ノルウェーテロ映画化の葛藤 Netflix英語版が公開、極右思想とテロの関係

労働党青年部の夏合宿中に銃殺が起きたウトヤ島 Photo:Asaki Abumi

2011年7月22日。ノルウェー人男性、アンネシュ・ブレイビクにより、オスロ政府庁舎での爆破事件とウトヤ島銃乱射事件で、77人が命を奪われた。

7年の時が経ち、事件をテーマにした映画が続々と公開されている。

別記事「テロのニュースが日常化してきた世界でノルウェーが続々と映画化される理由

10月、ネットフリックスでは、ポール・グリーングラス監督による『7月22日』が公開された。

現地では物議を醸す作品として迎えられ、各新聞社では低評価の批評となった。ノルウェー人監督であれば、遺族や生存者に配慮しすぎて、「立ち入れない領域」に、グリーングラス監督は入り込んだからだ。

テロ犯がメインキャラクター

映画では、ブレイビクが重要な登場人物として登場している。

他のテロ作品では、「主人公は犠牲となった若者たちであり、犯人であってはならない」という考えで、ブレイビクは「影」の存在となっていた。

ブレイビクの思想が、他国に広まる。プロパガンダとして、同意する者にエネルギーを与えてしまうという懸念の声は、作品化が決まった時からあった。

テロのストーリーを誰に届けようとしているのか

ネットフリックス版を見た私が思った感想は、ノルウェーでのテロをよく知らない人には、一番わかりやすい作品だということだった。同時に、ノルウェー人監督であれば、確かに作れなかっただろう。

テロ作品は、「何が起きたか、大体知っている現地の人」と、「よく知らない、他国の人」向けかで、構成が変わる。

ノルウェー側が作る作品は、遺族や生存者の心を余計に切り裂くものであってはならない。だが、結果として、ブレイビクが影となるため、国外の観客には、全体像が掴み切れない、モヤモヤした感触を残す。ノルウェーでも、「他国の人には、うまく伝わらないのでは」という指摘が相次いでいた。

ノルウェー版『Utoya 22. juli』

3月に公開された、ノルウェー人のエリック・ポッペ監督の『Utoya 22. juli』。

テロリストが島で犯行をおこなったのは、72分間。銃声が始終響く中、恐怖で逃げまどう、子どもたちの姿を描いたものだ。

北欧ドキュメンタリー『Rekonstruksjon Utoya』

10月に公開された、スウェーデン人監督による『Rekonstruksjon Utoya』(製作国はノルウェー・スウェーデン・デンマーク)。

ドキュメンタリーとなっており、実際に生き延びた4人の若者が、当時、島で何が起きたかを語り、他の若者らが生存者の前で再演する試みが行われている。現場は、黒い室内。床には、島を再現するために、白いテープがはられている。

生存者が、顔と名前を出して出演し、何が起こったのかを語る。監督と生存者との間で、信頼関係がなければ、実現できなかったであろう、貴重な資料映像となる。

『Utoya 22. juli』と『Rekonstruksjon Utoya』は、ノルウェーテロをある程度知っている人のため作品。ブレイビクを主人公にさせまいとしたものだ。

ネットフリックス英語版『7月22日』

対照的なポール・グリーングラス監督のネットフリックス『7月22日』。

ブレイビクが、動き、話している。

島での銃殺に巻き込まれた、実在する2人の兄弟と、当時のノルウェー政府と首相のストーリーも描かれる。

ネットフリックス『7月22日』に登場する兄弟の弟は、俳優が演じている。ドキュメンタリー『Rekonstruksjon Utoya』では、その弟が4人の生存者の1人として、実際に出演している。2本を見ると、さらに全体像が掴みやすいだろう。

映画は犯人のプロパガンダ拡散となるか

遺族らは、ブレイビクの危険な思想が世界や後世に広まることを恐れてきた。

ノルウェーでは、事件から「学ばなければ」という思いが強い。

だが、「遺族や生存者への配慮」や、「もういいでしょう、前に進もうよ」という雰囲気が原因で、向き合おうとしていたはずの問題について、議論しにくくしてる。

犯人と同じような思想を持つ人々が実在する現実。普通の人間が、恐ろしい行為に走ってしまう可能性。過激思想を持つ人を、社会で孤独に放置しておくことのリスク。

グリーングラス監督は、ノルウェー現地の新聞社のインタビューでも、各国でポピュリストの波が渦巻いている今だからこそ、この映画を撮影したかったと語っている。

映画に登場するブレイビクの言葉からは、監督がどのような警報を発しようとしていたかが、伝わるのではないだろうか。

テロ映画がノルウェーで物議を醸す背景を、さらに深く理解できる別の話

ここで、ちょっと話の方向性を変えよう。

右翼ポピュリストの波と、テロを結びつけることは、単純すぎるだろうか。

偶然ではあるが、10月にテロ映画が2本公開される中、もうひとつのニュースがあった。

事件の記録を展示する「7/22センター」で、とある政治家のFacebook投稿が展示されていたのだ。

別記事「ノルウェー連続テロ犯と犠牲者の所有物を展示、悲劇を忘れないために」

ポピュリスト政治家のFacebook投稿

「労働党にとっては、国家の安全よりも、テロリストの権利を守ることのほうが重要」と、よりにもよってテロ映画『Utoya 22. juli』の公開初日に、リストハウグ元法務大臣(進歩党)が、Facebookに投稿したスクリーンショットだ。

ブレイビクの攻撃対象となったのは、ノルウェーの野党「労働党」の青年部(銃殺事件は、青年部の夏合宿が行われていたウトヤ島で起きた)。犯人は、いずれ移民をさらに受け入れる可能性のある、未来の政治家の卵(ノルウェーの民主主義の象徴)を狙った。

「イスラム移民のための労働党」というもともある陰謀説(ブレイビクの思想の源)を、大臣が助長するような行為は問題だった。

大臣の投稿が原因で、テロの生存者には脅迫まで届く。テロ映画公開日に、関係者はただでさえ敏感な心理状態にいた。

同氏は国中から批判を浴び、大臣職を辞任、首相は国民に謝罪している。

この時のFacebook投稿が、テロと関連付けられ、国が支援するメモリアル施設で展示されていたのだ。

展示のことを現地の右翼メディアサイトが取り上げ、事態が発覚。国会議員であるリストハウグ氏は憤慨した。

厳しい移民・難民政策を主張しただけで、このような扱いを受けると、同氏は怒る。

同センターは、このFacebook投稿展示を撤去する騒動に。

リストハウグ氏の言動と、世論の変化、テロの根源を結びつけることには、さまざまな意見がある。

右翼ポピュリスト政治の波

今、ノルウェー国会では、中道右派のソールバルグ政権が、2週間後には退陣となる可能性がちらほらしている。

別記事「ノルウェーは極右を政権から追い出すか 左派へ政権交代の可能性が浮上」

今まで政権に協力していた小さな政党が、右翼ポピュリスト政党である「進歩党」を嫌がり、右派から左派へと大きな方向転換を検討しているためだ。

そうなると、まさかの首相交代となる。

右翼ポピュリスト政党が政権にいることで、ノルウェーは「冷たい社会」になったと指摘する声は、現地では常にあった。

ノルウェーテロ、映画、ポピュリズム、政治を関連づけることは、単純すぎるようだが、関係性がゼロとも言い切れない。

ノルウェーではナイーブなテーマだからこそ、映画化は度々議論の種となる。

来年、ノルウェー国営放送局は、テロを特集する作品を公開予定だ。

Text: Asaki Abumi