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ノルウェーコーヒー界の伝説の人、ティムが伝えたいこと

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
北欧のコーヒー界を代表する1人、ティム・ウェンデルボーPhoto:A Abumi

ノルウェーを代表するスペシャルティコーヒー界の「神様」的存在といえば、ティム・ウェンデルボー氏。グリーネルロッカ地区にはコーヒーショップ「Tim Wendelboe」があり、世界中からコーヒー好きの旅人がやってきます。ティムといえば、コーヒー農家を頻繁に訪れ、世界中を周りながらイベントのために出張しているため、ノルウェー国内にいることは稀。

コーヒー業界では、「カッピング」という味見会が開催されることがあるのですが、オスロ各地のカフェでは一般向けにも無料で開催されています。なんと、今回はフグレン・オスロでのカッピングで、ティム本人が登場!

これはどれだけすごいことか?私はノルウェーで暮らし始めて9年目。コーヒーイベントの情報は多く知っているほうなのですが、業界関係者ではなく一般人向けの現地カッピングで、ティム本人がホストをしているのを初めてみました。

コーヒー農家や適正価格、カッピングの仕方を分かりやすく説明するティム
コーヒー農家や適正価格、カッピングの仕方を分かりやすく説明するティム

通常であればカッピングは自由参加ですが、今回はティム本人がくるという異例の事態。狭い会場が混雑しないように、その日の朝から限定の参加チケットが配布され、午前11時にはもう配布終了していたそうです。ティム本人からコーヒーの話を聞けるなんて、なんて贅沢。しかも無料。

コーヒー1杯は安くて当然?

ケニア、コロンビア、エチオピアなどの国では、農家の人々が一生懸命にコーヒーを栽培しており、その人々がいるから私たちはおいしいコーヒーが飲めます。1杯の価格が安すぎると、農家の人々が最低限の基準で現地で暮らす収入を得ていない可能性があります。だからこそ、なぜコーヒーの仕入れ情報などが透明に公開され、信頼できるブランドを選ぶべきか。ティムはこれまでもずっとそのことを伝え続けてきました。

Instagram @timwendelboe
Instagram @timwendelboe

上の写真はティムの公式インスタグラムより。農家の人々がどのような生活環境にあるかを頻繁に伝えています。かつては老朽化した小さな家で、電気もない状態で暮らしていた家族ですが(写真上の家)、収入を基にやっと新しい家が立ち、子ども部屋、新しいキッチンなどができました(写真下の家)。「これが私たちがコーヒーにもっと多くのお金を払う理由です」とティムは書いています。

コーヒーの好みは人それぞれ

エチオピアからのHUNKUTEコーヒー。ベルガモット、レモン、ジャスミンの味
エチオピアからのHUNKUTEコーヒー。ベルガモット、レモン、ジャスミンの味

オスロのコーヒーといえばライトローストで酸味が特徴的。ティム・ウェンデルボーから販売されている数種類の豆の中には「HUNKUTE」があります。これもスカンジナヴィア独特のライトローストコーヒー。しかし、「酸味は苦手」という人も中にはいます。

「私はこのコーヒーを素晴らしいと思っていますが、母はどうやら嫌いなようです。コーヒーではなくて、お茶のような味がするってね。アールグレイティーのような味がエチオピア」と笑いながら話すティム。私がオスロで飲むコーヒーがおいしいと思う理由が、まさにこの「お茶のような味」だから。何年も前に、オスロでフグレン・トウキョウのマネージャーである小島賢治さんとティムの店でコーヒーを飲んだ時、「紅茶のような味ですね!」と口にしたことを覚えています。

「おいしい」の基準は人それぞれなので、自分がコーヒーを飲む時間を楽しいと思えるテイストに出会えるのが一番。北欧各国ではコーヒーは頻繁に飲むもの。コーヒーとの暮らしが楽しめると、毎日のワクワクがちょっとだけ増えるかもしれません。

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北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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