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「難民にとって魅力のない国に」、ノルウェー政府が追加支出。受け入れを厳しく

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
会見する財務大臣(左)と首相(右) Photo:Asaki Abumi

2016年度の難民支出は?

31日、ノルウェーの2016年度の国家予算案の追加要綱が発表された。「難民支出」ともいわれており、ここ数か月で急浮上している難民問題対策に緊急に対応したものだ。アーナ・ソールバーグ首相は、石油収入からさらに追加で12億ノルウェー・クローネを充てるなど、合計で95億ノルウェー・クローネを難民対策として予算案に追加することを記者会見で発表した。資金は宿泊施設、難民申請手続き、子どもへの特別ケアなど、国内での幅広い難民支援業務に割り当てられる。

来年は難民数 3万? 12万?

「欧州は第二次世界大戦後以来の重大な局面を迎えている」と会見で切り出した首相は、ノルウェーが難民問題に加えて、石油価格の下落や失業率の増加の社会問題を抱えていることを指摘。2015年に3万3千人、2016年にも3万3千人の難民が来ると仮定して見積もられている。しかし、ノルウェー政府からの予算案資料によると、国営警察移民局と移民監理局は、来年度はノルウェーへの難民数は最高5~12万人となる可能性も否定できないとしている。

他国よりも魅力的と難民に思われてはいけない

移民・難民に当初より否定的な財務大臣 Photo:Asaki Abumi
移民・難民に当初より否定的な財務大臣 Photo:Asaki Abumi

「一定以上の数の難民が、受け入れ国としてノルウェーを目指すような手厚すぎる待遇をすることはできない」と力強く断言したのはシーヴ・イェンセン財務大臣だ。ノルウェーは難民対策の支援に当然ながら貢献するが、母国での問題が改善した場合は本国送還させること、難民がノルウェーでの永久ビザや国籍所得までに必要な期間の延長、家族の呼び寄せを難しくさせるなどの条件案を新たに追加した。

移民・難民に否定的な進歩党が支持を伸ばす

首相が所属する保守党は、難民の受け入れに対してはまだ寛容な部分があるが、財務大臣が党首を務める進歩党は、ノルウェーで最も移民と難民に厳しい右翼政党だ。本音では、難民を受け入れるどころか、「支援金は送るので、国民の税金と福祉サービスを使おうとする移民や難民には、これ以上来てもらいたくない」、とするような発言をする政治家が多い。

Photo:Facebook Fremskrittspartiet FrP
Photo:Facebook Fremskrittspartiet FrP

進歩党の公式フェイスブックのページでは、追加案の記者会見前日に「難民の波を理由に、普通の人々の福祉の恩恵がカットされることを、私たちは絶対に受け入れない」という投稿をした。

平等国であるノルウェーでは、進歩党の政治家の発言は差別的とみられることが多い。しかし、事態の予測不可能な難民流入において、長期的な問題点や影の側面を堂々と公言する数少ない政党でもある。「移民や難民に反対ではないが、自分たちの生活にどう影響するのか」と、不安を感じる人々からの支持を集めつつある

ヴォット・ランド紙の報道によると、28日付の最新の世論調査では、保守党が24.3%(2.3%増)、進歩党が15%(2.6%増)と大幅に支持を伸ばし、連立野党とあわせると49.2%を占めている。

野党の大部分は支持率を落としたが、これには2019年までにオスロ中心地をカーフリーにするなどの、緑の環境党を筆頭とする急進的な左派政党の政策に戸惑いを隠せない有権者の動きも反映しているとみられる。

ハフィントンポスト「2019年オスロ中心地の車禁止計画で議論が過熱化」

野党からの批判を受けて、各党首との話し合いを予定

今回の難民支出予算のために、他国への開発援助資金枠から42億ノルウェー・クローネを引き出すことも発表されたが、野党や慈善活動団体から批判がでている。

熱帯雨林の保護資金や貧しい子どもたちへの支援資金として使用されるはずだったのものが、ノルウェー本国での難民支援対策に使用されるということは、「開発援助資金の大部分を貧しい他国ではなく、ノルウェーがノルウェーに割り当てる」ということになり、「自分たちで支払うはずの支援金の請求書を、貧困国に送りつけている」と、現政権と連立しているキリスト教民主党などが非難した。

難民問題は協力体制で取り組む必要があるとし、首相は2日(月)に各党首を招き、話し合いをする方向で調整している。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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