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EV多すぎ?充電スポットの無料化終了へ 電気自動車の先進国ノルウェー、優遇策の変化

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
EV実験場の首都オスロ。アーケシュフース城要塞地下にある専用駐車場

北欧ノルウェーの首都オスロで、EVを運転してみると、EV運転者を増やすための「優遇策」とは何かを、体験できるだろう。

車を購入した時の税金免除だけではない。

ディーゼルやガソリン車が渋滞で並んでいる隣で、バスやタクシー専用道路を、EVがすいすいと走っていく。結果、EVでは、30分~1時間の時間ロスを避けることができる。

EVを購入する金銭的余裕のない人々の間には、「EV嫌い」と呼ばれる、嫉妬が混じった感情がある。EV嫌いの人たちが集まった、Facebookグループがあるほどだ。

「優遇策はいずれなくなる」という噂

一方で、ノルウェーで車を運転し、最低限のニュースを追っている人なら、頭に染み付いている「噂」がある。

「EV優遇策は、いずれなくなる……」。

別記事「ノルウェーで世界記録 新車の約半分が電気自動車EVに」

もう十分にEV利用者が増えてきたノルウェーでは、政府や自治体が市民の税金を使って、EVを優遇する理由が、かつてほどなくなってきた。

だが、気候変動や環境対策、西欧最大の石油生産国である責任、2025年までにはすべての新車をゼロエミッション車にしたい政府目標を考えると、優遇策をストップするのは早すぎるという声もある。

市民の交通手段である車は、ノルウェーではとても政治的なものであり、環境問題とも密接に結びつく。

毎年の国家予算案が発表される時、選挙がある年には、EVは重要な政治議論テーマともなる。

EV優遇策はどうなるのか、なくなるのか。

ノルウェーでの市場調査では、人々がEVを選ぶのは、「気候変動や環境のため」ではなく、「お金が節約できる優遇策があるからだ」という結果がでている。

人気の観光スポットでもあり、映画『アナ雪』のモデルともなったアーケシュフース城。要塞地下には、86台が駐車可能なEV専用の充電駐車場がある。Oslo Innovation Weekのグリーンツアーで視察した際に撮影 Photo:Asaki Abumi
人気の観光スポットでもあり、映画『アナ雪』のモデルともなったアーケシュフース城。要塞地下には、86台が駐車可能なEV専用の充電駐車場がある。Oslo Innovation Weekのグリーンツアーで視察した際に撮影 Photo:Asaki Abumi
城要塞の専用駐車場にはEVの車がずらりと並ぶ Photo: Asaki Abumi
城要塞の専用駐車場にはEVの車がずらりと並ぶ Photo: Asaki Abumi

どれくらい安いの?

「安い、というのは、どれほど安く買えるのか?」

オスロ県の都市環境課を取材した際にいただいた、とある資料の一例を紹介しよう。

※ノルウェーは、スウェーデンより物価が高い。

テスラ モデルSの価格例

ノルウェーで買った場合 6万3000ユーロ

隣国スウェーデンで買った場合 8万ユーロ

シボレー カマロの価格例

ノルウェーで買った場合 17万2000ユーロ

スウェーデンで買った場合 50万500ユーロ

「環境を汚染する者が、その対価を支払う」という、ノルウェーの考え方が反映された仕組みだ。

金額と充電インフラの問題を解消せよ

北欧5か国(ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、アイスランド)でのEV市場調査でも、「EVを買わない」という人たちの理由ナンバーワンは、「金額が高すぎるから」(43%)だ。2~5位も、「持続可能距離が短い」、「充電スポットが足りない」という旨の理由が占める。

EV実験場、オスロ。3年間で1800の公共充電スポットを増設予定

オスロは、ノルウェー国内で最も多くのEV専用充電スポットを提供している。県が提供する公共充電スポットだけでも、およそ2000か所。

2018~2020年には、1800の充電スポットを増設する予定。

EV政策の方向性は、右派・左派の政党間でも大きな変わりはない。

EV充電スポットを無料から有料へ

9月、オスロ県議会の行政部は、来年度の首都予算案を発表(労働党、緑の環境党、左派社会党による連立左派議会)。

中心部から車を減らす計画を実行中のオスロ県議会(写真は政治家が働くオスロ市庁舎。駐車場は撤廃され、イスやカフェが置かれた) Photo:Asaki Abumi
中心部から車を減らす計画を実行中のオスロ県議会(写真は政治家が働くオスロ市庁舎。駐車場は撤廃され、イスやカフェが置かれた) Photo:Asaki Abumi

EVとハイブリッド車は、公共の充電スポットで「利用料金」を支払うことになると発表された。

これまで無料であることだったことを考えると、大きな変化だ。

「え~!」、という不満の声が多いと思うだろうか。

実は、「そのほうがいい」という声も目立っている。

「EVであれば充電が無料」=「充電中でなくとも、無料で駐車できる」状態がうまれていたからだ。

充電していなくても、無料駐車できていた問題

EV専用の駐車場。手前は充電中の車、後ろは充電していないが無料駐車中 Photo: Asaki Abumi
EV専用の駐車場。手前は充電中の車、後ろは充電していないが無料駐車中 Photo: Asaki Abumi

来年までに中心部のカーフリーを目指すオスロでは、路上駐車場を減らしており、駐車できるスポットを探すのが大変だ。駐車できていたとしても、料金は高く、駐車時間も限られている。

結果、「車を駐車させておきたいから」、充電する必要がないのに、充電スポットに駐車するEV運転者が増えた。

本当に緊急で充電が必要な人にとっては、イライラする状況だ。

ある程度の使用料金を課したほうが、ただ無料駐車したいだけの人を遠ざけ、充電スポットを効率的にみんなで使用できるかもしれない。

充電スポットから集まったお金は、オスロのEV充電スポットをさらに増設するための資金として活用される。

最終的に、充電料金がいくらになるかはまだ発表されていないが、大きな額にはならないとされている。

補助金制度で、オスロは来年に1万6500か所の充電施設を増設

また、オスロ市議会は新たな予算を投じ、集合住宅、タクシー運転手の自宅、企業でのEV充電スポット増設で補助金を出すと発表。

結果、2019年には、新たな公共充電スポットに加えて、補助金制度により1万6500か所の「民間施設・自宅」充電スポットが誕生する予定。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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