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音楽祭=友人との宴会に?ノルウェー人42%のフェス目的は「音楽以外」

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
オスロでのオイヤ祭、夏は全国各地でフェスが開催中 Photo:A Abumi

ノルウェー国民のたった半数のみが「音楽をきく」目的でフェスに参加するという調査結果がでた。

ノルウェー国営放送局NRKと市場調査企業Norstatの調べによると、音楽フェスで最も重要なことは「友人や知人との交流」が42%、「舞台でアーティストが披露する音楽をきく」が53%、「その他」が4%。

調査対象の1000人のうち22%は「音楽フェス」には一度も行ったことがないと答えた。NRKの記事は「たった半数の観客のみ」音楽が一番の目的ということを、意外性をもって伝えた。

筆者はノルウェーでのフェスをよく取材するが、フェスの楽しみ方にはノルウェーと日本とは違いがある。ポップなどポピュラー音楽が多いフェスはノルウェーではチケットはよく売れ、メディアの注目度も高い。一方、観客はビールを飲み、友人との時間を楽しむことを重要視している。結果、アーティストが歌っている最中におしゃべりをしていたり、撮影をしたり、酒を飲んでいることはよくある光景だ。音楽が第一ではなく、音楽がBGMとなるのだ。これを気にしないか、問題視するかは人によるだろう。

フェスを商業的に成功させるために、酒の売り上げをあげることが主催者の間では重要視されてしまいがちだ。一方で、「酔っ払い、騒いでいる人が多くて音楽が楽しめない」と、悩みの声を新聞社などにコラムとして寄稿する人もおり、この議論は毎年恒例のものとなっている。

最近では、フェスで記念撮影をしてSNS投稿に夢中になる人が多すぎるという声もある。フェスでのスマートフォンの使用についてはプラスとマイナスの両方の捉え方がある。筆者が通っていたオスロ大学大学院メディア学科では、このことを新しいメディア・音楽ビジネスとして、研究チームが立ち上がっていたほどだ。

ノルウェーのアーティストを取材していると、来日公演をした多くの人は、「日本では観客が一生懸命に歌をきいてくれて、驚いた。ノルウェーではもっとおしゃべりをして、酒を飲んでいる人が多い」という感想をのべる。

ただ、これはポップがメインのフェスでよく指摘される傾向だ。ジャズ、フォーク音楽などのフェスでは観客の年齢層が高まり、ネット投稿が減り(つまりフェスの宣伝にはつながらない)、酒を飲んで話しながら音楽をきくという人は減少する。

伝統音楽の多いフォルデ祭では演奏をきくことに集中する人が多い
伝統音楽の多いフォルデ祭では演奏をきくことに集中する人が多い

NRKの記事では、ノルウェーのロックバンド「Kaizers Orchestra」のボーカルであるJanove Ottesen 氏がこう答える。「アーティストに才能さえあれば、観客を振り向かせることはできるはず。他の国の観客のほうが確かに音楽をきくことに長けている。ノルウェーではフェスはパーティーだ。それでも、ノルウェーの観客はここ数年で聞き上手になってきていると思う」。

Slottsfjell音楽フェスのチーフであるロッド氏はNRKに、「以前は音楽が最重要事項だったが、今は音楽はフェスにくる理由のひとつに変化した」と語る。

フェスがどうあってほしいかは人によって意見が異なるが、ノルウェー人の行動パターンやトレンドを分析するうえでは、フェスという環境は観察しがいがあると筆者は感じる。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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