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トナカイの移動を延々と生放送、TV局員の過酷な労働環境を考慮して一時放送中断へ/ノルウェー

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
移動するトナカイと放牧する先住民族 Phoot:NRK

24日より、すでに1週間も続いている[ノルウェーのスローテレビ「トナカイの移動編」が開始!約1週間、延々と生放送 ノルウェーのスローテレビ「トナカイの移動編」]。24時間ノンストップで生放送されており、撮影している国営放送局NRKの公式HPでは全世界から視聴が可能だ(日本からも視聴可)。

しかし、今回はスローテレビに異変が起きている。原因は人間がコントロールすることのできない「自然環境と動物」だ。

今回は冬の牧草地から夏の牧草地を目指して、先住民族サーミ人にテレビ局が密着。しかし、移動のタイミングを決めているのはトナカイ自身で人間ではない、

トナカイが移動を開始しないため、放送日はすでに予定より3日遅れての開始に。放送から5~7日後には目的地へ到着しているとみられていたが、悪天候などが重なり、トナカイの移動スピードも遅く、一向に終わる気配がない。

スローテレビといえば「のんびりとした」放送が売りだが、トナカイや自然の気まぐれな時計はさらにのんびりとしていた。

雪と山に囲まれた北極圏で密着を続けていたテレビ局スタッフ。24時間生放送という体制で、これ以上続けるとノルウェーの労働環境法に触れることになる。特殊な撮影地のため、有能なスタッフを簡単に交代させることもできず、放送を一時中断することに。これまでのスローテレビでは起こりえなかった事態だ。

「問題は予算ではなく、なによりもスタッフの労働環境です」、「私たちはすでに長時間労働を続けており、身体の健康を考慮する必要があります」、「自然の法に従うトナカイには放送日や日付は関係ないのです」と、番組チーフのムックレブスト氏は現地の各報道局に語る。

同番組ディレクターのハッタ氏は「私自身も疲労し始めています。一度放送を中断し休憩し、ファイナルシーンを視聴者の皆様にお届けするほうが得策だと思っています」とNRKに語る。

今回の番組での山場は、目的地クヴァル島への「海の横断シーン」だ。現在の放送は5月1日22時に一時中断され、トナカイが海水浴をする時に放送が再開されることに。しかし、予定よりも移動が遅れているため、放送日が何日後になるかは誰も明言できず、「木曜日か、金曜日か、土曜日かもしれない」とされている。

NRKのサイトやTwitterには、「見ているとストレスが解消できて、とても良いリラックスになっています」、「これなら喜んで受信料を払うよ」、「何も起こらないのが最高」、「スタッフの人が疲れているだろうことは理解できます。今までありがとう!」というような様々な反応が届いている。

28日の時点では、「トナカイの移動編」の視聴者数はおよそ100万人(ノルウェーの人口は520万人)。毎分1万7000人が視聴し、約25%は国外からの視聴者となる。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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