グレタさんは北欧出身だから有名になれた?気候変動で世論の分断、研究者の視点

感情的になりやすいテーマ、スウェーデンとノルウェーの専門家の意見は(提供:アフロ)

「気候変動を否定する人は、幸いながらノルウェーにはほとんどいません」。

そう話すのはノルウェーで女性初の財務大臣を2005~09年に務めたクリスティン・ハルヴォルセン氏。現在はノルウェーの気候研究センターCICEROのディレクターとして働いている。

オスロ・メトロポリタン大学で、都市開発などを議論しあう「大都市会議」が開催された。

ハルヴォルセン氏は左派社会党の元党首でもあったことから、現在の気候危機・環境対策における現状を、政治と絡めて解説するのが上手だ。彼女の巧みなトークで、研究者が多い会場は何度も笑いに包まれた。

ハルヴォルセン氏(左)は、政治議論の中でも、議論の分断が異常に極端なのが「環境と気候」のテーマだと語る Photo: Asaki Abumi
ハルヴォルセン氏(左)は、政治議論の中でも、議論の分断が異常に極端なのが「環境と気候」のテーマだと語る Photo: Asaki Abumi

「緑の党」が世論を分断?

ハルヴォルセン氏をはじめとして、カンファレンスで複数の講演者たちが、気候危機・環境における議論が、ノルウェーで極端に分断されていることを指摘した。

誰もが、その原因として、首都オスロで大きな人気を誇る「緑の環境党」を挙げる。

今年9月で開催された統一地方選挙では、道路の通行料金制度が争点となった。車は大気汚染の原因として、排出量が多い車種ほど料金を払う制度だが、「いい加減にしてくれ」と、市民からの反発が増えた。

その中で、緑の党は選挙中、「私たちは、道路課金制度を、愛している!」と発言。

「私たちは」には、国民全員が含まれるわけではないこと、国民を分断し、感情的にさせる極端な言論はポピュリストのようだとして、批判が起きた。

ひとつ強調しておきたいのが、このカンファレンスに集まっていたのは研究者や大学・自治体関係者ばかりで、緑の党の支持者も実は多い。講演者の一部は、「私は緑の党に投票した」と公言している。緑の党には、研究者などの高学歴者、都市在住、若者の支持者が多い。

一方で、政策は支持はするが、「世論を分断する極端すぎる言論」には、眉をひそめる人も多い。

政治家として、ノルウェーの政治の変化を長年見続けてきたハルヴォルセン氏は、かつては車で溢れていた都市から車が減少している今を評価。ノルウェーで環境議論が盛んな理由には、電気自動車EVの普及があったからこそだと語る。

社会の分断がいきすぎると、ブレクジット現象が起きる

世論の分断化は「都市と地方」という構図でも起きている。「45~59歳・低学歴・地方在住者の男性」は、気候対策に関心が低い傾向があると同氏は解説 Photo: Asaki Abumi
世論の分断化は「都市と地方」という構図でも起きている。「45~59歳・低学歴・地方在住者の男性」は、気候対策に関心が低い傾向があると同氏は解説 Photo: Asaki Abumi

分断化は都市内部でも起きており、両者の距離が大きくなればなるほど、つながりの修正は難しく、ブレクジットのような事態が起こるとされた。

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グレタさんがスウェーデン生まれでなかったら?

世界各地で起きている抗議活動、人々を率いるためのリーダーシップについて話し合われる Photo: Asaki Abumi
世界各地で起きている抗議活動、人々を率いるためのリーダーシップについて話し合われる Photo: Asaki Abumi

環境活動家グレタさんは、スウェーデンで生まれていなかったら、今ほど有名な影響力のある存在ではなかったのではないかと、私は思うことがある。

平等社会と民主主義に強くこだわる北欧。日本と比べて、環境議論が盛んで、社会の一部である子どもや若者の声にも、大人たちは真面目に耳を傾ける傾向がある。

報道陣が、子どもや若者の意見をニュースとして真面目に取り上げる頻度も、極めて高い。

子どもや若者、女性やマイノリティの意見を聞こうという姿勢が、北欧では極めて顕著なのだ。

だからこそ、この国々では、政治の話しがしやすい。声を上げれば、変化も起きる。若者があきらめずに、大人や政治家などに意見しようと思うのも当然だ。

北欧カルチャーが応援団として土台になければ、グレタさんはこれほどの知名度を得られなかっただろう。

そもそも、SNSだけではなく、スウェーデンのメディアをスタートとして、メディア報道は北欧諸国から英語圏へと、じわじわと拡散されていった。

国会前で抗議をしている少女がひとりいたとしても、ほかの国だったら、そもそもニュースになっていたか? 記事になっていたとしても、スウェーデンよりも何倍も時間がかかっていただろう。

私は普段からそのことが頭にあったのだが、今回のカンファレンスではノルウェーやスウェーデンの研究者も多かったので、会場で聞いてみた。

「スウェーデン人じゃなくても、グレタさんは今のような位置に立っていたと思いますか。フランスでも、ドイツでも、可能だったでしょうか。それとも、スカンジナヴィア諸島や北欧のなんらかのカルチャーの影響があると思いますか」と。

※「スカンジナヴィア」は、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク。「北欧」は、加えてフィンランド、アイスランドを含む意味合いが多い。

ちなみにこのセッションでは、都市で起きている気候抗議活動、民主的なリーダーシップがテーマだった。

ベルゲン大学、オスロ大学、オスロ・メトロポリタン大学などからの専門家、そして会場の出席者からは、「北欧カルチャーが助け船となっただろう」ことに一致していた。

Photo: Asaki Abumi
Photo: Asaki Abumi

オスロ大学のエマ・アーノルド博士研究員は、カナダ出身という外部の視点から話す。北欧カルチャーは他国と比べても、ジェンダー平等を重要視しており、「若い女性が意見を言いやすい雰囲気がある。グレタさんの活動時期も、タイミングがよかったといえるでしょう」と答える。

「周囲への同調を求める社会でも、ヒエラルキー社会でもない。スカンジナヴィアの福祉社会という環境があったからこそ」。

会場にいた人々からは、このようなことも指摘された。

  • 「グレタさんは、マララさんやガンジーのようなシンボル的な存在となった」
  • 「グレタさんは若者だけではなく、同じ意思を持つ大人までも巻き込んで、同盟を組んだ」
  • 「政治家と市民の距離が近い北欧では、権力者に意見が言いやすい」
  • 「ノルウェー発の女性首相だったブルントラント氏は、1984年に国連に設置された『環境と開発に関する世界委員会』=『ブルントランド委員会』の委員長でもあった。そのような歴史が、環境と移行議論において、未来世代を代表する若者に敬意を払う空気を育んできた」

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気候変動というホットなテーマでは、意見が異なる者同志の対立が起きやすい。特に、相手の顔が見えないネットの世界において、話題の一人が「若い少女」ともなれば。

挑発的な言論もある中、個人攻撃をせずに、頭を冷やしながら話し合っていく姿勢は、より重要となってくるのだろう。

Photo&Text: Asaki Abumi