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ポケモンGO、ノルウェーでも社会現象 シャイな国民性に変化、議員が国会で「遊び」議論

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
人気のポケストップとなったオスロの彫刻公園 Photo:Asaki Abumi

オスロの街の風景が一変!

ヴィーゲラン彫刻公園でゲームをするヴィークさんPhoot:Asaki Abumi
ヴィーゲラン彫刻公園でゲームをするヴィークさんPhoot:Asaki Abumi

ノルウェーでは7月16日にポケモンGOがリリースされ、大きな社会現象となり、連日のニュースを賑わせている。首都オスロには、観光スポットをはじめとしてポケストップやジムが数多く設置されている。若者を中心に、街を出歩く人が明らかに急増中だ。

7月といえば、多くの人が3週間ほどの夏休みをとり、バカンスに出かける時期だ。観光客は増え、市民の姿は減る傾向にあるのだが、この夏はその風景に変化が起きている。

できる限り多くの距離を移動するために、市が貸し出すシティバイクはレンタル率が急増。若い市民は通常は訪れない場所にも人の姿が増え、「観光スポットの関係者は喜びの声をあげている」と、オスロ観光局VisitOSLOのマルティーネ・セシリエ・ヴィークさんは話す。

シャイなノルウェー人が、初対面の人と通りで話すように

ヴィークさんと初対面で会話しはじめた、市の自転車で移動する若者
ヴィークさんと初対面で会話しはじめた、市の自転車で移動する若者

北欧の中でも、ノルウェー人の国民性といえば、「親切だが、初対面の人にはシャイ」という傾向がある。知らない人にはめったに話しかけないのだが、そのカルチャーにも大きな変化を起こしている。

ヴィークさんと一緒に街をポケモンGOをしながら歩いていると、トレーナー同志が目を合わせ微笑み合ったり、急に会話を始めたりするのだ。これには正直驚いた。

「このポケモン見た!?どこにいた!?」、「そのピカチュウのコスチューム、どこで買ったの?」と、まるで、前から友達だったかのように自然と会話が始まる。このことに関しては、取材中に話した人々が、「ノルウェー人らしくないよね」と口を揃えて笑っていた。共通の趣味と話すきっかけを提供しているポケモンGOの貢献度は大きい。

オスロフィヨルド沿いに集まる若者 Photo:Asaki Abumi
オスロフィヨルド沿いに集まる若者 Photo:Asaki Abumi

オスロフィヨルド沿いにある観光エリア「トゥーヴホルメン」にも、ゲーマーの姿が目立った。気温の高い日には、フィヨルドに飛び込んで、のんびりと日光浴もできるため、人気のスポットとなっている。

「外出が増えた」

ソルバルグさん(左の女性)とマリウスさん(右の男性) Photo:Abumi
ソルバルグさん(左の女性)とマリウスさん(右の男性) Photo:Abumi

レベル23のアイナ・ソルバルグ(24)さんと、レベル15のマリウス(21)さんに出会った。

「郊外に住んでいますが、ボートで頻繁にやってきて、のんびりしながらゲームを街中で楽しんでいます。ゲームを始めてから、外出して歩く距離は明らかに増えました。ポケモンを探すためだけに、いつもより犬と長く散歩したり」と、「通りで知らない人とも話すようになった」とソルバルグさんは話す。すでにここで座りながらゲームをして2時間半たつそうだ。「あそこでウロウロしている人、私の父親よ。一緒にゲームしているの」と、笑いながら年配の男性を指さした。どうやら家族のコミュニケーションツールとしても役立っているようだ。

政治家も夢中。庶民アピールか。でも国会でのゲームはやめたほうがいい?

Instagram: @hoyre
Instagram: @hoyre

ノルウェーの政治家たちもポケモンGOに夢中になっている。政党に限らず、多くの政治家がゲームには熱中しているのだが、「あそこの党と我々を同等扱いしないでほしい」という、いつもの政治家の喧嘩ゲームが始まった。

野党だが最大政党の労働党は、一足先に「ポケモンGO大好き」アピールをSNSで展開。国会はポケモンストップにもなっているため、国会での会議中などもゲームを楽しむ議員や党員が多いことを伝えていた。

これに対して疑問を投げかけたのが、首相が率いる与党の保守党。全国紙アフテンポステンに対し、保守党のルンデ議員は「国会は遊び場ではない」と苦言を呈した。しかし、各メディアは、その発言の数週間ほど前に、保守党の公式アカウントがインスタグラムですでに自爆投稿していることを指摘。通常は議論が行われる国会ホールにポケモンがいる画面を投稿し、「ほら、みてください!」と喜んでいた。

ネットでのいじめ問題に発展する懸念?

歩きスマホによる事故や、女性が痴漢被害にあうリスクなどはノルウェーでは日本ほど報道されていない。レベルがあがった公式アカウントのネット売買を人気サイトが禁止したり、病院や一般家庭の敷地への侵入を控えるように警察が促すことなどは取り上げられた。7月30日の報道では、ノルウェー国営放送局が、将来的に若者の間で新しい「いじめ」問題につながるのではという懸念を紹介。精神科医やフェイスブックでのゲームページ責任者が、「ジムでのバトルチーム同志の間で口論が起きやすい」という現状を説明した。

オスロ観光局のヴィークさんは、「ノルウェー人は、今までスナップチャットを至る所で使い、フェイスブックやツイッターでライブストリーミングをしてきました。ポケモンGOの参入は、個人のプライバシーや写真のシェアについて、これからさらに重要な議論を迎えるでしょう」と語った。

このようにリスクも懸念されているが、若者の行動思考を変え、街に人が増え、徒歩での外出が国民の健康づくりにつながるかもと歓迎する風潮がノルウェーでは強い。ここ数日間、オスロをゲームをしながら歩き回ったが、なによりも、シャイな傾向が強いノルウェーの人々が、見知らぬ人と公園や通りで急におしゃべりを始める光景は、革命的に映った。

地球の歩き方オスロ特派員ブログ「オスロ観光でポケモンが見つかるおすすめポケストップ」

Photo&Text:Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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