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女性は自信をもって議論を 技を磨き、抑圧テクニックを知ろう

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
政治家が音楽業界の女性たちに、議論のコツを伝授 Photo: Abumi

2017年に#MeTooが話題になった頃、隣国スウェーデンの動きを追い、ノルウェーでも各業界でセクハラや性暴力を受けていた女性たちが次々と共同告発を行った。

音楽業界では同年11月、1400人以上の女性たちが現地アフテンポステン紙で連名で抗議。

各業界や企業では、以前よりもセクハラが社会問題として認識され、議論・対策が進んでいる。

ノルウェーの文化業界での男女・ジェンダー平等を推し進めるための専門機関が、「バランセクンスト」(Balansekunst)だ。

70以上の芸術・文化機関が連盟に加わり、平等で多様性のある文化界を目指して、現状調査やセミナーなどを開催。

自分も議論できると自信をつけてほしい。このようなワークショップは様々な業界で人気がある Photo: Asaki Abumi
自分も議論できると自信をつけてほしい。このようなワークショップは様々な業界で人気がある Photo: Asaki Abumi

北欧といえば平等先進国として有名だが、未だに男性優位の世界は存在する。

ノルウェーの音楽界では、フォークソングでは特に平等が進んでいるとされているが、メタルやロックなどのジャンル、またはアーティーストらの背後にいるレコード会社などでは、男性社会が続いていることが頻繁に指摘・議論されている。

2月末から3月2日まで首都オスロで開催されていた音楽祭「by:Larm」では、「バランセクンスト」団体主催の「女性のための議論の練習レッスン」がおこなわれた。

議論の場に積極的に出たがるのは男性ばかり

議論の練習をし、どうすればもっと自分の主張を観客に伝えられるか、改善点を話し合う Photo: Asaki Abumi
議論の練習をし、どうすればもっと自分の主張を観客に伝えられるか、改善点を話し合う Photo: Asaki Abumi

音楽の議論の場では、ゲストとして招かれるのはいつも同じような人々。2017年のメディア調査では、記者のソースとなっていた10人中3人のみが女性だった。

もっとより多くの女性に、自信をもって公の場で議論してほしい。

今回のワークショップで講師として登場したのは、オスロのカムシャイニ・グナラトナム副市長だった。

現在30歳の彼女は、その若さと外見から、以前からヘイトスピーチの対象になっている。ノルウェーで起きたテロ事件の生存者でもあり、最大政党・労働党の優秀な政治家のひとりとして知られている。

副市長は、会場にいる女性たちに質問をして、「そう思う」・「そう思わない」に分けた2グループ内で、以下の主張について話し合うように求めた。

  • 「女性政治家は、髪が短いほうが、真剣に相手にしてもらえる」
  • 「カール・マルクスが言ったように、宗教は民衆のアヘンである」

各グループの代表者が前に出て、賛成と反対派で議論を開始。

全員で、代表者の議論テクニックを、どうしたらもっと改善できるかを考えた。

「お互いを見過ぎで、会場の観客と目線があっていなかった。あなた方が説得しなければいけないのは、目の前の一人だけではなく、観客全員。もっと会場にも目を向けて」

手のジェスチャーなど、議論の経験が豊富な副市長は、次々とアドバイスをする。

立場が上の人が使う、5つの抑圧テクニック

ノルウェーには、支配する側による「5つの抑圧テクニック」(De fem hersketeknikker)という、女性が知っておいたほうがいい戦術がある。

女性が他者からどのように抑圧されるかを分かりやすくしたものだ。

  1. 無視する
  2. からかう
  3. 情報を与えない
  4. 2重の罪。何をしても責める(例:女性は外見を整えることを期待される一方、性暴力被害にあうと着ていた服などを責められる)
  5. 罪と恥の意識をあたえる(例:男性とは違う立場にいたからこそ出る意見かもしれないのに、今までとは違う角度から提案すると否定・かわかわられ、「会議の空気を壊したのだろうか」と相手に罪と恥の意識を与える/男性などのパワーがある立場だからこそ得られやすい情報なのかもしれないのに、そんなことも知らないのかという態度で、まるで相手の情報や経験不足かのように罪と恥の意識を与える)

会議などで女性が発言した時、「私なんかがこんなところにいて、発言してすみません」と思わせる。女性に罪悪感を背負わせるテクニックだ。

男性や権力者が、弱い立場にいる女性に使いやすいテクニックを、女性が使い返すことはありなのだろうか?。副市長はこうコメントした。

「抑圧テクニックを今使われていると認識しているのが自分だけだったら、無視して議論し続けるのもあり。でも、抑圧テクニックが発動中だと、会場にいる人たちも共通して認識していたら、みんなの目の前で、同じ言い方で返して反撃することもできる」。

とはいえ、相手を「抑圧」するテクニックをやり返すかどうかは、自分で決めてほしいと、副市長は女性たちに判断を任せた。

議論の場にいるのが男性ばかりという構図は、「民主主義制度の弱体化だ」、と副市長は締めくくる。

性別に関係なく自分を表現できる業界に

バランセクンスト代表のホルデンさん Photo: Asaki Abumi
バランセクンスト代表のホルデンさん Photo: Asaki Abumi

バランセクンスト団体の代表であるサラ・ハウゲン・ホルデンさん。

女性の政治家が講師として初めて来た今回のイベントは大成功。今後も女性の政治家を招きたいと話す。

「副市長は女性たちにインスピレーションを与えてくれます。私もたくさんのテクニックを学びました」。

2009年に初期活動が始まったノルウェーのバランセクンストは、スウェーデンやデンマークでの視察体験を素にして発足したという。

「芸術や文化といえば先鋭的なイメージが強いですが、まだまだ男性に独占されている現状があります。ノルウェーでは、音楽の授業では今でもドラムやベースを選ぶのは男子生徒が多め。女性は歌や笛を選びがちです」。

「性別や社会が寄せてくる期待とは関係なく、誰もが自分の能力を発揮できる業界になってほしい」とホルデンさんは話す。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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