たり前のように目に入るのですが、この光景も今年は少なめ Photo: Asaki Abumi

私は昨年に引き続き、今年もクロスカントリースキー教室に通う予定だったのですが、2月の雪があまりにも少ないため、今年は延期されていた教室が、結局全部キャンセルとなってしまいました。

フログネルセーテレンという山のほうには、もっと雪がありますが、ここでも雪は積もったり溶けたりの繰り返し。私は今年はまだ1度しかクロカンをしていません。

Photo: Asaki Abumi
Photo: Asaki Abumi
青空の日のクロカンは最高。この日は木と木の間から差し込むキラキラした夕日の光に見とれてしまいました。ノルウェー人が幸福な理由は、こうして無心で自然と触れ合うことが多いからかなとも思います Photo: Asaki Abumi
青空の日のクロカンは最高。この日は木と木の間から差し込むキラキラした夕日の光に見とれてしまいました。ノルウェー人が幸福な理由は、こうして無心で自然と触れ合うことが多いからかなとも思います Photo: Asaki Abumi
スキーができる日が少ないので、雪が積もると人間も動物も、いそいそと雪のある場所へと移動してきます Photo: Asaki Abumi
スキーができる日が少ないので、雪が積もると人間も動物も、いそいそと雪のある場所へと移動してきます Photo: Asaki Abumi

ノルウェー公共局NRKは14日の記事で、「北部では通常より雪が少なく、緑の植物が顔を出し始めた」と伝えました。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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