「幸福な国」ノルウェーのテレビ局が暴いた物乞い犯罪組織 現地で賛否両論

観光都市ベルゲン、今年7月夜の風景 Photo: Asaki Abumi

ノルウェーの第二の規模の都市ベルゲンといえば、世界中からフィヨルド観光客が集まる街だ。

4月、ノルウェー国営放送局NRKは「幸福な国」というタイトルのドキュメンタリー番組を放送。ベルゲンに根付いた巨大な「物乞い」犯罪ネットワークを暴いた。

物乞い、ロマ民族かのように思われる人々がベルゲンに集まり、同じ建物で暮らしていた。

道路で物乞いをするだけではなく、女性たちは夜間に売春婦として街頭に立ち、男性たちは薬物を販売していた。あまりにも安い価格で簡単に入手できてしまうため、現地の薬物依存者たちは誘惑を断ち切れずにいた。売春婦の若い女性たちは母国で貧困家庭で育ち、行き場所がないまま犯罪組織に利用されていた。

番組では、ベルゲン現地のサポート団体が夜に街を周る姿を捉えていた。女性たちにコンドームなどを無料配布し、彼女たちがいつでも助けを求められるように、信頼関係を築こうとしていた。しかし、組織の監視役が常に周囲にいるため、会話を阻止されることもあったと、団体スタッフは番組で語る。

ノルウェーでは物乞いは全国レベルでは禁止されていない。各自治体の議会は禁止することを選ぶこともできるが、人道的ではないとの批判も浴びやすいため、禁止という対策は人気がない。

公園や森の中で野宿をしはじめるが、追い出したところで別の場所に移動するのみで、解決にはならない。禁止するか・しないかという議論は、各地で何年間も続いている。

物乞いたちは自分たちの意志で街頭にいるのか、それとも巨大な犯罪組織が全ての収益を独占しているのか。

組織がいるのであれば、「かわいそう」だという善意で現金をあげていたノルウェーの人々は、組織の金儲けや人身売買を知らずに援助していたとも考えられる。

ノルウェー全国にどれほど違法で入国した物乞いがいるのか。犯罪組織がどれほど関わっているのか。(納税せずに)どれほどノルウェーで利益をえているのか。実態を数字で把握することは困難を極める。

公園に排便をされては困るという人もいる。ノルウェーはお金がある国だ、貧困で苦しみ、お金を乞う人に対して、なにかしてあげたいと思って何が悪い、と思う人もいる。どの立場の人も感情的になりやすく、議論は毎年繰り返される。

国営放送局の生々しいドキュメンタリーは、ノルウェーの人々に衝撃を与えた。番組側は隠しカメラで2年間かけて取材。

怪しげな人々が共存する建物で、男たちは中の様子をFacebookにアップしていた。高価な時計や大量の札束の写真。優しいノルウェー人たちからもらったお金で、実は楽しそうな生活をしている男性たち。女性は日中は長いスカートを履いて物乞いとなり、夜間はジーンズと革ジャンを着て、街で身体を売る。

以前、ノルウェーの町スタヴァンゲルにもこのネットワークはいたが、現地の警察の取り締まりにより、彼らはその後ベルゲン、オスロ、トロムソという別の街、そして別の国フィンランドへと渡ったという。

とはいえ、ベルゲンにいる全ての物乞いがこの犯罪組織に属しているわけではない。

テレビ局は予想していたであろう。番組放送後、物乞いをネガティブに放送することに人々やライバルの報道機関は賛否両論だった。

放送後、翌日からベルゲンの人々は物乞いに対する態度を激変させた。

罵倒を浴びせられ、足で蹴られ、冷たい目でみられるようになった。小銭をくれなくなったノルウェー人の変化に物乞いの人々は戸惑った。ノルウェー語がわからない彼らは、どのような番組が放送されたのかを知らなかった。この様子を他の報道局はすぐさま伝えた。

本来は組織に利用されている被害者でもあるはずの物乞いの人々。組織の親玉たちが通りで罵倒を浴びせられることはない。

ノルウェーの人々が一気に冷たくなったことに驚き、現地のサポート団体には、困惑する関係のなかった物乞いの人々が押し寄せた。唾を吐いてくるノルウェー人もおり、「怖い」とベルゲンを去りたがる人もいた。

現地の複数の支援団体は「全ての物乞いが番組のような環境にいるわけではなく、放送内容は偏りすぎていた」と批判した。

放送から約3か月たった、7月26日、国営放送局はベルゲンの街から売春婦の姿が激減したことを伝える。Facebookで調べると、この組織は他の国、アムステルダム、マルメ、ヘルシンキなどに移動しているという。

局は、「幸福な国」という番組放送後、「売られる少女たち」という続編を放送していた。

犯罪組織に利用され、結婚をせまられ、妊娠させられ、「夢のような生活ができるよ」という甘いセリフで欧州他国へ連れていかれ、売春婦として生きることを強要される少女たち。

番組で紹介されたブルガリアにあったノルウェー王国大使館のヴィコール大使は、現地のロマ民族や女子教育を支援する活動に積極的だった。

ヴィコール大使は番組で、ノルウェーの街頭で物乞いのコップにお金をいれることは解決にはつながらないと語る。

「ルーマニアやブルガリアにあるスラム街で、ボランティア活動する団体を金銭的に支援してください。子どもたちが学校に通い、自分の生き方を自分で決められるように。ノルウェーの通りに座っている人たちにお金をあげても意味はありません」。

Text: Asaki Abumi