政治的な女性運動、平等先進国ノルウェーの今 まだ壊せないガラスの天井
平等先進国、ノルウェーは女性の日を盛大に祝う
男女平等先進国とされるノルウェーでは、国際女性の日(3月8日)は盛大に祝われる。オスロ中心地で開催されたセレモニーとパレードには約3千人が集まった。パレードでは男性も含め、スローガンを掲げた政党、企業、団体、一般市民が参加する。
今年は3月8日委員会オスロ支部によって17のスローガンのテーマが提案された。
「フェミニズムに国境はない、逃げる女性に庇護を」など、「平等な賃金」、「ポルノ文化をやめよう」、「みんなに幼稚園・保育園を。もちろん難民の子どもにも」など。難民や難民申請者の女性や子どもの庇護を求めるものも目立った。
女性運動は政治的
ジェンダー平等という課題は政治的だ。「左派勢力のためのパレードだ」という批判もあり、全ての政党が参加しているわけではない。現政権を担う、右寄りの保守党や進歩党の旗は見かけられなかった。
パレード以外にも女性の活躍を祝う方法はある。ソールバルグ首相(保守党)は、自身のフェイスブックで、これまで政界での女性進出を後押しした2人のノルウェー人女性に感謝の意を示した。その2人は、現ノルウェー・ノーベル委員会のカーシ・クルマン・フィーべ氏(元・保守党党首)、ノルウェー初の女性首相となったグロ・ハーレム・ブルントラント(労働党)だ。
女性優遇政策に非積極的な与党も
対照的に、国会に座る政党の中では最も右寄りとされる進歩党の大臣たちは静かだった。進歩党は、国が介入した女性を優遇するクオーター制などには消極的で、党の政策として、ジェンダー平等の推進に貢献してきた平等オンブッドマンの廃止を求めている。子ども・平等大臣であるソールヴァイ・ホルネ氏(進歩党)も、自身のSNSでは女性の日については言及しなかった。
まだ壊せない、ガラスの天井
筆者が取材テーマにかかわらずノルウェーでインタビューをしていると、「この国ではまだまだ男女平等が実現できていない」とする声を頻繁に聞く。「リーダーの割合や給料に、男女で格差がある」というのだ。この国にも、まだまだガラスの天井を割ろうと必死にもがく女性たちがいる。
我々が戦っているのは、ガラスではなくコンクリートの天井か?
アフテンポステン紙に対し、ヘッレランド文化大臣(保守党)は、ノルウェーのスポーツ界におけるトップは、81.8%が男性だと指摘。「ノルウェーは平等大国だと思われているが、スポーツ界がそうではないことが悲しい。この世界では、天井はガラスではなく、吹き飛ばせないコンクリートのようだ」と語る。
女性起業家の応援に皇太子妃が駆け付ける
ノルウェーデザイン建築センター「ドガ」では、この日、女性起業家を後押しするための授与式が開催され、メッテ・マーリット皇太子妃やオスロ市長(女性)も参列した。主催者は産業・漁業省と、ノルウェー産業や起業家を支援するイノベーション・ノルウェー。CEOのアニータ・クローン・トローセット氏は、国内を代表する女性社長で、多くの女性たちの社会進出の支援に力を注いでいる。
優勝者は5人の子どもを持つ36歳の母親
優勝したのは、溶接や材料工学を専門とするエンジニア会社「FeC」の創始者であるカトリーネ・モルヴィーク氏(36)。FeCのプロジェクトに取り組み始めたのは2014年、「受賞できて嬉しい」と式典の後に取材で語る。「起業家である限り、ほかのノルウェー人のように夕方には帰宅するという働き方は難しい」と話す。ノルウェーでは16時前後には帰宅するビジネスマンが多い。「夜も、朝も、週末も仕事のことを考えてばかり。休暇はとれない」と笑う。
女性として進出するうえで、周囲の男性からの理解も必要となるが、そのためには「自分の仕事に信念をもつ」ことが大事だと話す。同氏は5人の子どもをもつ母親でもあるが、「幼稚園探しは困難ではなかった」と振り返った。
ノルウェー統計局SSBによると、ノルウェーでの起業家で女性が占める割合は30%、リーダー職につく女性は35.8%。その一方で、1~5才の子どもで幼稚園に通う割合は90.2%と待機児童は少ない。男性の68.2%が一定期間の育児休暇を父親に割り当てる「パパ・クオーター制度」を全て消費している。
Photo&Text: Asaki Abumi