ノルウェーが自論を展開 「ドーピング合法化/選手も人間、組織体制の被害者/病気の治療くらいOK」

病気やケガの治療のためなら禁止薬物使用も許すべき? Photo: A Abumi

クロスカントリースキーを代表するテレーセ・ヨーハウグ選手が、ドーピング検査で陽性反応を示した。この騒動は今も続いている。

'''記事掲載後の追記

速報:ヨーハウグ選手に2ヶ月間の活動停止という仮処分をアンチ・ドーピング・ノルウェー機構が発表'''

ノルウェースキー界の女王が禁止薬物陽性 「私に一切罪はない」と責任否定し、記者会見で号泣

リップクリーム外箱に「ドーピング」注意印が記載されていた

18日、特に大きな注目を集めた議論は、ノルウェー・サウスイースト・大学カレッジのスポーツ社会学者、ヤン・オーヴェ・タンゲン氏だった。研究者による寄稿記事が掲載される公式HPで、同氏はこう語る。

ドーピングは、問題でもあり、同時に解決策でもある。トップスポーツでは、矛盾を解決するために、選手個人に責任を押し付ける。メディアは個人の責任という議論に火をつけ、政治家は個人を罰する法律を作り、研究者は口を閉じる。本来の問題に目はむけられず、選手というレベルに議論の焦点を差し替える。トレーナーやリーダーたちは責任から逃れる。期待をかけた観客、スポンサー、マスコミも責任から逃れる。政治家は、トップスポーツを正当化し、経済支援される法律をつくる。国際競技で、国家の知名度と影響力を高めるために。

その矛盾を解く先進的な解決策がある。治療のためであり、医療チームによってしっかり管理されているのであれば、トップスポーツではドーピングを許すべきだ

アンチ・ドーピングにかける活動労力を節約し、選手の健康管理にそのエネルギーを注ぐことができる。

出典:forskning.no

同氏の提案は、批判を浴び、「物議を招く」意見として注目を浴びる。国営放送局をはじめ、複数の大手メディアでゲストとして招かれ、報道された。もし、この提案が本当に「議論の価値なし」と編集チームが判断したのであれば、そもそもニュースとはならないだろう。

同氏は、TV2で、「トップアスリートたちはグレーゾーンにいる。最高の結果をだすために、合法・非合法のすべての可能性を試そうとする。禁止領域には、グレーゾーンがある。だからこそ、医療班に管理さている状況下であれば、ドーピングは合法化されるべきだ」

選手だって人間、一般人と同じように薬を使用してもいいはず。あんなに唇が腫れていたのだから

筆者は、取材で様々な業界のノルウェー人に出会うのだが、今回のドーピング騒動をどう思うか連日意見を聞いている。一般人である彼らからよくでる言葉の一部が、「選手だって人間なのだから、本当に体調が悪いときは、みんなと同じように薬を使用してもいいはず」。また、「運動能力向上のためではないのだから」という内容だ。

1人目のスンビー選手のぜんそく治療薬問題でも、2人目のヨーハウグ選手の唇治療薬問題でも、両選手とも、泣きながら、自分のせいではないことを記者会見で主張した。選手たちとスキー連盟が報道陣に強調したひとつが、「選手がこの身体的問題をこれまでも抱えていたことは、報道陣の皆さんもご存じだったでしょう」ということだった。選手をよく知る現地報道陣に理解を求めたのであろうが、その同情の買い方は、他国の人々には通用しない。

ノルウェー独特の視点と議論は、他国では理解しがたい

「ヨーハウグ選手には悪気はなかった」(天使のような彼女が悪いことをするはずがない)、「(もちろん)運動能力向上のためではないいはず」とノルウェーの人々は前提で議論している。しかし、他国の選手や人々は、そもそもノルウェーの選手に同じような深い愛着がないので、同じ視点と感情論で騒動をみれないだろう。

別の問題も発生している。今回の件でナショナルチームのドクターは全責任を背負って辞任したが、今代わりの医師がチームにはいないのだ。ノルウェーのナショナルチームは、今週イタリアのVal Senalesに合宿にいくが、引率予定だった医師は辞任したため、チームドクターがいないということになる。国営放送局のクロカン専門家であるビョーン氏は「大きなふたつの騒動のあとなのだから、医師が引率していたほうが安全でしょう」と懸念を示す。

「選手は無実で、組織体制の被害者だ」という世論が強いノルウェー。もし、いつか3人目の騒動が起きてしまった場合、また巨大な組織システムと医師のせいにするのだろうか。

合宿先には他国からの選手や報道陣も集まるため、今回の騒動は外国人関係者から厳しい指摘を受けることも予想されている。チームのトレーナーは、「聞きたいことがある方々には答えるようにする」と回答

ヨーハウグ選手は、号泣記者会見後に、この遠征への参加を希望していたが、「まだ処分が決定されていない状況下で、おかしいのでは」という批判報道をうけ、参加をあきらめた。

Photo&Text: Asaki Abumi