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欧州で難民に最も厳しい国を目指したノルウェー、実現できず。国会が「NO」

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
ノルウェー移民・社会統合大臣 Photo: Asaki Abumi

ノルウェー移民大臣の厳格な提案に他政党が猛反対

昨年末にシルヴィ・リストハウグ移民・社会統合大臣(進歩党)が提案した、難民申請者と難民の受け入れを厳格化した法案40か条。約半年間にわたる議論が続いていたが、6月10日に国会で最終討論と審議がおこなわれ、同大臣が望んでいた複数の法案が却下された。「厳しすぎて、難民が社会に溶け込めないだろう」、それが対立した政党の意見だった。

却下された法案は、特に厳しすぎると、赤十字社をはじめとする様々な団体や国連などからも批判が殺到していた。

却下された厳しすぎる法案

15歳未満の子どもが単独でノルウェーに避難してきた際、18歳になるまでは「一時的な滞在許可」しかおりないことがそのひとつだ。「永住ビザをもらえるかどうか分からずに過ごす期間は、子どもを精神的に不安定させる。社会になじもうとするモチベーションが下がるだろう」という批判が目立った。

難民が家族を呼び寄せるためには、単独で4年間、ノルウェーで労働や教育を受けることを大臣は求めた。しかし、「紛争地から逃げてきた難民が、家族と何年間も離れて暮らすことはつらい。家族が側にいたほうが、社会でがんばろうというやる気につながるはずだ」という批判があがった。

難民が家族を呼び寄せるためには、年間25万2千クローネ(約325万円)の年収が必要とされていた。大臣は、難民がノルウェーの福祉制度に依存することを防ぐために、30万5200クローネ(約394万円)へと引き上げを提案していたが、却下された。

また、永住ビザ獲得の条件として、ノルウェーでの滞在期間を3年から5年に引き上げること、福祉制度の恩恵を受けやすい「難民」という定義に変更を加えることも却下された。

リストハウグ大臣は、「福祉制度が豊かな北欧が、難民申請者の夢の地になりやすい」ということを危惧し、「難民に非魅力的なノルウェー」ということを国外にアピールすることの必要性を強調。40か条が全て可決されることを望んでいた。しかし、最も厳しく、特に進歩党の色合いが濃かった法案が却下され、多少不満げだ。

与野党で合意するはずだった移民法案に、反対派が続出

ソルベルグ首相のいる保守党と連立政権を組む進歩党は、法案が可決される可能性が高いと見込んでいた。しかし、通常は合意体制をとっている他政党や、当初は賛成に協力するはずだった野党が一斉に反対派にまわり、大多数を得ることができなかった。

政策討論がおこなわれるノルウェー国会 Photo:Asaki Abumi
政策討論がおこなわれるノルウェー国会 Photo:Asaki Abumi

右翼ポピュリスト政党の政治を強行しようとしたことが、亀裂となる

反対派が大きくなった原因には、進歩党が他政党の意見や外部からの批判の声を大きく無視して、「進歩党の政治」を強行しようとしたことにある。当初は、右派・左派に限らず、できる限り全政党で合意していくはずだった。しかし、進歩党が暴走し、他政党の不満が爆発する形に。

「難民問題は、全政党で協力して向き合っていきましょう」と団結を求めていた首相だったが、パートナーである進歩党を上手くコントロールできていないと、その統率力が最終的に批判されることとなった。

また、来年の国政選挙で逆転し、再び首相の座を狙っている最大政党の労働党が、後半に反対にまわったことが与党を苛立たせることとなった。進歩党と労働党の移民・難民政策は、「どちらが、ましか」という点で選挙の大きなポイントとなるとされている。今回は、反対派に回った野党と少数政党が底力を発揮するかたちとなった。

移民大臣の過激発言に批判殺到

国会討論では、リストハウグ大臣のこれまでの過激な発言に対して、「世間に異端者恐怖を拡散させている」など批判が殺到した。同大臣は、「労働党はコロコロと意見が変わる」、「あなた方は、今後押し寄せてくるであろう、新たな難民申請者の波や危機を、現実的に直視できていない。他国より寛容な国だとのシグナルを、外部に送るべきではない」と反論していた。

地元の報道では、大臣とリストハウグ大臣が各政党をまとめられなかった統率力の欠如と、進歩党の強硬策を批判する報道が目立った。最大手全国紙アフテンポステンは、編集部の社説で「ましな移民法案となった」と、改善された案を支持した。

大臣は自身のフェイスブックで、「多くの法案が可決されて、これでノルウェーの歴史上、最も厳しい移民政策が達成できた。労働党が途中で立場を変えることがなければ、もっと厳しい法律ができたことでしょう。また難民申請者の波がやってきたときでは、手遅れなのに」と投稿した。

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Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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