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市民の声を聞いているか?大政党ヘの厳しい通達、ノルウェー地方選

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
時代の流れを反映した地方選、新しいタイプの政党が議席数を増やした

9日、ノルウェーでは統一地方選挙が開催された。右派・左派ともに、両派をリードしていた既存の大政党は議席数を減らし、小政党・新政党らが跳躍した。

投票率は63.6%。

4年前の選挙と比較して、各地で支持を伸ばしたのは

  • 地方在住者や農家から支持を受ける中道左派「中央党」(5.9%アップして14.4%)
  • 気候変動問題に取り組み、道路課金制度に賛成し、首都オスロで権力をもつ「緑の環境党」(2.4%アップの6.7%)
  • 貧困問題の改善と平等な社会を求める極左「赤党」や「左派社会党」
  • 現在の道路課金制度に反対し、車の運転手を味方にしたFNB(正式名称 これ以上の道路課金に反対する市民活動)党(2.5%)
  • 第一党「労働党」は8.2%下落して24.8%
  • 第二党「保守党」は3%下落して20.1%

首都では緑の環境党が爆発的な人気

4年前の地方選、オスロ議会の行政部を緑の環境党(右)、労働党(中央)、左派社会党(左)が握った。長年、首都は保守派陣営が率いていたが、これがきっかけで左派陣営の実力が試されることに。右側のバルグ環境局長は、外見・年齢・性別・政治経験がないことが関係して、脅迫や嫌がらせも受けてきた Photo: Asaki Abumi
4年前の地方選、オスロ議会の行政部を緑の環境党(右)、労働党(中央)、左派社会党(左)が握った。長年、首都は保守派陣営が率いていたが、これがきっかけで左派陣営の実力が試されることに。右側のバルグ環境局長は、外見・年齢・性別・政治経験がないことが関係して、脅迫や嫌がらせも受けてきた Photo: Asaki Abumi

首都オスロでは、政権交代は起きなかった。労働党(20.1%)に対して、連立する「緑の環境党」が15.2%と、前回から7%アップの驚異的な数時をたたき出した。

首都の中心部から車の出入りを規制するカーフリー計画などは、「ばかげている」と嘲笑され、若い女性リーダーには人種差別的なヘイトスピーチがネットで目立った4年間。それでも、緑の党の政策は、市民に大きく評価されていた。

緑の党の人気の理由には、若者による気候変動対策を訴えるデモ、スウェーデン少女のグレタさんの活動が影響したようだ Photo: Asaki Abumi
緑の党の人気の理由には、若者による気候変動対策を訴えるデモ、スウェーデン少女のグレタさんの活動が影響したようだ Photo: Asaki Abumi

道路課金制度、いい加減にしてくれ

値上がりする道路通貨料金に怒りをあげた市民グループ。写真は首都での同党のスタンドで、市民と話す党員たち Photo: Asaki Abumi
値上がりする道路通貨料金に怒りをあげた市民グループ。写真は首都での同党のスタンドで、市民と話す党員たち Photo: Asaki Abumi

緑の党が、空気を汚し、都市の面積を占領する車に批判的であれば、新政党のFNBは反対の立場にいる。道路の通行料金を「もっと安くしてくれ」と訴える。

世界遺産ブリッゲンやフィヨルド観光の窓口として、日本人観光客も多く訪れるベルゲンでは「車の改革」が起きた。FNB党は16.9%と、ベルゲンでは第三政党になり、現地の議会構図を大きく変える。

現政権と大政党には苦い味のする結果に

ソールバルグ首相率いる保守党と政権に厳しいメッセージをたたきつける市民 Photo: Asaki Abumi
ソールバルグ首相率いる保守党と政権に厳しいメッセージをたたきつける市民 Photo: Asaki Abumi

地方選挙の結果に喜んでいないのは、中道左派をリードする労働党。そして、現政権を担う4党の与党だ。

どの党も支持者を大幅に逃しており、市民からのメッセージを受け止めなければ、2年後の国政選挙で右派の続投は難しいだろう。

車の運転手のための「受け皿」政党が変わる

車の運転手の味方といえば、極右「進歩党」の得意分野だったが、新政党FNBにイスを奪われたことになる。

車の運転手には、移民や生活費に苦しんでいる市民もいる。現在の課金制度に反対でも、彼らは極右のほかの政策には同意しにくい。FNB党は多くの党から、「くすぶる不満を抱えていた有権者」を誘惑したことになる。

「都市」対「地方」

今回の選挙は「都市」と「地方」をかけた対立だとも言われた。社会の仕組みを、「首都のエリート」たちが決める動きを嫌がる地方派が、「中央党」に投票。

例えば、首都では緑の党が人気だが、この風潮は一部の地方派にとって、「他人事」で、「自分とは別世界の議論や暮らし方」となる。

「大都市と地方は違う、私たちは小さな町に住む人たちを忘れない」というようなメッセージの伝え方が上手な中央党。一方、気候変動問題などにはあまり関心がない Photo: Asaki Abumi
「大都市と地方は違う、私たちは小さな町に住む人たちを忘れない」というようなメッセージの伝え方が上手な中央党。一方、気候変動問題などにはあまり関心がない Photo: Asaki Abumi

現地メディアの政治専門家たちは、今回の選挙は「市民が既存政党から離れていることの象徴だ」と分析している。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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