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北欧版スタバの進出と小さな八百屋の撤退、なぜノルウェー人は悲しむのか。進む都市開発の裏で消える店たち

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
閉店し、カラフルな野菜や果物が消えた八百屋 Photo:Asaki Abumi

オスロ各地には、移民である住民が家族経営をする小さな八百屋が至るところにある。スーパーよりもお手頃価格。法律規定で大型の飲食店がクローズする中、小型店なので日曜日も営業。スーパーやコンビニでは取り扱っていないアジア食材も手に入るため、地元民の冷蔵庫に豊富なバリエーションを提供している。

首都オスロにあるお洒落なグリーネルロッカ地区には、個性的なカフェやヴィンテージショップが立ち並ぶ。

Photo: Asaki Abumi
Photo: Asaki Abumi

このエリアの大通りにあった一軒の八百屋。「移民の店」ともいわれていた「シュルタン」が、2月末を最後に、静かにひっそりと閉店した。

家賃200万円。大家の本意は?

24年間も地元で経営していたシュルタンの閉店理由は、高騰した月額家賃「約200万円」。

そして、閉店後の土地に新たにオープンするのは「北欧のスタバ」とも例えられ、今やオスロ市内だけでも店舗数は20店舗を超えるスウェーデン発のカフェチェーン「エスプレッソ・ハウス」だ。このことが、今、一部の市民をいらだたせている。オスロで土地勘のある者なら、このことに眉をひそめる人が多いということに、驚く人はあまりいないだろう。

「経済力と破壊力のある外国の大型チェーンが、小規模小売店をその土地で存立不可能にさせる」。この現象を嫌う人が、ノルウェーには多いという印象を筆者は受けている。スターバックスの進出が歓迎されやすく、大きなニュースになりやすい日本と異なり、このような現象はノルウェーでは否定的に捉えられやすい。

大型チェーンのほうが売り上げが高く、国にさらなる税金をもたらす。それでも、小さな店が地道に頑張る光景を好む人が、意外とこの国には多いのだ。外国チェーンの拡大は、個性的なグリーネルロッカ地区のこれまでの風景を壊す。そして、進出をやめないエスプレッソ・ハウスは、すでに徒歩約5分のところにも別店舗がある。エスプレッソ・ハウスが増加することは、周囲の小さなカフェを経営難にする可能性が高い。

オスロの地元情報を多く届ける全国紙アフテンポステン紙がこの閉店騒ぎを大きく取り上げ、地元民や土地の経営者たちは一斉に抗議の声をあげた。筆者の周りでも、この出来事を悲しいと思った人が多かったようで、フェイスブックに反対の声を投稿している人が多く驚いた。

このようなオスロの都市開発は悲惨な状況であるとして、政治家が小型店の維持に積極的に介入するべきだという声もでている。エスプレッソ・ハウスの経営者に対して、小型店を追い出すようなビジネスモデルはやめるように懇願する著名活動には、約2000人以上がサインをしている。「あなたの仕事はお金を稼ぐことなのでしょう。でも、私たちはH&Mやスターバックスがない、この土地が好きなのです」。

それでも、チェーン拡大は止まらないだろう

残念ながら、それでもこの現象はオスロでこれからも続くだろう。コーヒー文化のレベルが高いとされているオスロでは、スターバックスが店舗拡大に苦戦している。この時期をチャンスと捉えるエスプレッソ・ハウスが、進出拡大のスピードを落とすことは考えられない。なにより、H&M、マクドナルド、エスプレッソ・ハウスなど、アメリカやスウェーデンのチェーン店が増加し続ける理由は、市場を支える別の消費者がいるからだ。

お茶をしたくなった時に、あなたが行こうと思うカフェは?

買い物をする時に、行こうと思う店は?

レトロカフェの店長 Photo: Asaki Abumi
レトロカフェの店長 Photo: Asaki Abumi

シュルタンから徒歩約4分、エスプレッソ・ハウスから約6分のところに、小さな可愛いカフェ&ヴィンテージショップ「レトロリッケ・カッフェバー」がある。筆者が撮影した『ことりっぷ 北欧版』の帯表紙にもなっている店だ。この土地で、経営状態は楽とはいえないが、地道にコツコツ営業している。グリーネルロッカの典型的な小型店ともいえる。

かつて、店長のトーニェ・ファーゲルヘイムさんは、エスプレッソ・ハウスが拡大していることを嘆き、こうつぶやいた。「最近はカフェチェーンに行く人も多いけれど、この店のような小規模経営のユニークな店に、もっと地元の人がきてくれるようになれば。コーヒーを飲みたいと思った時に、今一度ふと考えてみてほしい」。

急激な都市開発が進むオスロで、静かに消えていく小型店。数年後、グリーネルロッカはその姿をすっかりと変えているかもしれない。この現象は、オスロ各地で広がりつつある。

シュルタン閉店に疑問の声をあげた「ユニーク」 Photo:Asaki Abumi
シュルタン閉店に疑問の声をあげた「ユニーク」 Photo:Asaki Abumi
カフェチェーン店の目の前で経営する中古店 Photo:Asaki Abumi
カフェチェーン店の目の前で経営する中古店 Photo:Asaki Abumi
大型店と小型店。どちらのカフェにいく? Photo: Asaki Abumi
大型店と小型店。どちらのカフェにいく? Photo: Asaki Abumi

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Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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