「豚の石油貯金箱」を初めて壊した財務大臣?石油依存から抜け出せないノルウェー政府
2016年度の国家予算がノルウェーの連立与党によって7日に発表された。原油安、失業率の増加などの経済悪化に伴い、過去最大となる1940億ノルウェー・クローネが石油基金から引き出される。
世界金融危機の時期を含む、ストルテンベルグ前政権が8年間で使用した以上の石油基金を、ソールバルグ現政権はたった3年間で使い果たすことになる。
石油はいつかなくなる。未来の世代のために残されている石油基金に着々と手をつけはじめるということは、景気の雲行きが怪しくなっていることを象徴している。
首相を筆頭とする与党は、「国民のためのよりよい国家予算概要」と堂々と発表したが、「富裕層が得する税制度」などと野党は批判的だ。国会議事堂や記者会見では、厳しい姿勢の野党と報道陣の姿勢が明確だった。
豚の貯金箱に初めて大穴を開けた財務大臣?
国家の石油基金のことを、現地メディアは「豚の貯金箱」と形容するようになった。記者会見で、シーヴ・イェンセン財務大臣は、「我々報道陣はあなたのことを、“豚の貯金箱に穴を開けた初の財務大臣”と言っていいのだろうか」と記者に問われた。しかしながら、その表現は正しくないと大臣は否定。国会での演説でも、石油にはまだ希望があり、頼れる資源という立場を明確にした。
ノルウェーはいつまで石油に依存するのか?
9月の統一地方選挙の与党大敗では、石油依存をやめ、環境に優しい緑の政策を主張する少数政党・緑の環境党(MDG)が大きく支持を伸ばした。地方選挙期間中は、全政党が「緑の政策」という言葉を強調していた。
ノルウェー政権に「緑」の激震が走る 緑政策と難民問題が影響した地方選挙
その結果をふまえた予算計画が期待されていたが、道路の整備支援増加、反対に鉄道への予算削減、石油とガス開発のためのさらなる支援増加など、環境問題を問題視しているとは言い難い内容だった。環境派は、空気を汚染する車が走る道路開発よりも、自転車や公共交通機関の整備の促進を押している。
環境団体から痛烈な批判
イェンセン財務大臣の妹であるニーナ・イェンセン氏は、世界自然保護基金 WWFノルウェーの事務総長を務める。姉妹でありながら、180度違う立場に立っており、その言葉は現地でも大きく報道される。
環境面において「今までで最悪の国家予算」と、環境問題を深刻に捉えていない、姉の現政権に大きな警告を鳴らす。
与党「今までで最も緑な国家予算だ」、野党「緑のレベルとは程遠い」
野党である緑の環境党(MDG)、連立政党ではあるが自由党(V)などは、「緑」という言葉の捉え方が、現政権を率いる保守党(H)と進歩党(Frp)とは、根本的に違うようである事をあらためて認識した。最大規模で引き出される石油基金が、環境問題改善に積極的に活用されていないことに、いらだちを隠せない環境派は多い。
ティーネ・スントフト(保守党)氏は、環境大臣という立場にありながら、「環境の顔」としてのイメージが浸透していない。来年度の予算案に対して、緑の環境党(MDG)の党首ラスムス・ハンソン氏から「恥ずかしい予算計画」と国会演説で批判されたが、「恥ずかしくはない。良い環境法案を我々は提出している」と国営放送局を通じて言い返した。
国営放送局を含め、ノルウェーの報道機関は環境問題に敏感だ。この点に関しては、現政権に対して批判的な報道姿勢をとる傾向がある。今回の予算発表後、環境面においてプラスに評価している国内記事はまず見当たらなかった。環境やグリーンという言葉が、政治の争点となっている国の風潮を、現政権はどれほど深刻に捉えているのだろうか、そのような印象を筆者は受けずにはいられなかった。
Photo&Text:Asaki Abumi